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偽装彼氏計画
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「って、バッカじゃないの⁉ なぁ~にが、彼女の気持ちもわかってやれよだよ! 略奪大好き女の気持なんか知りたくもないわ! ば――――か!」
「理沙、声でかい。さすがに飲みすぎだよ」
萌絵に愚痴を聞いてもらいながらグラスを煽る。
すでに管を巻いている理沙と違い、酒豪の萌絵は終始冷静だ。
彼女は高校からの友人で、当時から麗奈のことを相談していたから、三度目となる彼氏略奪話も親身になって聞いてくれている。
大学は別になったが、たまたま同じビルにある会社に就職できたので社会人になってから毎週のように飲みに行くようになっていた。今、一番付き合いが深い友人だ。
会社の近くの大衆居酒屋は二人のお気に入りで、客も多くにぎやかな店内は愚痴吐きにはもってこいだった。
「あのコーヒーサービスの子でしょ? うちの会社にも来てるから、まー分かるよ。あたしも最初試飲会に行ったけど、男に対する態度と差がありすぎて女子社員みんな引いてたもん。今じゃ試飲会しても男しか集まらないもんね。地下アイドルの握手会みたいな雰囲気になってて気持ち悪いったらないわ」
ぶっと飲みかけのカシスオレンジを噴き出す。地下アイドルというのがあまりにも言いえて妙すぎてもうそれにしか見えなくなりそうだ。行ったことはないけど。
「まさか麗奈に見つかっちゃうとは思わなかったわ……あの子と離れたくて親にも引っ越し先教えないくらい徹底したのに、ホント最悪。昔っから麗奈には嫌な思いばっかりさせられてきたから、もう二度と会いたくなかったのに」
「あー、親同士が割と仲いいんだっけ? ていうか多分さ、会社に現れたのも偶然じゃないでしょ。誰かに理沙の就職先聞いて狙って仕事入れたに違いないわよ。ストーカーされてんじゃない?」
怖いこと言わないでと笑い飛ばそうとしたが、真実味がありすぎて否定できなかった。
思い返してみれば、高校も同じところに行きたいと何度も言われていた。
だから理沙は勉強を頑張って麗奈より上のランクの公立校になんとか入学できたから別れられたが、麗奈は最寄り駅が同じ私立校を選択していたので結局行動範囲がかぶってしまって彼女に見つかってしまったわけだ。
大学も理沙は親から国立のみ、一人暮らし不可の条件を出されていたから選択肢はほぼひとつしかなかった。理沙の家庭事情なら私立大でも行けたから選択肢は多いはずだったのに、同じところに来ているのはさすがに偶然とは思っていない。
「あの子、女友達いないんだよね。周りが全部自分の希望通りに動いてくれる人間じゃないと我慢できないみたいで、女子とはすぐトラブルになってた。私は悪い意味で慣れちゃってたからなあ……唯一の女友達ってことで付きまとわれていたのかな」
「にしては理沙そっちのけでそっこー彼氏奪いに行ってない? ただ理沙が気に食わなくて嫌がらせしたいだけかもよ。なんか逆恨みされているのかもしれないし」
「うえ~……逆恨みかあ~じゃあこれからもずっと嫌がらせされるのかなあ。そしたら私、一生彼氏なんか作れないじゃん」
いっそ麗奈が結婚でもしてくれたら安心できるのだが、これまでのパターンだと幸生とは数か月以内に破局するはずだ。
理沙から奪ったくせに、理沙に悪いからとか罪悪感がとか言い出してあっさり別れている。
彼氏が好きだったんじゃないの? 何がしたかったの??? と不思議でならなかったが、理沙への嫌がらせだと思えばその意味不明な行動にも納得がいく。
「また彼氏ができても、その略奪ちゃんがまた狙いに来るのかと思うと誰とも付き合えなくなるよね」
「えっ、こわ。やだもう一生粘着されるかもとか、絶望しかないんだけど」
麗奈のしたことに対して、何かペナルティを課すのは不可能だろう。
彼氏の心変わりが問題なわけで、麗奈を責めたらむしろこちらが悪者にされてしまう。共通の友達がいるわけでもないし、彼女の痛手になるような材料が何もないのだ。だからこそ、麗奈は理沙に対してやりたい放題しているのかもしれない。
最悪……とつぶやいてうなだれていると、萌絵も深刻そうな顔でビールをちびちびと飲む。
そして少しの沈黙の後、パッと顔をあげてこんな提案をしてきた。
