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9.初夜(1)
ミーアが放り込まれたその部屋は、一言で表せば異様であった。
頼りないほど小さな照明のせいで、よくよく目を凝らさないと部屋の様子を見ることができない。そんな暗がりの中にぼんやりと見えたのは、格子のような仕切りで区切られた空間だ。部屋の中にさらに小さな部屋を作ったような、なんとも不思議な造りだった。
そんな薄暗闇に少し目が慣れてきたかと思えば、「こちらにおいで」とリオンに手を引かれ、中央にあるその一画に導かれる。
「り、リオン殿下? あの、ご用事があると聞いてきたのですが、ここは一体なんなのですか? 暗くて、よく見えません……」
「ああ、説明が遅くなってすまない。ここは、私ときみが儀式を行うための部屋だよ」
「儀式……? それを、今からするのですか? わ、私、急に儀式をやれと言われてもできません。後日ではいけませんか?」
「今夜でなくてはならないんだ。初夜の儀式だからね」
初夜、という言葉を聞いて、ミーアの体が金縛りにでも遭ったかのようにぴしりと固まる。
そして、ミーアが動きを止めたその一瞬のうちに、彼女の体はリオンによって床に押し倒された。
「きゃあっ!! なっ、なにを……!」
「すまない、痛かったか? 加減が難しいな」
「せ、説明してください! 初夜の儀式とは、一体どういうことですか!?」
「なんだ、みなまで言わずとも分かってくれると思ったんだが。文字通り、夫婦が初めて夜を共にする……つまり、私がきみを抱くということだよ」
何でもないことのように、リオンはさらりとそう言ってのけた。
ミーアが押し倒された先は固い床ではなく柔らかい寝具の上で、その枕元で光る小さな照明がリオンの顔を照らしている。それは昼間見たのと同じ優しげな笑顔のままなのに、彼の口からは耳を疑うような言葉しか出てこない。
「だ、く……っ? それは、お世継ぎをつくる、という意味で……?」
「ああ。こんなあられもない格好でやってきてくれたのだから、きみも承知の上だったのではないのか?」
「ちっ、違います! 見ないでくださいっ!」
その言葉で今の自分の格好を思い出したミーアは、ばっと両腕で体を隠した。しかし、そんな微々たる抵抗を嘲笑うかのようにリオンは続ける。
「前にも言ったが、私はもう三十歳だ。本来であれば子の二、三人はいてもよい歳だというのに、星のお導きが無かったせいでまだ一人も世継ぎがいない。私だけでなく、陛下もそのことに焦っておられるようでね」
「そ、それは、お聞きしました……ですがっ、父と約束したはずです! 私の気持ちがあなたに向くまでは、待っていただけると……!」
「ああ、そうだな。だが、『気持ちが向くまで』なんていう、不確かな期限を悠長に待っていられる余裕は無いんだよ」
ゆらりと、灯りに照らされたリオンの影が揺れる。
その銀朱色の髪や黄金の瞳は、ソルズ王の血を引く者である証だという。いつ誰に聞いたかも分からないそんな言葉を思い出しながら、ミーアはただリオンの下で硬直することしかできなかった。
「そもそも、きみが私を好いてくれるかどうかなんて分からないだろう? きみの言う通り待った末に、やっぱり嫌です、などと言われても困るからな」
「で……ですが、それではあまりにも……! 父と私を騙したようなものではありませんか! せめてもう少し、互いを知ってから……っ」
「ふふ、すまないね。きみの気持ちとやらを待っている暇など無いと、もう全会一致で決まってしまったんだよ」
その言葉の意味をミーアが理解するより前に、格子の向こうの暗がりから「ほんと、ひどい人ですよねえ」とこの場にそぐわない気の抜けた声が聞こえてきた。聞き覚えのあるその声に、ミーアはこれ以上ないほど目を見開く。
「トガミさん……!? まさか、そこに……っ」
「あー、ばれちゃった。気付かない方がよかったと思いますけどねえ」
「ど、どういうことですか!?」
「ばれたついでに言っておきますけど、ここにいるのは僕だけじゃないですよ。リオン殿下の弟君であるルカ殿下に、宰相やら大臣やら他の側近たち十数人もいます。まあ単なる儀式の見届け人ってやつですから、僕たちのことはお気になさらず」
さあっと血の気が引く。
この格子の向こうにいる十数人もの人間が何を見届けようとしているのかなんて、おぞましくて考えたくもなかった。しかし、目の前にいるリオンは動じることもなく穏やかに笑みをたたえている。
