略奪は 奪い取るまでが 楽しいの

エイ

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Side:圭司8

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 ***


 二人が結ばれるより数時間前――――。


「明日休みなら萌絵も泊まってきゃいーのに。理沙と二人でもベッドで寝れるだろ」
「いやよ。理沙の家ならともかく、圭司のベッドなんかで寝られないわ。男臭くて」
「臭いとか冗談でも言うなよ。傷つくだろー」
「私に圭司きゅんの体臭いい匂い~♡とか言われたくないでしょ」

 酔っ払いのノリで冗談を言い合いながら駅まで二人で歩く。駅まですぐの場所で送るほどでもない距離を歩きながら圭司のほうから水を向けた。

「わざわざ送れとか言い出したのは、なんか俺に用があるからなんだろ?」

 さんざん飲んだ癖にしっかりした足取りで歩く萌絵に気になっていたことを質問する。
 長い付き合いだから言うほど酔っていないと分かるのに、駅まで送れと言い出した彼女の意図を圭司は理解していた。
 恐らく、理沙には聞かせたくない話だろう。一体何を言われるのかと身構えていたら、いきなり尻に蹴りをいれられた。

「いって!」
「こンのヘタレ! まんまと家に連れ込んだくせになんで理沙と微妙な距離になってんのよ! いざとなるとダメダメかこのヤロウ!」
「はあ……? なんだよそのことか? いや理沙が色々大変な時に俺が迫ったりしたら余計に悩ませるだろ。だから俺は」
「それがヘタレっつってんの。アンタはさあ、今まで言い寄ってくる相手としかつきあってこなかったから、口説き方が分かんないんでしょ。今はまだタイミングがぁ~とか言い訳して、逃げてんの。ったく、振られるのが怖いの? このヘタレ」

 何か言いたいことがあるだろうとは思ったが、まさかこんな罵倒だとは思わず返す言葉がない。というかザクザクと図星を刺されて正直へこむ。

 口説き方が分からないというのはまさしくその通りで、今まで相手から言い寄られて付き合うパターンしか経験していなかったと思い至り、距離の詰め方に悩んでいたなんて恥ずかしくて人には言えない。

「ヘタレっつーか、俺なりに理沙のためを思って、今は快適に暮らせる環境を優先したつもりなんだけど……」

 言葉巧みに同居に持ちこんでおいて、いざとなると距離を詰められず親切な友人の立ち位置を崩せずにいた。
 会社のことが落ち着くまでは理沙の悩み事を増やしたくないと慮ったつもりだったが、それも萌絵に言わせるとただのヘタレの言い訳だとばっさり切り捨てられる。

「あのさー、圭司は知らないだろうけど、あの子の自己評価って地面にめり込むくらい低いのよ。家庭環境があんまよくなかったし、あの麗奈って女のせいで男性関係はそれこそ小学校から最悪だったわけで、理沙は嫌われるのに慣れちゃってるの」
「それは……なんとなく分かってっけど」
「いーや、分かってない。理沙はサ、圭司の下心なんて全然気づいてないから、これ以上居候を続けたらいくら親切な圭司でも迷惑に思って嫌われるかもしれない……とか思ってるはずだよ。ただの友達スタンスを圭司が続けているから、理沙は逆に居心地悪くなってきてるんだよ」
「あー……なるほど、そっか」

 理沙の性格を考えればわかることだった。人の好意を当たり前と受け取るようなタイプではないのだから、居候している状況を心苦しく思っていると気づくべきだった。
 負担に思わないよう色々気を遣ったつもりだったが、ただの友達にいつまでも迷惑をかけられないと理沙なら言いそうだ。
 だが今また一人暮らしに戻ったら自分の身が危ないと分かっているはずなのに、出ていく選択をするとは思えない。

「でもさ……俺が好きだって伝えたところで、理沙がそんな気なかったら逆効果じゃね? 元カレのこともあるし、今はそんな気になれないとかあるかもしんないじゃん。それなのに俺に迫られたらもうこの家に住めないとか思い詰めるんじゃないか?」
「うーん……それ、多分だけどさ……理沙アンタのこと好きだと思うよ。今日、私とアンタが話している時微妙な顔してたもん」
「え、まじ? いや、でもそうだったら出て行くことなんか考えないだろ。さすがにそれは萌絵の勘違いじゃね?」
「ばかね、だから分かってないって言ってんの。あの子はねえ、嫌われるのに慣れちゃったから、いろんなこと諦めるのも上手になっちゃったのよ。圭司の家がすごく居心地がよくて安心できても、出て行くべきって思ったらすっぱり諦めて出てくのよあの子は」

