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(19)町に着いた課長。あと臭い
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*乗り物酔いの表現あるのでご飯中の方は閲覧注意。
──────────
「ぎゃぁぁぁぁぁ──っ!!!」
ブゥン……ブゥン……。
「ウメコぉぉぉぉ──っ!!!!」
不甲斐ない俺を許せ、ウメコ! お前の骨は拾ってやるからな──!
◇◇◇
「な、何か変だよな、この町……? あとなんか臭いし……」
「なかなかに陰気な感じのする町だな。臭いし」
「おかしいですね。何かすれ違う町の人の目からハイライトが消えてるような……臭いですし」
「き、きぼぢわるいぃ……うぷっ!」
あれから丸一日馬を走らせて、俺たちは課長が発見したらしき町へやってきた。
移動は、俺とウメコ、九重、課長とメイシアというコンビになった。
馬の負担を考えての割り振りだ。課長の方が九重より軽いしな。まぁ、荷物は全部空間収納に入っているから、馬が運ぶのは乗ってる人間だけなんだけど。
たどり着いたのはそこそこ大きい町で、第一印象としてはやたらと水路の多い町だな、ということだった。
あと臭い。
田舎だと、田んぼに水を通すために用水路ってのを作るんだけど、そんな感じの水路が町中を縦横に走っている。
どうやら臭いの発生源はここのようだが……。
ところで、メイシアがさっきから口を押さえて呻き声を上げてるのは、何もこの臭いのせいだけじゃない。
馬での移動に慣れていないせいか、酔ってしまったようだ。
「大丈夫かね、メイシアくん。ほら、この梅干しでも食べなさい。酸味の一部でもあるピクリン酸が、正常な平衡感覚に戻すのを手伝ってくれるから、君の馬酔いも多少は緩和されるはずだ」
「あ、ありがとうございま……うぷっ!」
「へぇ……梅干しにそんな効果が……」
課長は懐から梅干しを取り出して、メイシアの口に放り込んでた。小さい子に飴ちゃんあげる大阪のおばちゃんみたいで、何だか微笑ましい。
「す、すっぱ~い! でも美味しい!」
──くふん、くふん!
鼻を鳴らしながら擦り寄って来たのは、巨大な熊くらいの大きさから、大型犬位のサイズまで縮んだウメコだった。
お前はでかいから町の中までは連れて行けんって言ったら、縮んで見せてドヤ顔しておった。可愛い。
最近、質量保存の法則を無視した現象が、俺の周りで多発しているような気がするが、気にしたら負けなのでもう気にしないでおく。「ここは異世界だから!」これ、重要な呪文ね。
「ああ、ウメコも梅干しが欲しいんだな。よしよし。これをお食べ」
課長がそう言って、ウメコの口にも梅干しが放り込まれる。
一瞬キュッとなって、それからもぐもぐし始めるウメコの口。何だこれ、癒しか──?
「はっ! 何だか気分がスッキリしてきました!」
メイシアの顔色が若干明るくなったようだ。梅干し、本当に効果あるんだな。
──はぐはぐ!
「ウメコ可愛い……」
俺がウメコのもぐもぐ姿を見ながら癒されていると、九重が近寄ってきた。
「先輩、梅干しが乗り物酔いに効果あるなんて知ってました?」
「知るわけないだろ」
「ですよね……五島課長ならではの豆知識ですね」
「お前、向こうの世界に戻ったら社長に言っとけよ。あの人、仕事もだけど何かめっちゃできる人っぽいぞ。課長なんかにしとくのもったいなくね?」
「あー……それ、僕も以前から思ってたんですけど、何か昔、色々あったみたいで」
九重は珍しく顔をしかめる。
「まぁ……ここから戻れたら父に言ってみます」
「お、おう」
色々ってなんだろ?
基本のほほん顔の九重が顔をしかめるほどのことってことだよね? めっちゃ気になるな。
課長もああ見えて、意外と苦労してるのかもしれない。
いや、苦労しているからこそ、なのか……。
俺は知らず知らず課長の頭に目をやって、自分の頭頂も触ってみる。
うん、俺はまだ大丈夫。
どっちのじーちゃんも頭は真っ白だったけど禿げてなかったから、ハゲ遺伝子は薄いはず。
「ああ、わかった。どの人もみんな顔色が悪いんですよ。それで多分余計に暗く見えるんだ!」
俺が未来の俺の頭へ思いを馳せている頃、九重が得心がいったと一人で頷いていた。
(うーん……)
町に入る時、入口近くの馬房に馬を預けてきたんだが、そこの馬丁さんも顔色が悪かった気がするな。
九重の話を踏まえた上で道行く人々を観察してみると、なるほど皆一様に青白くて生気のない顔をしている。
そのことは多少気にはなったが、見ず知らずの他人に「顔色悪いけどどうしたんですか? あとこの町臭いですよね」って話しかけるようなコミュ力はない。
それに、正直言って今は、自分のことでいっぱいいっぱいなんだよね。他人の心配をしてる精神的余裕がない。
(元の世界へ戻るための情報を得ることもそうだけど、まずはこの国の通貨を手に入れないといけないな……)
情報を制するものは世界を制す。更に、地獄の沙汰も金次第、だ。
異世界に飛ばされたラノベヒーローたちは、チートなスキルを売りにして金を稼ぐか、ダンジョンなどでモンスターを狩ったりして、GETした素材やアイテム換金していた気がする。
俺たちは、まだどれもなしえていない。強いて言えば大食らいの聖女を拾ったくらい?
男三人に、それを上回る食欲を持つ聖女……エンゲル係数高過ぎて、逆に赤字になりそうな予感。
とりあえず、日雇いの仕事でも探すか──そんなことを考えた時だった。
──ぶぅん、ぶぅん……。
「…………っ!!!」
こ、この音は────っ!!
