初恋の泥沼

エイ

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これから先のこと

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「お前才能あるよ。ちゃんと仕事になるまで描き続けてみろよ」
「しっ、仕事? 無理だよそんなの……なんの経験もないのに」

 ただの趣味程度のお絵描きが仕事になるわけがない、無理だと言うと望は眉をひそめて怒りだした。

「だから仕事になるくらい本気で取り組めって言ってんだよ。優雅なセレブ妻の暇潰し趣味じゃダメだっつってんの。菜緒はさ、遅かれ早かれ旦那に捨てられるわけじゃん。そん時お前どうすんの? 旦那に従って生きるしかしてこなかったのに、放り出されてどうやって生きていくわけ?」

 あえて目を逸らしていた可能性を真正面からぶつけられ、菜緒は冷水を浴せられたような気持ちになる。

「だ、だったら、趣味で遊んでないで働いたほうがいいってことでしょ? 望くん、矛盾しているじゃない……」

 弱々しく反論すると、そういうことじゃないと言って望は呆れたため息をつく。

「オマエさあ、妻っていう肩書が無くなったら、なんもないじゃん。お前自身、今の自分に何の価値も無いって思ってるだろ? だからさ、まずは自分で自分の存在価値を作れって言ってんの」
「価値、が……無い……」

 望の言う通りだ。唯一の肩書の妻という役割でも必要とされていない。家にも社会にもどこにも必要とされていない、何の生産性もない自分は全くの無価値だ。

「まずはSNSでアップするだけでもいいと思うぜ。自分が描いた絵に反応あったら嬉しいだろ? お前、絵の才能あるよ。自分でやりたいことに全力で取り組んで、死ぬ気で努力して、自分自身で価値を見いだせ」

 男の言葉に菜緒は目をぱちぱちと瞬かせた。
 自分の価値なんて考えたこともなかった。
 彼女のことが無くても、この先菜緒が子どもを産めなければ、夫はきっと菜緒を妻としての価値がないと判断して離婚されるだろう。その時に菜緒にはもう何も残らない。出戻りなど両親が許すはずもないだろうし、離婚したら実家にも帰れない。

(そっか、誰かに委ねるだけじゃ、もうダメなんだ)

 夫も両親にもう菜緒に価値がないと判断するなら、菜緒は自分で自分の価値を見つけてあげなくてはいけない。
 誰かに付き従うのではなく、自分の足で立って自分で判断して、自分で働いて自分で自分を養っていく。そんな道を菜緒はこれから模索していかなくてはいけない。

「でも……絵の仕事で食べていける人なんてほんの一握りでしょ。やっぱり平行して仕事を探すよ」
「つか、離婚するって決めたのか? 仕事始めたら離婚準備しているって旦那に気づかれるぞ。お前は捨てられる心配してたけど、世間体のためにお飾りの妻として飼い殺しされる可能性だってあるんだからな」

 実家や社会的な立場から考えて、例の彼女と不倫関係になったとしても菜緒と離婚したいとは言い出さないだろうと望は予想を口にする。

「だからまずはお前が精神的に自立するところから考えろ。そうじゃなきゃこの先何も決めらんねーだろ」

 ホレ、と先ほど買ってきた絵描き用のタブレットとペンを渡される。話しながらセットアップも済ませていたようで、もう使えるからと言って簡単に使い方を説明される。

「漫画描いてみたいっつったけど、ジャンルとかあんの? 少女漫画? ファンタジー?」
「えっと……そういえば考えてなかったな。昔は絵画教室にあった少女漫画を真似して描いていたから、そっち系かなあ」

 こんな感じの、とさっそくタブレットにさらっと描いてみると、それを見た望がにんまりと笑った。

「……上手いじゃん。さらっと描いてこれかよ。やっぱお前才能あるよ」
「え、ホント? ありがと……」

 手放しで褒められて、菜緒は顔を赤くする。誰かに褒められるなんていつ振りだろう。彼がお世辞を言うような人間じゃないと分かっているからこそ、素直に嬉しいと喜べる。
 それから望は、色々な漫画を引っ張り出してきて、『こういうのは描けるか?』と色々な画風の絵を菜緒に描かせた。その様子がなんだか子どもの頃のようにはしゃいでいるようで、その雰囲気につられるように色々な絵を描いた。

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