頼りないほど小さな照明のせいで、よくよく目を凝らさないと部屋の様子を見ることができない。そんな暗がりの中にぼんやりと見えたのは、格子のような仕切りで区切られた空間だ。部屋の中にさらに小さな部屋を作ったような、なんとも不思議な造りだった。
そんな薄暗闇に少し目が慣れてきたかと思えば、「こちらにおいで」とリオンに手を引かれ、中央にあるその一画に導かれる。
「り、リオン殿下? あの、ご用事があると聞いてきたのですが、ここは一体なんなのですか? 暗くて、よく見えません……」
「ああ、説明が遅くなってすまない。ここは、私ときみが儀式を行うための部屋だよ」
「儀式……? それを、今からするのですか? わ、私、急に儀式をやれと言われてもできません。後日ではいけませんか?」
「今夜でなくてはならないんだ。初夜の儀式だからね」
初夜、という言葉を聞いて、ミーアの体が金縛りにでも遭ったかのようにぴしりと固まる。
そして、ミーアが動きを止めたその一瞬のうちに、彼女の体はリオンによって床に押し倒された。
「きゃあっ!! なっ、なにを……!」
「すまない、痛かったか? 加減が難しいな」
「せ、説明してください! 初夜の儀式とは、一体どういうことですか!?」
「なんだ、みなまで言わずとも分かってくれると思ったんだが。文字通り、夫婦が初めて夜を共にする……つまり、私がきみを抱くということだよ」
何でもないことのように、リオンはさらりとそう言ってのけた。
ミーアが押し倒された先は固い床ではなく柔らかい寝具の上で、その枕元で光る小さな照明がリオンの顔を照らしている。それは昼間見たのと同じ優しげな笑顔のままなのに、彼の口からは耳を疑うような言葉しか出てこない。
「だ、く……っ? それは、お世継ぎをつくる、という意味で……?」
「ああ。こんなあられもない格好でやってきてくれたのだから、きみも承知の上だったのではないのか?」
「ちっ、違います! 見ないでくださいっ!」
その言葉で今の自分の格好を思い出したミーアは、ばっと両腕で体を隠した。しかし、そんな微々たる抵抗を嘲笑うかのようにリオンは続ける。
「前にも言ったが、私はもう三十歳だ。本来であれば子の二、三人はいてもよい歳だというのに、星のお導きが無かったせいでまだ一人も世継ぎがいない。私だけでなく、陛下もそのことに焦っておられるようでね」
「そ、それは、お聞きしました……ですがっ、父と約束したはずです! 私の気持ちがあなたに向くまでは、待っていただけると……!」
「ああ、そうだな。だが、『気持ちが向くまで』なんていう、不確かな期限を悠長に待っていられる余裕は無いんだよ」
ゆらりと、灯りに照らされたリオンの影が揺れる。
その銀朱色の髪や黄金の瞳は、ソルズ王の血を引く者である証だという。いつ誰に聞いたかも分からないそんな言葉を思い出しながら、ミーアはただリオンの下で硬直することしかできなかった。
「そもそも、きみが私を好いてくれるかどうかなんて分からないだろう? きみの言う通り待った末に、やっぱり嫌です、などと言われても困るからな」
「で……ですが、それではあまりにも……! 父と私を騙したようなものではありませんか! せめてもう少し、互いを知ってから……っ」
「ふふ、すまないね。きみの気持ちとやらを待っている暇など無いと、もう全会一致で決まってしまったんだよ」
その言葉の意味をミーアが理解するより前に、格子の向こうの暗がりから「ほんと、ひどい人ですよねえ」とこの場にそぐわない気の抜けた声が聞こえてきた。聞き覚えのあるその声に、ミーアはこれ以上ないほど目を見開く。
「トガミさん……!? まさか、そこに……っ」
「あー、ばれちゃった。気付かない方がよかったと思いますけどねえ」
「ど、どういうことですか!?」
「ばれたついでに言っておきますけど、ここにいるのは僕だけじゃないですよ。リオン殿下の弟君であるルカ殿下に、宰相やら大臣やら他の側近たち十数人もいます。まあ単なる儀式の見届け人ってやつですから、僕たちのことはお気になさらず」
さあっと血の気が引く。
この格子の向こうにいる十数人もの人間が何を見届けようとしているのかなんて、おぞましくて考えたくもなかった。しかし、目の前にいるリオンは動じることもなく穏やかに笑みをたたえている。
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