10 / 83
回想:二度あることは三度ある
しおりを挟む「じゃあ百田はもう恋愛しないの? そんなの勿体なさすぎるよ。百田、美人なのにさー」
「美人とか、ナイナイ。昔っから男友達と同じ扱いされてきたくらいだし。もう恋愛とかわかんなくなっちゃったなあ」
「なんだそれ。百田の周りは見る目がない男ばっかりだったんだな」
にこりと優しく微笑む彼。
小林幸生は同期たちにも怒ったところが想像できないと評されるくらい、優しい男だった。
聞き上手で、それまであまり人に言えずにいた過去のトラウマもついつい喋ってしまうほどに人の気持ちに寄り添うのが上手かった。
そんな男ばっかじゃないぞとあえて言ってくれる彼の優しさが嬉しかった。
男性を信じられないようになっていたが、信じさせてくれるような人と出会えたらいいなと心のどこかで願っていた。
この先一生独り身で生きていく覚悟はできていない。
積極的になれない自分を変えたいという思いと裏切られた時の絶望がせめぎ合っている。
そんな理沙の気持ちを察したのか、その同期の男性はあの飲み会依頼ちょくちょく食事に誘ってくれるようになり、距離が縮まっていった。
自分に好意を抱いてくれているらしいというのは態度を見ていればなんとなくわかったけれど、やはり友人以上の関係になることへの不安があり、幸生からのアプローチを気づかないふりをしてしまっていた。
けれどある時、彼のほうから付き合ってほしいとはっきり告げられた。
「理沙が付き合うことに不安を覚えているなら、その不安を取り除いていきたいって思っている。俺に問題があれば直していくし、こういうところがダメとかあったら頑張って直す。俺、理沙に付き合ってもいいって思ってもらえるように頑張るから」
誠実でまっすぐな告白に、恋愛に消極的になっていた理沙の心が動いた。
――この人なら信じられるかもしれない。
そう思えたから、過去に起きた出来事を包み隠さず彼に話した。今は疎遠になっている麗奈のことも全て説明して、恋人の心変わりがトラウマになっていると告げると、彼は自分のことのように怒ってくれた。
「その幼馴染、ひどい奴だな。理沙を傷つけて楽しんでいるんだろ。俺はそういう腹黒い人間、大っ嫌いだから、もしその子に会ったとしても元カレたちみたいなことにはならないって断言できる」
「もう麗奈とは縁が切れているし、会うことはないと思うけど……ありがと。幸生なら大丈夫だって信じてる」
彼はずっと理沙に対して誠実だった。
アプローチしてきても無理に距離を詰めようとはしてこなかったし、恋愛に消極的なことに対して批判がましいことも口にしない。
相手の気持ちを大事にしてくれるこの人なら、きっと大丈夫だと思わせてくれた。
今度こそ、幸せな恋愛ができると信じていた。
それが……。
「わぁ、理沙ちゃんこの会社だったんだぁ~」
「れ、麗奈……? なんでうちの会社にいるのよ」
ある日、オフィスの廊下でまさかの麗奈に出くわした。
どうしてここに彼女がいるのかわからず、もしや自分を探してここに来たのかと思ったが、彼女は業者の札を下げていた。
「私、コーヒーサービスの営業なんだぁ。今度からこの会社の担当になったから、挨拶に来たの。でもまさか理沙ちゃんに会えるなんてすごい偶然! 嬉しいな、これからよろしくね」
オフィスのカフェテリアにあるコーヒーマシンやウォーターサーバーをレンタルしている会社が麗奈の就職先だったらしい。
月に二回ほど物品の補充とメンテナンスに来る営業に彼女が就いたと聞いて、こんな最低な偶然があるのかと己の不運を呪った。
(まさか、私がいるところを狙って来たわけじゃないよね?)
本当にそうなら、どんなホラーよりも恐ろしい。
ぞわっと鳥肌が立つが、さすがに理沙を探し当てて会社に出入りできる仕事に就くなんてありえないと首を振る。
だが、二度と会いたくなかった麗奈にまた居場所を知られてしまった。
絶望で足元が崩れていくような感覚がした。
46
あなたにおすすめの小説
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる