王太子様、魔女は乙女が条件です

くまだ乙夜

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【ゆるネタ番外編】 魔女の日常

番外編 宮廷魔女の日常 ~好きな子はいじめたい方の王太子さま~

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 『それ』のきっかけはささいなことだった。

 サフィージャがまたクァイツに断りもなく勝手にエルドランと楽しく談笑してきたらしい。
 そのことを知ったクァイツがチクリと言うと、彼女はこちらが思っている以上に後ろめたく思っていたらしく、ご機嫌をうかがうような態度を取ってきた。

 さては何かあったのか。
不安にかられ問いただしたが、何もない、と言う。うそのつけない彼女なので、おそらくそのこと自体は本当だろう。
 が、なぜか彼女自身がペナルティを与えてほしがっているようだったので、それならば、ということで、『それ』を駄目元でねだってみたという――ただそれだけのことだった。

 はじめはもちろん彼女もおどろき、『それ』を拒絶した。
 が、クァイツがことさら傷ついたことを強調して訴えてみると、元来お人よしのケがある彼女は罪悪感を刺激されたらしく、黙り込んだ。

 こうなってしまったらもうクァイツの思いのままである。
 うまいこと言いくるめてやると、彼女はとうとうなみだ目になった。

「……なあ、ほんっとーにやらないとだめなのか?」

 サフィージャが顔を真っ赤にしながら、上目遣いにこちらをにらむ。
 その顔があまりにもかわいくて、クァイツはなんだかゾクゾクしてきた。

「だめです。許しません」

 隠し切れないぐらいわくわくしているクァイツの返事に、彼女は真っ赤に火照った顔で、困ったように視線をうろうろさせた。
 その顔が悪い、とクァイツは思う。
 なぜかいつもその困った顔がこちらの琴線に触れてくるのだ。

 サフィージャは困っている。
 「いいじゃん、やっちゃえ」と、「やっぱ無理」を行ったり来たりしているようだ。

 いやだ困ると散々言いつつ、目に涙までためながら、結局サフィージャはクァイツに負けて『それ』を手に取った。

 クァイツは笑いそうになるのを必死にこらえて、怒っているふりを続ける。

 本当に嫌がっている彼女には気の毒な話なのだが――
 恥辱に震える表情ときたらない。

 かわいい。
 本当にこんなにかわいい女性がいていいのかと思うぐらいだ。

 もう『それ』のことは置いておいて、とりあえず襲いたくなってきた。
 しかしこれはサフィージャの罪悪感を晴らしてやるための贖罪だ、クァイツとしても辛いところだが、心を鬼にして完遂を強要するよりあるまい。
 これは彼女のため、そう、彼女のためなのである。
 決してクァイツが半泣きのかわいい顔見たさに強いているわけではない。
 ないったらない。

 ひそかに興奮しているクァイツを横目に、彼女はするすると服を脱いで、『それ』を身に着けた。

 地味な黒のロングワンピースに真っ白なエプロンを身に着け、髪をまとめてヘッドドレスを結ぶ。

 使用人が着るお仕着せの――いわゆるメイド服。
 しかも頭部には獣の耳がついている。
 猫耳メイド服の姿になると、サフィージャは、今にも死にそうな顔で口を開く。

「ごっ……ごしゅずっ……」

 噛んだ。
 それで彼女はぶるぶると小刻みに震えはじめた。
 いっそ殺せ、と目が言っている。

 もちろんクァイツは許してやるつもりなどさらさらない。
 にこやかに、無言のうちに、先をうながす。

 サフィージャは痛いやら恥ずかしいやら情けないやら、という表情で、とにかく後を続けた。

「ご主人様、おっ……おかえりなさい……」

 サフィージャはそこでつっかえた。

「セリフが違うのでは? 『おかえりなさい』……なんでしたっけ?」

 クァイツがつっつくと、彼女は『あとで殺す!』と言わんばかりに、クァイツをにらみあげた。
 しかし真っ赤な顔でぷるぷる震えている美女ににらまれたって怖くもなんともないばかりか、より一層愛らしさが強調されるだけである。

「お……お帰りなさいにゃん! ごっ……ごほう……ごほ、ご奉仕、すっ……」

 サフィージャはそこで、うっ、とのどをつまらせて、顔を手でおおった。

「だめですよ。泣き真似をしたって許しません」
「も、も、もういいだろ……?本当に反省したから……もう……」

 彼女、見た目はいかにも強気な印象の美女なのだが、外見からは想像もつかないほど照れ屋だ。
それはもう恥ずかしそうに、弱々しく言葉を濁す。
 その倒錯的な絵図に、クァイツはもうがまんができずに笑み崩れた。
 かわいいやらおかしいやらで腹がよじれそうになり、笑われていると気付いたサフィージャがそれでますます顔を赤くする。

「ひ、ひ、ひどい……ちゃんとクーの言うとおりにしただろ……笑うことないじゃないか……」

 いつものえらそうな態度はどこに行ったのかと思うぐらい頼りなくつぶやく姿に、クァイツはなんだかもう、なんでもいいと思った。

 胸のうちで、ひそかにエルドランに語りかける。

 ――このかわいい人が、私の恋人なんですよ。
 ――後から来た人はお気の毒でしたね。

 クァイツはもうとりあえず、なにもかもを許す気になったので、かわいい猫耳が生えた彼女のつむじにちゅっとキスをした。


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