略奪は 奪い取るまでが 楽しいの

エイ

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回想:二度あることは三度ある

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「じゃあ百田はもう恋愛しないの? そんなの勿体なさすぎるよ。百田、美人なのにさー」
「美人とか、ナイナイ。昔っから男友達と同じ扱いされてきたくらいだし。もう恋愛とかわかんなくなっちゃったなあ」
「なんだそれ。百田の周りは見る目がない男ばっかりだったんだな」


 にこりと優しく微笑む彼。
 小林幸生は同期たちにも怒ったところが想像できないと評されるくらい、優しい男だった。
 聞き上手で、それまであまり人に言えずにいた過去のトラウマもついつい喋ってしまうほどに人の気持ちに寄り添うのが上手かった。

 そんな男ばっかじゃないぞとあえて言ってくれる彼の優しさが嬉しかった。
 男性を信じられないようになっていたが、信じさせてくれるような人と出会えたらいいなと心のどこかで願っていた。
 この先一生独り身で生きていく覚悟はできていない。
 積極的になれない自分を変えたいという思いと裏切られた時の絶望がせめぎ合っている。
 そんな理沙の気持ちを察したのか、その同期の男性はあの飲み会依頼ちょくちょく食事に誘ってくれるようになり、距離が縮まっていった。

 自分に好意を抱いてくれているらしいというのは態度を見ていればなんとなくわかったけれど、やはり友人以上の関係になることへの不安があり、幸生からのアプローチを気づかないふりをしてしまっていた。
 けれどある時、彼のほうから付き合ってほしいとはっきり告げられた。

「理沙が付き合うことに不安を覚えているなら、その不安を取り除いていきたいって思っている。俺に問題があれば直していくし、こういうところがダメとかあったら頑張って直す。俺、理沙に付き合ってもいいって思ってもらえるように頑張るから」

 誠実でまっすぐな告白に、恋愛に消極的になっていた理沙の心が動いた。

 ――この人なら信じられるかもしれない。

 そう思えたから、過去に起きた出来事を包み隠さず彼に話した。今は疎遠になっている麗奈のことも全て説明して、恋人の心変わりがトラウマになっていると告げると、彼は自分のことのように怒ってくれた。

「その幼馴染、ひどい奴だな。理沙を傷つけて楽しんでいるんだろ。俺はそういう腹黒い人間、大っ嫌いだから、もしその子に会ったとしても元カレたちみたいなことにはならないって断言できる」
「もう麗奈とは縁が切れているし、会うことはないと思うけど……ありがと。幸生なら大丈夫だって信じてる」

 彼はずっと理沙に対して誠実だった。
 アプローチしてきても無理に距離を詰めようとはしてこなかったし、恋愛に消極的なことに対して批判がましいことも口にしない。
 相手の気持ちを大事にしてくれるこの人なら、きっと大丈夫だと思わせてくれた。
 
 今度こそ、幸せな恋愛ができると信じていた。

 それが……。

「わぁ、理沙ちゃんこの会社だったんだぁ~」
「れ、麗奈……? なんでうちの会社にいるのよ」

 ある日、オフィスの廊下でまさかの麗奈に出くわした。
 どうしてここに彼女がいるのかわからず、もしや自分を探してここに来たのかと思ったが、彼女は業者の札を下げていた。

「私、コーヒーサービスの営業なんだぁ。今度からこの会社の担当になったから、挨拶に来たの。でもまさか理沙ちゃんに会えるなんてすごい偶然! 嬉しいな、これからよろしくね」

 オフィスのカフェテリアにあるコーヒーマシンやウォーターサーバーをレンタルしている会社が麗奈の就職先だったらしい。
 月に二回ほど物品の補充とメンテナンスに来る営業に彼女が就いたと聞いて、こんな最低な偶然があるのかと己の不運を呪った。

(まさか、私がいるところを狙って来たわけじゃないよね?)

 本当にそうなら、どんなホラーよりも恐ろしい。
 ぞわっと鳥肌が立つが、さすがに理沙を探し当てて会社に出入りできる仕事に就くなんてありえないと首を振る。
 
 だが、二度と会いたくなかった麗奈にまた居場所を知られてしまった。
 
 絶望で足元が崩れていくような感覚がした。

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