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本橋圭司
しおりを挟む「おー、ずいぶん出来上がってんなあ。あ、俺ウーロン茶で」
呆れた声で笑いながら圭司が現れた。その姿を見て一瞬ぎょっとする。
ツイストパーマをかけた髪はグレイアッシュに染められて、高校時代には空いていなかったピアスが両耳にいくつもついている。
髪色にも驚いたが、ごつい指輪や派手な時計をしていて、とても堅気の会社員には見えない。
良くてホスト、悪くて裏社会の人間かしらと理沙が驚いていると、それを察した彼が急いで理由を話し始める。
「そんなに引かないでよ。俺、今飲み屋のオーナーやってっから舐められないように派手な見た目にしてんの。親の仕事継ぐために修行中だから、今はこんなかっこだけど別の職種に移ったら真面目な恰好にするし」
「あっ、いや別にいいと思うよ? うちは結構古い体質の会社だから、女子でも明るい髪色とかは注意されるからびっくりしただけ。ごめんね、じろじろ見て」
「圭司はなんの言い訳してんのよ。そんなことはどうでもいいのよ。それより相談があるって言ったでしょ」
注文した飲み物が届くのを待つことなく、萌絵はさっそく事情を説明し始めた。
まず、同期の彼氏を再び麗奈に略奪されたばかりであることと、大学時代の彼も同じように麗奈によって破局させられた話をすると、圭司が納得したように大きく頷く。
「その麗奈って女、高校ん時もお前と裕太を別れさせた奴だよな? まだ粘着されてんの? うっわ、こええ~」
高校時代の彼氏だった裕太は圭司と同じ部活の友人でもあったため、当時何が起きたのか大体知られている。彼氏が理沙の幼馴染に乗り換えたと知った時、彼に怒って説教してくれたのもこの圭司だ。
まあ、その説教は彼の耳に届かず、結局彼は圭司とも仲違いして友達を辞めてしまったのだが。
「そうそう。大学ん時はあんま会ってなかったから知らなかっただろうけど、そこでもその女同じことやらかして、だから理沙も絶縁してたのにまた現れてさあ! またまた理沙の彼氏を誘惑して奪っていったのよ! こんなん絶対わざとじゃん? 理沙の彼氏を奪うことに執念燃やしているから、一生付きまとわれるんじゃないって話してて」
「あー、まあその可能性はある。んで、俺に相談ってなによ? ただの愚痴吐きじゃないんだろ?」
「えっとね、圭司の顔の広さを見込んで、彼氏の振りをしてくれる人を紹介してもらえないかなーと思ってさ」
「ん? 振り?」
「要はサ、偽装彼氏を用意しようって話よ」
訳が分からないといった様子の圭司に、萌絵が先ほど理沙と話し合った計画を説明する。
彼氏の振りをする上で大切なのは、決して麗奈に靡かないこと。
彼女を騙せるだけの演技力があること。
そして計画をうっかり口にしないよう口が堅い人であること。
ある程度女性慣れしていて上手く麗奈を騙せるようなそんな男性に心当たりはないかと訊ねると、圭司は面白そうに笑いだした。
「あー、なるほど。それはいい考えだな。いーよ、それにぴったりな男を紹介してやる」
「えっ! ホント!?」
まさかこんなにすぐ紹介できる相手を見繕ってもらえるとは思わず、理沙と萌絵は二人で手を取り合って喜んだ。
だが理沙と付き合っているという設定が不自然にならないような相手でないと、嘘がばれてしまいそうだし、ある程度魅力的な人でないと麗奈が食いついてこないだろう。
「ね、紹介できるのってどんな人? 麗奈がそっこー奪いたくなるような相手だとありがたいんだけど」
「お? もちろん高スペックのイケメンだっつの。なんたってこの俺だからね」
「「へ?」」
どや顔で己を指さす圭司。
なんと自分が偽装彼氏役を引き受けると言い出したのだ。
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