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おやゆび姫
里帰り
しおりを挟む「リセ、リセ?」
誰かが私を……いやいやアンネリーゼを呼んでいる。私はポワンと欠伸をし両目を擦った。
「やれやれ、失礼な娘だね。ようやく再会できたのに大欠伸とは」
「…………あ」
カウチに座るサラサラの金髪に翠の瞳をした超絶美型が呆れたように私を眺めている。が、私はそれには答えずに周りを見回した。
「私の部屋だわ……」
というかアンネリーゼの部屋だけど。
「正確に言うと、元お前の部屋だな」
「元……?」
そうか……と呟いた超絶美型は私が座っているソファの隣に移動し腰をおろした。
「兄さま……?」
「兄さまのことは思い出したんだね?」
そうだ。超絶美型になるであろうと確信しちゃうくらい美しい少年だった兄さまは、路線を外すことなく予定通りクール系超絶美型へと変化していた。でも私が知っている兄さまよりも随分と大人っぽい……というか絶対に大人だよね?
「兄さま……今おいくつ?」
「会いたかったも何もなく、最初に聞くのが俺の歳か。うん、間違いないな。お前はうちのリセだ」
「それで?」
「益々うちのリセだね。俺は23、リセは自分がいくつかわかるか?」
私はチラッとだけ上を見上げ、すぐに兄さまに視線を戻した。
「わからない。でも兄さまとは5つ違いだから……18なのかしら?」
「いや、リセの誕生日はニ月先だから。お前は17歳だ」
私は思わず顔をしかめた。デボラさんには言わなかったあのリードとの経緯の中で私は13歳になっていた。でもそれ以降はプッツリと夢が途絶えてしまったんだけれど。
空白の期間は5年近くにもなっていたなんてどういうことだろう?
「混乱するのも無理はないよ。少しずつ説明していこうね」
「待って兄さま!」
そう言ったものの私の口からは続く言葉は出てこなかった。隣に座るのはアンネリーゼの兄さまであって中の人の私にとっては超絶美型でしかない。冷静に振る舞いつつ無事戻った妹を見て安心しているこの超絶美型は騙されているようなものなのだ。
「大丈夫。記憶が戻りきらない間は完全に馴染まないだけだから。心配いらない、お前はリセだよ。リセとして生まれてきた正真正銘のアンネリーゼだ」
「は?」
何だこの超絶美型?何かやけに知った風な口を叩くけれどアンネリーゼの中の人は別人格なんだよ?大丈夫でもなけりゃ心配しかないよ!こんなこと、正直に打ち明けてなんだかんだで魔女だとか言われたりする可能性ってないの?ゴミ集積場でメッタ刺しで殺されたのに、またここで火炙りなんて絶対にいやなんだけど。
ブワッと滲んだ涙をどうにかしようと私は必死に瞬きを繰り返した。それでも涙腺は思い通りにコントロールできなくて私の手にポタリポタリと雫が落ちてくる。兄さまは痛ましそうに眉を寄せて私を抱き寄せた。
いや、超絶美型が、だよね。
それなのに驚きもしなければ拒否しようとも思わずに、疑問に思いつつメソメソ泣きながら当然のようにヨシヨシされている私は何?
私は超絶美型を見上げた。夫の裏切りに疲れ果てたとはいえ私だって女の端くれ、イケメンは大好物よ?にも関わらず超絶美型に抱きしめられながらトキメキの一つもないなんて。
「リセが戸惑うのは当たり前だ」
う、それはちょっと後ろめたい。私の今最大の戸惑いはあなたの顔面偏差値の高さに由来するんですよね……。
「父さまも母さまもリセに伝えたことはないそうだ。自覚が無いならその方が良いのではないかと。お前はいずれ家を離れて行くのだからね」
「……はい?」
「リセ、お前は燕だよ」
「…………はい?!」
お前は燕って何?ねえそれ何?若い燕……いんや、あれはヒモみたいな男のことよね?じゃあ燕って何?
「何のこと?」
結局私は単刀直入に尋ねた。だって、お前は燕だなんて言われてなるほどそうでしたか!なんて納得する人、いる?
「燕のように渡りをする魂の持ち主」
「渡りを……する……魂……って…………」
転生ってことかね?
「そう、渡りをする魂だ。元の肉体が滅んだ後お前の魂はここに来て新しい命を与えられた」
転生ってことだね?
「門外不出の秘密ではあるが、どういう訳かうちの家系では時折そんな赤ん坊が生まれてくる。リセの前に生まれたのは我々の祖父の姉で母さまの伯母さんだそうだ」
ちなみに父さまは婿養子である。
「どうして燕だってわかるの?」
「言葉を喋るようになると不思議なことを言い出すんだよ。例えばその大伯母さんは何百人もを乗せて空を飛ぶ乗り物に乗った事があると言い出して気が付かれたそうだ。魂に残った記憶が浮かび上がって来るんだろうな。成長するにしたがって高熱を出したとか溺れかけたとか、何かしらのきっかけで元の自分が何者であったのかを思い出すらしい。大伯母さんは学院の卒業パーティで公爵家の跡取り息子から婚約破棄を言い渡されたショックで記憶が戻ったと聞いている」
そりゃコッテコテの転生だね?
「リセは小さな頃から妙に冷めていたり聞き分けが良すぎたりどうにも子どもらしさに欠けている感じがあったから、母さま達は恐らくこれは燕だろうと予想していたそうだ」
超絶美型……いや、兄さまはアンネリーゼに関する説明を始めた。
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