課長と行く異世界の旅〜異世界転移に巻き込まれた課長がチートを発揮している件について。

真辺わ人

文字の大きさ
60 / 68

(47)課長と再会?

しおりを挟む



 結局ウメコは、町の中心まで滑り降りて、さらにその先にある、大きな建物の前にいた。

「あれ? 誰か、いますね!」

 若干興奮した口調で、九重が言った。
 もしかして、この氷都市の住人だろうか?

「ずいぶんとウメコが懐いているな」
「めっちゃしっぽ振ってますねぇ」

 謎の人物の周りを、ぴょんぴょん飛び跳ねながらまとわりついているウメコ。

「ぐっ……」
「あ、さては先輩、ヤキモチ焼いてますね? ウメコちゃんが、知らない人にしっぽ振ってるから」
「ばっ……そんなことねぇよ!」
「先輩って、意外と可愛いところありますよねぇ」

 うふふ……と、魔性の笑み(俺にはそう見える)をたたえながら、俺を見るのヤメテクダサイ。

「とにかく、あの人は誰なんでしょうね? あ、ウメコちゃんがお腹見せてる!」
「何っ?! くそっ! ウメコの裏切り者めっ!!!」

 格好から、てっきり男性かと思っていたけれど、近寄ってみるとそれは女性だった。
 しかも、黒髪ロングの超美人だった。
 割と彫りは深めで、目が切れ長のクール系美女。
 女の人の歳ってよくわからないんだけど、年齢は俺より若干上……かな?

(あれ? 何だか──……)

「おや、近江くんじゃないか!」

 ウメコをガシガシと撫でていた女性が、微笑みながら近づいてきた。

「え……誰? お前の知り合い?」
「ええっ? 僕じゃなくて先輩の名前呼びませんでした? それにしても、ものすごい美人ですね!」

 九重の言う通り、彼女はすごい美人だった。
 いや、お前も負けていないけどな、九重。
 九重が美少女なら、こっちは美女って感じだな──って、何を冷静に分析してるんだ、俺は。

「無事でよかった。心配していたんだよ。ところでそちらのお嬢さんはどなたかな?」

(……んん?)

 美人さんは胸元のポケットから、おもむろに眼鏡を取り出すと、それをかけて九重の顔をじっと見つめた。

「げ!」

「ん?」
「えっ?」

 奇妙な声を上げた俺を、二人が怪訝そうに振り返った。

「か、課長──────っ?!!!!」

「えっ……えええっ?!!」

 九重のポカンとした顔も可愛いな……じゃなくて!

 美女が豊満な胸元から取り出した眼鏡、それ課長の瓶底メガネじゃないか! 遠近両用のやつ!

 こんな眼鏡を持ってるのは課長しかいない。課長以外にありえない。

 声も姿もずいぶん様変わりしてしまったが、俺の勘がそう告げている──いや、勘ではないな。

 課長が美女になることは考えられても、この眼鏡を課長以外がかけることはまず考えられない。それが、世界の真理ってやつだ。

「課長も無事だったんですね! あ、ちなみにこいつは九重ですよ、九重!」

 ん? これって無事っていうのかな?
 女性になってしまっているんだから、無事ではない?

 しかし、九重が美少女になってるんだから、課長が美女になっていてもおかしくないな。

 遺跡の呪いか、未知のウイルスか、はたまたもっと何か違うものの影響か──何にしろ、目の前の美女が課長だという事実はゆらぎないんだが。

「いやはや、九重くんも女性になってしまうとはな」

 課長は感慨深げに九重を見つめている。

「課長の方こそ、こんな美人さんになられていてびっくりしましたよ!」

「いや、異世界へきて新しい人生を送りたいとは思っていたが、新しすぎるんじゃないかね? まさか、性別が違う人生を送ることになるとは思わなかったよ」

「いえいえ、とてもお似合いですよ!」

「そういう九重くんこそ、ずいぶんと可愛らしくなったな。我が課のアイドルと言っても過言ではないぞ」

「そんなぁ。えへへ~! 課長から褒めて貰えて嬉しいです」

 美女と美少女がうふふあははと微笑み合う光景、いいな。
 心が癒される。
 中身が男だってわかっていても、だ。
 視覚の幸福は別腹なんだよ、悪かったな。

「そうそう、君たちに紹介したい人がいるんだよ」

「紹介……?」

「ここに来てから会ったんだが……カオリさーん?」

 課長は、建物の陰に向かって呼びかけた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...