──────────
「ぎゃぁぁぁぁぁ──っ!!!」
ブゥン……ブゥン……。
「ウメコぉぉぉぉ──っ!!!!」
不甲斐ない俺を許せ、ウメコ! お前の骨は拾ってやるからな──!
◇◇◇
「な、何か変だよな、この町……? あとなんか臭いし……」
「なかなかに陰気な感じのする町だな。臭いし」
「おかしいですね。何かすれ違う町の人の目からハイライトが消えてるような……臭いですし」
「き、きぼぢわるいぃ……うぷっ!」
あれから丸一日馬を走らせて、俺たちは課長が発見したらしき町へやってきた。
移動は、俺とウメコ、九重、課長とメイシアというコンビになった。
馬の負担を考えての割り振りだ。課長の方が九重より軽いしな。まぁ、荷物は全部空間収納に入っているから、馬が運ぶのは乗ってる人間だけなんだけど。
たどり着いたのはそこそこ大きい町で、第一印象としてはやたらと水路の多い町だな、ということだった。
あと臭い。
田舎だと、田んぼに水を通すために用水路ってのを作るんだけど、そんな感じの水路が町中を縦横に走っている。
どうやら臭いの発生源はここのようだが……。
ところで、メイシアがさっきから口を押さえて呻き声を上げてるのは、何もこの臭いのせいだけじゃない。
馬での移動に慣れていないせいか、酔ってしまったようだ。
「大丈夫かね、メイシアくん。ほら、この梅干しでも食べなさい。酸味の一部でもあるピクリン酸が、正常な平衡感覚に戻すのを手伝ってくれるから、君の馬酔いも多少は緩和されるはずだ」
「あ、ありがとうございま……うぷっ!」
「へぇ……梅干しにそんな効果が……」
課長は懐から梅干しを取り出して、メイシアの口に放り込んでた。小さい子に飴ちゃんあげる大阪のおばちゃんみたいで、何だか微笑ましい。
「す、すっぱ~い! でも美味しい!」
──くふん、くふん!
鼻を鳴らしながら擦り寄って来たのは、巨大な熊くらいの大きさから、大型犬位のサイズまで縮んだウメコだった。
お前はでかいから町の中までは連れて行けんって言ったら、縮んで見せてドヤ顔しておった。可愛い。
最近、質量保存の法則を無視した現象が、俺の周りで多発しているような気がするが、気にしたら負けなのでもう気にしないでおく。「ここは異世界だから!」これ、重要な呪文ね。
「ああ、ウメコも梅干しが欲しいんだな。よしよし。これをお食べ」
課長がそう言って、ウメコの口にも梅干しが放り込まれる。
一瞬キュッとなって、それからもぐもぐし始めるウメコの口。何だこれ、癒しか──?
「はっ! 何だか気分がスッキリしてきました!」
メイシアの顔色が若干明るくなったようだ。梅干し、本当に効果あるんだな。
──はぐはぐ!
「ウメコ可愛い……」
俺がウメコのもぐもぐ姿を見ながら癒されていると、九重が近寄ってきた。
「先輩、梅干しが乗り物酔いに効果あるなんて知ってました?」
「知るわけないだろ」
「ですよね……五島課長ならではの豆知識ですね」
「お前、向こうの世界に戻ったら社長に言っとけよ。あの人、仕事もだけど何かめっちゃできる人っぽいぞ。課長なんかにしとくのもったいなくね?」
「あー……それ、僕も以前から思ってたんですけど、何か昔、色々あったみたいで」
九重は珍しく顔をしかめる。
「まぁ……ここから戻れたら父に言ってみます」
「お、おう」
色々ってなんだろ?
基本のほほん顔の九重が顔をしかめるほどのことってことだよね? めっちゃ気になるな。
課長もああ見えて、意外と苦労してるのかもしれない。
いや、苦労しているからこそ、なのか……。
俺は知らず知らず課長の頭に目をやって、自分の頭頂も触ってみる。
うん、俺はまだ大丈夫。
どっちのじーちゃんも頭は真っ白だったけど禿げてなかったから、ハゲ遺伝子は薄いはず。
「ああ、わかった。どの人もみんな顔色が悪いんですよ。それで多分余計に暗く見えるんだ!」
俺が未来の俺の頭へ思いを馳せている頃、九重が得心がいったと一人で頷いていた。
(うーん……)
町に入る時、入口近くの馬房に馬を預けてきたんだが、そこの馬丁さんも顔色が悪かった気がするな。
九重の話を踏まえた上で道行く人々を観察してみると、なるほど皆一様に青白くて生気のない顔をしている。
そのことは多少気にはなったが、見ず知らずの他人に「顔色悪いけどどうしたんですか? あとこの町臭いですよね」って話しかけるようなコミュ力はない。
それに、正直言って今は、自分のことでいっぱいいっぱいなんだよね。他人の心配をしてる精神的余裕がない。
(元の世界へ戻るための情報を得ることもそうだけど、まずはこの国の通貨を手に入れないといけないな……)
情報を制するものは世界を制す。更に、地獄の沙汰も金次第、だ。
異世界に飛ばされたラノベヒーローたちは、チートなスキルを売りにして金を稼ぐか、ダンジョンなどでモンスターを狩ったりして、GETした素材やアイテム換金していた気がする。
俺たちは、まだどれもなしえていない。強いて言えば大食らいの聖女を拾ったくらい?
男三人に、それを上回る食欲を持つ聖女……エンゲル係数高過ぎて、逆に赤字になりそうな予感。
とりあえず、日雇いの仕事でも探すか──そんなことを考えた時だった。
──ぶぅん、ぶぅん……。
「…………っ!!!」
こ、この音は────っ!!
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