課長と行く異世界の旅〜異世界転移に巻き込まれた課長がチートを発揮している件について。

真辺わ人

文字の大きさ
15 / 68

(15)俺を慰める課長

しおりを挟む



「そう落ち込むな、近江くん」
「そうですよ、先輩! 空間収納なんか使えなくても先輩は先輩ですから!」
「お、おう……ありがとな……」

 彼らの言葉からもわかるように、二人に使えた空間収納が俺は使えなかった。
 課長が投げた鯖缶は空中に消えて、を掴んだらしい課長。
 自分が背負っていたリュックとか、俺が背負ってたリュックとかをまとめて空間収納に放り込んだ。

 すかさず、俺が二人と同じことを試したのは言うまでもない。
 だって、憧れの空間収納だぞ?

 しかし、投げたツナ缶は空間にではなく、そのまま薮の向こうに消えた。半泣きで拾いに行くはめになった。

「もしかすると、そのうちレベルとかが上がったりして覚醒するかもしれませんし。ね?」

 九重がガックリ項垂れた俺の肩を、ポンポンと叩いてくる。本当に良い奴だなお前。

 それにしても、空間収納なんてチートスキルの使用が可能ということは、柴崎の言ってたことも急速に現実味を帯びてくる。
 どんな形かはわからないけれど、鑑定スキルも存在するかもしれないってことだ。

 ちなみに九重にも聞いてみたが、彼には鑑定スキルのようなものは使えないそうだ。
 恥を忍んで課長にも「ステータスオープン」って唱えてもらったけど、残念ながら何も起こらなかった。

『勇者』

 別に柴崎が本当に鑑定スキルを持っていようと、俺がスキルなしだろうと関係ないが、あの言葉だけが引っかかっている。

 鑑定スキルで視たというのならば……本当に奴が勇者なのだろうか?

 いつも口先三寸で相手を煙に巻くようなことばかりしている柴崎だが、意外なことに嘘はあんまりついたことがなかったように思う。
 嘘は必ずバレるからと言って。

 あれが嘘じゃないのなら、奴が本当に勇者なのだろう。
 どこか胸がモヤモヤするのは、嫉妬……だろうか。
 それが、自分が欲していて得られなかったものだから。

 いや、欲して得られなかったものはそれだけじゃないな。
 空間収納だって、ものすごく欲しかった!
 あのスキルがあれば身軽に冒険とかできるしな?
 この世界で運送業みたいなことだってできるかもしれない。
 まぁ、いつまでもないものねだりをしていても仕方がない。

 気持ちは切り替えないと。

 そう思いつつも俺は、正体のわからない胸騒ぎをなかなか抑えられずにいた。


◇◇◇


 九重と出会った後、森から出るのは簡単だった。

 何故なら、水源を探した時に見つけた澄んだ泉の側で、例の事件で逃げ出した馬が二頭ウロウロしていたのを課長が捕まえたからだった。
 ゴブリンとかの餌食になっていなかったのが不思議なくらいだったが、九重も襲われたことはないと言っていたし、俺の運が相当悪かっただけかもしれない。
 とにかく、馬が手に入った俺たちはそれに乗って森を抜けることにしたのだった。
 馬の方も心細かったのか自ら手綱を握って欲しいと言わんばかりに俺たちに擦り寄ってきた。
 幸いにもこの二頭は、護衛のために兵士たちが乗ってきた馬らしく、手綱も鞍もそのままだった。

 馬が二頭。俺たちは三人と一匹。

「……」

 まぁ、こうなるのは仕方がない。

 というわけで俺は、一日ぶりにウメコの口先にぶら下がっている、なう。

 何故ならば。俺には乗馬スキルがないからだ。

 生まれながらのお坊ちゃまである九重に乗馬の心得があるのは納得だが、まさか課長が乗馬まで嗜んでいるとは思わなかったぜ。
 いや、今までの経過からすればこれも必然か。

 諦めてウメコに運んでもらうことにした俺。
 本当は、ラノベの主人公たちみたいにフェンリルであるウメコの背中に乗れればよかったんだろうけど、実際のところ手綱も鞍もない獣にまたがるのは至難の業だ。
 十メートルほど先で振り落とされる未来しか見えない。
 よって、この形へ収まったというわけだ。
 元からシャツは昨日のあれで既に穴あきだし。
 グラグラ揺れて気持ちが悪くなるデメリットさえ除けば、これ程早い移動手段はないだろう。

 颯爽と森の中を駆け抜けるウメコの後を、二人が馬に乗って追う形で俺たちは、あっという間に森の外へ辿り着いたのだった。

 いや、森の中でさ迷っていた苦労よ……本当に。

 後、森を出てから課長のスキル(?)がもう一つ判明した。
 矯正視力が半端なくいいのだ。
 俺、裸眼で2.0なんだけど、課長の分厚い眼鏡はそれを優に超えるらしい。

「あそこに村か町が見えるな」

 だってさ。
 いや、全然見えないんですけど? ってな感じで、九重と二人でただの草原にしか見えないそこを超絶目を凝らして見たんだけど、村なんて米粒ほどにも見えなかった。

 マジか。レンズは一枚なのに、望遠鏡とか双眼鏡並じゃないか?


 俺は掛けたこと無かったから知らなかったんだけど。
 すげぇんだな、眼鏡って!






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...