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おやゆび姫

疑問

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 デボラさんが号泣している。ついでに激怒している。そして私に危害を加えることのないように部屋の隅に移動して泣き喚いていらっしゃる。相変わらずの配慮に感謝しかない。

 「可哀想に……本当に可哀想に。貴女を苦しめた奴らを全員踏み潰してやりたいわ!」

 私の話を聞いて激おこなデボラさんの踏み潰すという発言はできそうなできなさそうな、いやいや、実現は不可なんだけど湧いてくるイメージがリアリティ高めでなかなか物騒だ。

 「で、今アイツは何をしているの?夢に会いに来たのはお兄様だけなんでしょう?」
 「あーそれがですねぇ……わたしのことは兄に丸投げして自分は相変わらずエレナ様と仲睦まじくお過ごしだそうですよ」
 「貴女が居なくなったっていうのに?」
 「えぇ。それでエレナ様がますます恋人気取りなんですって!」
 「うわぁ、嫌なオンナ」
 「エレナ様といえばね、わざわざオードバルからお針子さんを呼んで私たちのお式に参列する際のドレスを仕立てているんですけれど、なんとお色がうっすーい、そりゃもううっすーいうっすーいピンクで。それを見たリリア達が『いやそれほぼ白なんで!』ってカンカンに怒っているんですよ!そりゃ怒りますよねぇ?何なんでしょうね、あの王女様?」
 「なにそれ?信じられない!」

 ……とまぁこんな感じでたっぷり半日はガールズトークに明け暮れた。そして続きましてはの魔法陣で転送?転移?されてきたあれやこれやをお披露目。寝間着で転移させられたわたしに着替えが無くては不便だろうって兄さまと魔法使いが魔法陣のテスト運用も兼ねて送りつけて来たのだけれどそれにしちゃ凄い枚数で、しかも必要ないのなんて明らかなのにプリンセスラインのドレスまで。だけどデボラさんから見れば完璧な作りのミニチュアだもん、ときめいておメメがハートになっちゃうのは不可抗力だよね。初日に活用したあの虫眼鏡で宝石の飾りが付いたキラッキラのハイヒールを観察しながら身悶えるデボラさんは本当に可愛らしい。

 これらの転移の話が出たときにお世話になったお礼にデボラさんのドールハウスを充実させるアイテムとして残していきたいと頼むと、兄さまは快く認めてくれた。きっとそれで気を利かせてドレスまで揃えてくれたんじゃないかな?わたしがおやゆび姫になったらしいと聞いた兄さまは無事を確認するまで生きた心地がしなかったそうで、気遣いの塊みたいなデボラさんには心底感謝しているのだ。

 だけど残念ながらこんなことばっかりしている訳にもいかない。楽しいけど。凄く楽しいんだけど。でもこの先どうしたら良いのか一向に思いつかなかったのに突然来週戻ります!ってことになって、それについてもそろそろ話し合いが必要なんだよね。

 「本当に帰るの?あんなに辛い思いをしたのに……なんだか私、貴女を帰すのが不安なのよ。それに帰ってどうするかまだ何も決めていないんでしょう?」
 「そうですね。初めは妻を裏切るようなクズ、三行半を叩きつけてやる!なんて意気込んだもののねぇ。実家の家族だけじゃなくて、領民を守る責任だってあるでしょう?我々の出方次第では沢山の人々を路頭に迷わせてしまう。もしそんなことになったら申し訳なくて一生罪の意識に苛まれちゃいますもの。だから王室を敵にすることなくこの状況から抜け出す方法をどうにかして考えないと。それに先ずは宣戦布告をしてやりたいんですよ、あのクズに!」
 「クズって……王太子様に?」

 私はこみ上げてくる不快感に目を細めた。

 いくら書類の上での夫婦だからってわたしは王太子ジークフリードの妻であり、王太子妃になった責任を果たさなければと精一杯努力してきたのだ。貴族の娘なのだからいずれは両親みたいに親の決めた愛情なんて欠片もない相手と結婚するのは仕方がないにせよ、本当なら恋に恋するお年頃なのにひたすら公務と執務とお勉強に明け暮れた私の青春。

 それなのに、留学して勉学に励んでいた筈のアンタは何やってたんだって!

 「あのね、デボラさん。私、支配されていたみたいなんです。もう逃げることなんてできない、どんなに辛くても耐えるしかないんだって。あ、リセじゃなくてその前の刺し殺された私がです」
 「……貴女、殺されちゃったの?!」
 「えぇ、夫の不倫相手に何度も刺されて。怖くて痛くて物凄く苦しかったのに段々何にも感じなくなって目の前が暗くなって。死んだなって思ったら……あ、いえ、実際そこで死んだんでしょうけれどとにかく次に気がついた時にはチューリップの蕾の中だったんです」
 「そうだったのね……」

 そのままデボラさんは口を閉じた。それなのに生まれ変わってもまたこんな目に合わされているなんて……内心そんな風に思っているんだろう。

 「良かったら聞いてくれませんか?生まれ変わる前の私のことを」

 なかなかショッキングな告白だったらしくデボラさんは絶句しながらもぱちくりと承知の瞬きをしてくれたので、私は話し始めた。

 私が刺し殺されたあの日までの出来事を。
 

 
 
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