「ねえ、じゃあさ。カモフラ用の偽装彼氏を作ってみたら?」
「って、バッカじゃないの⁉ なぁ~にが、彼女の気持ちもわかってやれよだよ! 略奪大好き女の気持なんか知りたくもないわ! ば――――か!」
「理沙、声でかい。さすがに飲みすぎだよ」
萌絵に愚痴を聞いてもらいながらグラスを煽る。
すでに管を巻いている理沙と違い、酒豪の萌絵は終始冷静だ。
彼女は高校からの友人で、当時から麗奈のことを相談していたから、三度目となる彼氏略奪話も親身になって聞いてくれている。
大学は別になったが、たまたま同じビルにある会社に就職できたので社会人になってから毎週のように飲みに行くようになっていた。今、一番付き合いが深い友人だ。
会社の近くの大衆居酒屋は二人のお気に入りで、客も多くにぎやかな店内は愚痴吐きにはもってこいだった。
「あのコーヒーサービスの子でしょ? うちの会社にも来てるから、まー分かるよ。あたしも最初試飲会に行ったけど、男に対する態度と差がありすぎて女子社員みんな引いてたもん。今じゃ試飲会しても男しか集まらないもんね。地下アイドルの握手会みたいな雰囲気になってて気持ち悪いったらないわ」
ぶっと飲みかけのカシスオレンジを噴き出す。地下アイドルというのがあまりにも言いえて妙すぎてもうそれにしか見えなくなりそうだ。行ったことはないけど。
「まさか麗奈に見つかっちゃうとは思わなかったわ……あの子と離れたくて親にも引っ越し先教えないくらい徹底したのに、ホント最悪。昔っから麗奈には嫌な思いばっかりさせられてきたから、もう二度と会いたくなかったのに」
「あー、親同士が割と仲いいんだっけ? ていうか多分さ、会社に現れたのも偶然じゃないでしょ。誰かに理沙の就職先聞いて狙って仕事入れたに違いないわよ。ストーカーされてんじゃない?」
怖いこと言わないでと笑い飛ばそうとしたが、真実味がありすぎて否定できなかった。
思い返してみれば、高校も同じところに行きたいと何度も言われていた。
だから理沙は勉強を頑張って麗奈より上のランクの公立校になんとか入学できたから別れられたが、麗奈は最寄り駅が同じ私立校を選択していたので結局行動範囲がかぶってしまって彼女に見つかってしまったわけだ。
大学も理沙は親から国立のみ、一人暮らし不可の条件を出されていたから選択肢はほぼひとつしかなかった。理沙の家庭事情なら私立大でも行けたから選択肢は多いはずだったのに、同じところに来ているのはさすがに偶然とは思っていない。
「あの子、女友達いないんだよね。周りが全部自分の希望通りに動いてくれる人間じゃないと我慢できないみたいで、女子とはすぐトラブルになってた。私は悪い意味で慣れちゃってたからなあ……唯一の女友達ってことで付きまとわれていたのかな」
「にしては理沙そっちのけでそっこー彼氏奪いに行ってない? ただ理沙が気に食わなくて嫌がらせしたいだけかもよ。なんか逆恨みされているのかもしれないし」
「うえ~……逆恨みかあ~じゃあこれからもずっと嫌がらせされるのかなあ。そしたら私、一生彼氏なんか作れないじゃん」
いっそ麗奈が結婚でもしてくれたら安心できるのだが、これまでのパターンだと幸生とは数か月以内に破局するはずだ。
理沙から奪ったくせに、理沙に悪いからとか罪悪感がとか言い出してあっさり別れている。
彼氏が好きだったんじゃないの? 何がしたかったの??? と不思議でならなかったが、理沙への嫌がらせだと思えばその意味不明な行動にも納得がいく。
「また彼氏ができても、その略奪ちゃんがまた狙いに来るのかと思うと誰とも付き合えなくなるよね」
「えっ、こわ。やだもう一生粘着されるかもとか、絶望しかないんだけど」
麗奈のしたことに対して、何かペナルティを課すのは不可能だろう。
彼氏の心変わりが問題なわけで、麗奈を責めたらむしろこちらが悪者にされてしまう。共通の友達がいるわけでもないし、彼女の痛手になるような材料が何もないのだ。だからこそ、麗奈は理沙に対してやりたい放題しているのかもしれない。
最悪……とつぶやいてうなだれていると、萌絵も深刻そうな顔でビールをちびちびと飲む。
そして少しの沈黙の後、パッと顔をあげてこんな提案をしてきた。
「ねえ、じゃあさ。カモフラ用の偽装彼氏を作ってみたら?」
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