略奪は 奪い取るまでが 楽しいの

エイ

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回想:元凶

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「お前のせいで、俺もサークル辞めることになったよ」

 一人になったところを狙って近づいてきたと元カレは、何の前置きもなくそんな言葉を理沙に吐き捨てた。無視すればよかったのだろうが、こちらに非があるような言い方をされてつい会話に応じてしまった。

「なんで私のせい?」
「麗奈がお前に許してもらいたいから俺と別れるって言いだして……俺はそんな理由じゃ納得できないって言ったんだけど、麗奈の取り巻きたちが俺をストーカー呼ばわりしてきてさ。理沙とのことがあったから、他のサークルメンバーも俺の味方になってくれなくて、追い出されるみたいに辞めたんだよ」

 麗奈の別れ話の常套句に自分が使われていると改めて知って怒りが湧く。
 彼が破局したのも、サークルを辞めることになったのもどうでもいい。ものすごくどうでもいい。
 そんなくだらない話をしてきた挙句、こちらのせいにして責めてくる元カレの最低さに心から腹が立つ。

「それ、私のせいじゃなくない? ていうか、自分がしたことが全部返ってきただけじゃない。自業自得」
「いや、だってさ……もとはと言えばお前が嫉妬して麗奈に嫌がらせしたせいだろ。俺は正彼女を守っただけなのに、どうして悪者扱いされなきゃいけないんだ」
「その嫌がらせっていうのだってそもそも作り話だし、悪者扱いじゃなくて私にとってあなたは根拠のない悪い噂振りまくホントの悪者だし」
「作り話なわけねーだろ! だって俺は麗奈から直接聞いたんだからな!」
「妄想に無関係な人を巻き込まないでよ……」
「無関係じゃない! お前は俺の彼女だろ!」
「別れたでしょ。あなたが一方的に人を悪者扱いして振ったのを忘れた?」
「……ああ、なんだ振られたことを根に持ってるのか? お前次第だけど、やり直してやってもいいよ。でもその代わりに麗奈とサークルの奴らに俺のこと取りなしてくれたらまた付き合ってやる」
「なにそれ怖い……どうしてそういう発想になるの。話にならない」
「おい、ちょっと待てって!」

 あまりにも人を馬鹿にした提案で最後まで聞いていられず、話の途中で逃げ出した。
 当然元カレが追いかけてきたが、近くにいた知らない人が不穏な様子を察して間にはいってくれたおかげでそれ以上絡まれずに済んだ。
 こんなことになってもまだ理沙を悪者にしてそのうえ取りなしを頼んでくる元カレに呆れるばかりだ。
 不愉快極まりない邂逅だったが、聞けて良かったと思う点がひとつある。

「やっぱり、麗奈が元凶か……」

 麗奈から聞いたという彼の言葉からして、どうやら嫌がらせというのは麗奈が元カレに作り話を吹き込んでいたようだ。
 辻褄が合わない話も多いのに、それをまるっと信じた元カレが阿呆なのだが、可憐な女の子が涙ながらに訴える内容が嘘だとは思わないのだろう。
 まあ騙されたんだねとは思ったが、元から麗奈の話だけをまるっと信じ、理沙には何も訊かずいきなり別れを告げたのだから、同情の余地はない。
 それからは話しかけられても徹底的に無視した。
 元カレにはその後も付きまとわれ、非難と復縁要請を交互にやられてうんざりだったが、事情を知る周囲の人たちが守ってくれて、それから直接被害を受けることはなく過ごせた。
 そのうち元カレは四年生になって就職活動が本格的になり理沙に構っている暇もなくなったようでいつの間にか姿を見なくなっていった。
 元凶となった麗奈と言えば、その後残った男性たちが麗奈をめぐって争いが続き、まともな人は辞めていってしまったためサークルはまともに機能しなくなり、壊すだけ壊して麗奈はさっさと辞めていってしまった。
 さんざん人間関係をかき回して理沙の平穏も全部壊していった張本人だというのに、麗奈はその後しれっとした顔でまた理沙に話しかけてきて友達面をしてきたのには神経を疑う。
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