 そう指摘されてハッとする。
 圭司としては、理沙に快適な暮らしを提供したことで囲い込んですっかり安心してしまっていた。
 今の暮らしが楽すぎて出て行きたくないと思わせればいい。あの幼馴染に脅威が迫っている状況で、独り暮らしをする危なさを説いて、ここにいることが最善だと理沙自身が理解してくれたら今出て行くなんて選択肢はないと思い込んでいた。
 
 それが間違いだったと萌絵の言葉で思い知らされる。
 友達の親切というには過ぎた行為であることをもっとよく考えるべきだった。ただの友達にどうしてここまで親切にしてくれるのかと疑問に思っていただろう。
 圭司が気持ちをはっきりさせなかったばっかりに、理沙を不安にさせてしまっていた。

「悪い、萌絵。俺なんも分かってなかった。つーかさ、これまで真面目な恋愛とかしてこなかったから、初めてマジになってお前の言う通りヘタレてたんだよな。ごめん。俺、ちゃんとけじめつけるわ」
「うんうん、でもあの子、絶対分かってないから、遠回しに言っても伝わらないわよ。ちゃんと恋愛的に好きなんだってことを全力で伝えなさいね?」
「分かった……っていうかさ、お前理沙のこと分かりすぎじゃね? アドバイスは有難いけど、もう人のことよりもお前自身が恋愛しろよ」
「あっ、その発言はセクハラですぅーはいアウトー。こんなに親切にアドバイスしてあげた仕打ちがこれかー。やってられんわー」
「うわ、失言でしたすんません萌絵様」
「分かればよろしい」

 偉そうに笑っているが、駅で話し込んでいるうちに体が冷えてしまったようで萌絵は寒そうに腕をさすっていた。夜になって冷え込んでいるのに話に夢中でうっかりしてしまった。

「悪い、立ち話し過ぎたな」
「ん、言いたいことも言えたし私は帰るわ。あとは自分で頑張りなさーい」
「あ、ちょっと待て。これ巻いていけ」

 改札へ向かう萌絵に慌てて自分のマフラーをひっかける。
 タクシー代を出すと言ったのだが、金にものを言わすなと叱られたからせめてこれを巻いていけと言って無理やり押し付けた。

 改札をくぐってその背中が見えなくなったところで踵を返し、急いで家へと戻る。送ってくるだけにしては長すぎる時間が経ってしまったので理沙が心配しているかもしれない。
 夜の冷えた空気と萌絵の話ですっかり酔いは醒めていた。

(まさか萌絵から発破をかけられるとは思わなかったな……)

 萌絵の圭司に対する評価は、チャラくて女にだらしない。友達としては楽しいけど彼氏にはしたくない男だと常々言われていたのに、大切な親友の理沙との関係で背中を押してもらえたのは意外だった。
 萌絵に言われなければいろんなことを間違えたまま理沙を失ってしまうところだった。


 自分の気持ちを伝えてこの曖昧な関係を終わらせると萌絵に約束したものの、もし拒まれたらと思うと怖くなる。萌絵はああ言ったが、理沙から男として好かれるか確信が持てなかった。
 振られたらどうしようかなんて心配事、まるで小学生の恋愛みたいで滑稽だ。今更なんて切り出したらいいか歩きながらずっと考えるが、結局何も思いつかないまま家についてしまった。

「……よし」

 迷う気持ちを抱えながら家の扉を開く。
 ドアが開いた音に気付いて理沙が台所から顔を覗かせる。おかえり、と言いながら柔らかく微笑んで迎えてくれる。

(ああ……好きだな)

 心から愛おしいという気持ちが湧き上がって、なぜか少し泣きたくなった。

「ただいま……理沙」

 もう好きだという気持ちを隠さなくていいんだと思うと、我慢がきかなくなってかなり強引にベッドへ連れ込んでしまった。少し冷静になってから最低なことをしたと後悔したが、結果的に理沙も圭司のことが好きだといってくれたので、理沙に悟られないよう心の中で安堵の息をついた。


 その後、好きだと伝える前に抱いてしまった話が萌絵にバレて、散々脳みそ下半身男だのヘタレむっつりだのと散々罵られたが、実際そのとおり過ぎて何も言えなくなるのだった。
 



 ***



―――――――――――――――

いつも読んでくださってありがとうございます。
ちょっと時間的にキツくなってきたんで、この先は不定期更新にさせていただきます。
次に更新した時また読んでくださると嬉しいです。



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