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【ゆるネタ番外編】 魔女の日常
番外編 宮廷魔女の日常 ~降誕祭と書いてクリスマスと読む~
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クァイツがボールを取ってきた犬のような顔で言ったのは、一月に入ってからのことだった。
サフィージャはしばしなんのことか分からず、きりっとした顔つきの美青年を見つめた。
いつもとろーんとか、ふわーんみたいな顔をしている男なので、そういう顔をしているだけでも違って見える。
「仕事をきちんとやったので、あなたからのご褒美があるはずです」
「……? 何の話だ?」
「あるはずです」
「そんな約束してないだろ」
「絶対にあるはずです」
サフィージャはうろんげに目を細める。
「……何が望みだ」
「あなたのすべてを」
サフィージャは返事に困った。
こいつはいきなり何を言ってるんだ。
うろたえている彼女に、クァイツはたたみかける。
「サフィージャ。あなたがほしい」
照れもせず言い切った世にも美しい男に、サフィージャは、どうしようもなくなって視線を外した。
***
降誕祭。
預言者が聖母から生まれた日を祝う、国教のお祭りである。
また、一年の始まりでもある。
この時期は仕事をしなくていいので、国民もおおはしゃぎしている。
教会の連中もこの時期になると浮かれた国民に引っ張られて、ヘンなことをやりだす。
死刑が決まっている囚人を連れてきて王様にして、さんざん遊ばせたあとに殺したり。
そこらへんうろついている豚をつかまえてきて、司教の冠をかぶせたりするのである。
宮廷魔女もその時期には多少忙しくなる。
異教徒なので降誕祭とはまったく関係ないのだが、お祭りの一環として、王宮内の司牧や司祭たちを追い出し、魔女だけでミサをやるという日があるのである。
筆頭魔女は宮廷づきの顧問司教に成り代わってミサでえらそうに説教したり、ヘンな劇をやったり、あの薄い餅とかを与えたり、王様のひたいに聖油を塗ったりする。
ロバを一日司教に任命したり、囚人を王様にしたりするのと同じノリで始まったお馬鹿行事のひとつらしいのだが、今では立派な伝統行事である。
異国情緒あふれる美女ぞろいの宮廷魔女があやしげな催し物をするというので、国民からはすこぶる大人気だった。
毎年違う趣向を凝らさないといけないので、企画して実行するのは意外と大変だったりする。
「つっかれた……」
サフィージャが自分の部屋で死に体になっていると、ふらふらっとクァイツが入ってきた。
暗闇でもよく光るきらきらの金髪の男がサフィージャを見つけるなり、ひしっとしがみついてくる。
いきなりキスをされて、れるっと舌をねじこまれた。
サフィージャは面食らいつつ、したいようにさせてやってから、ひと息ついたクァイツに聞いてみる。
「……お前、禁欲中じゃないのか」
そもそも国教徒は、日曜と祝日は全面的に禁欲である。
他にもものすごく細かく禁欲の日は定められている。
しかしサフィージャもいちいち覚えていない。
別に破ったからといってペナルティがあるような規則でもないのだが、さすがにこの特別な降誕祭の期間中の王族がはめを外すのはどうなのだろう。この男、言動がゆるふわなので忘れがちだが、一応これでも王太子なのだった。
「もう無理です。限界です。私は耐えました。これだけがんばったのですから、主もお許しになるはずです」
一応これでも王太子……あっれぇー?
サフィージャは不安になった。
この時期の王族が祈り暮らして肉食断ちをし、質素に過ごすのは、国民へのパフォーマンスでもある。
それなのにこれというのは、いくらなんでも問題だ。
「陛下に見つかったらまずいんじゃないのか」
ひとつ言えるのは、陛下に見つかったらものすごく怒られるだろう、ということだった。
慈悲深いと評判の王だが、敬虔な国教徒という側面も持っているのである。
クァイツはハッとするような美貌をとろんと上気させ、切なげにため息をついた。
「あなたがいけないんですよ。あなたが私を誘うから」
すごい言いがかりもあったものである。
「美しくも邪悪な魔女に誘惑されたんです。仕方がありません」
「そうですか、それは仕方ないですね……とでも言うと思いましたか、殿下」
入口から聞こえてきた怒声に、サフィージャは飛び上がった。
すすす、と王太子どのから距離を取り、おそるおそる振り返る。
ぎん! と人を威圧するような鋭い目つきの騎士がそこにいた。
名をザナスタンといい、クァイツから直接拍車を賜りしシュヴァリエどのである。
「殿下。祈祷のお時間でございます」
「いやです。体調を崩しました。私は下がらせてもらいます」
「殿下。お時間でございます」
「今から治療してもらうので、父にはよろしく伝えといてください」
「殿下。お時間でございます」
「い……いいじゃないですか。もう十日目ですよ? 十日も水をやらなかったらどんな花だって枯れてしまうと思いませんか?」
「殿下……!」
わあ大変だなあ。
サフィージャはそっと同情した。
クァイツにではなく、ザナスタンにである。
「殿下……他の日はともかく、今の時期だけは困ります……どうか節制を……」
ザナスタンが苦りきった顔をしていたので、サフィージャもそっと言い添えた。
「王太子どの。私は、仕事をきちんとやらない男は好かん」
「……!」
クァイツは食肉にされる仔牛のように、ドナドナされていった。
***
サフィージャはそこまで思い出して、うーん、となった。
久しぶりであることだし、サフィージャとしても抱かれることに異存はない。
ないのだが、うーん。
真っ赤な光彩の瞳で熱心に見つめてくるクァイツからあえて離れて、サフィージャはとことことベッドに寄った。
どさりとそこに、仰向けになる。
ちょっとこう服のひもなどを引っ張りながら、できるだけかわいらしく言ってみた。
「や……やさしくしてね……?」
クァイツはきょとんとしている。
サフィージャはそのあとが続かず、沈黙した。
……王太子どのがけげんな目でこちらを見ている。
サフィージャはいたたまれなくなってきた。
が、やってしまったことは今さらどうしようもない。
かくしてサフィージャ渾身のご褒美は盛大に滑った。
おかしい。予想していた反応と違う。
この男のことだから、こう言っとけば喜ぶだろう、みたいな気持ちがなかったとは言わない。
なめてかかったサフィージャが悪いと言えばそうなのだろうが、しかし、彼女にしては珍しく積極性を見せた行動でもあった。
ふだんのサフィージャなら絶対こんなことはしないのである。
サフィージャは震えはじめた。
沈黙が重い。いたたまれない。
黙ってないでなんとか言ってよ。
恥ずかしさのあまりプルプルするサフィージャを見て、クァイツは、信じられないことに、少しニヤついた。
「……お、おま、い、い、いま、笑っ……」
「これは素敵なご褒美をいただいてしまいましたね。……ふ、ふふふ」
こらえきれずにニヤニヤするムカつく男の胸を、サフィージャは思い切り叩いた。
「やはりあなたほどかわいい人はいないと、改めて感激しました」
「うるさい。もうお前なんて知らない」
布団をかぶってふて寝しようとするサフィージャに、クァイツがのしかかった。
――こうして降誕祭から始まる大きな行事が終了した。
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