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(49)バーベキューする課長
しおりを挟む「課長は、この氷の都市、どこまで探索しました?」
「いや、私も近江くんたちの少し前に着いたばかりなんだ」
「うわっ! うまっ! このトカゲの燻製肉、ライ麦パンに挟んで食べるとサイコーですね!」
「九重さんだけずるいです! わたしにもそれ、作ってください!」
──わふっ! わふっ!(私にも作れ)
「わらわはコンカラ芋の梅肉和えを挟むぞ」
「そっちも美味しそう! リアさん、わたしの分も作ってください!」
──わふふんっ!(もちろん私にも!)
全員揃って、一気に騒がしくなったな。
こんな事態だけれども、今俺たちは、氷の都市中央の広場にて、バーベキュー中だ。
腹が減っては戦ができないからな。
スケートリンクのような広場にあるベンチの氷を溶かして座っている。
地面は凍っているので直火ができないけれど、九重持参の、野営用コンロを使っているから、調理も問題がない。
ちなみにベンチの氷はどうやって溶かしたかというと──課長の持っていた『着火ライターEXスペシャルくん』という、ガスバーナーもどきを使ったのだ。
この着火ライターっていうのは、本来ならば、花火とかに火をつける、ノズル付きのライターだ。
EXスペシャルくんは、局地的に発売された幻の限定品だそうで、ライターとは思えない火力がでる。
あ、これ多分、火炎放射器だ。
すぐに発売が中止されたそうだが、当然だ。もはや文明の利器というより武器だ。
現代日本において、こんな火炎武器を使用するようなシチュエーションは、間違いなくこないからな。
とにかく、そのEXスペシャルくんによって、ものの一分ほどでベンチをおおっていた氷は溶けた。
EXスペシャルくんを使えば、氷都市の氷も溶かせるんじゃ……ちょっとそんなことを思ったけれど、さすがに無理だな。第一、溶かしたところでどうするんだ、住むわけでもあるまいし……いや、待てよ? 悪くないかもしれないぞ。
「メイシアは野菜も食べなさい。肉ばっかじゃ栄養が偏るだろ」
俺は考えつつも、ほぼ肉しか載っていないメイシアの皿の上に、みずみずしいレタスもどきの野菜を載せた。
「む……これ、ちょっと苦いんですよね」
「肉に巻いて食べれば大丈夫だから。あとマヨネーズかければ、大抵の野菜は食える」
「はぁーい」
生返事を返すメイシアを、ちょっとジト目で見つめる。
こいつ、あれだよ。そういうところが、本当に妹のナツに似ている。そっくりだ。
聞こえよがしに返事するけど、その実聞いてないところとかな。
お兄ちゃんの言うことを聞けない妹にはこうしてやろう。
メイシアがよそ見をしている間に、 彼女の皿の肉の間に野菜を交互に挟んでから立ち去る。
「きゃーっ! わたしのお肉がぁ~! 野菜まみれにぃっ?!」
成長期の栄養のバランスは大切だからな、うん。
「カオリさんはあんまり食べてないようですね。ご気分が優れませんか?」
課長は、カオリさんに焼けた肉や野菜を持って行ってるようだ。
「い、いえ……大丈夫です! お気遣いなくぅ」
そう言って微笑む彼女の顔色は、確かにあまりよくなかった。
「そういえば」
「ん?」
食事を終えて、俺の襟元に戻ってきたリアが不意に呟いた。
「あの女、お前たちと同じ匂いがするな」
「えっ? あの女ってカオリさんのことか?」
「ああ。恐らくお前たちと同じ世界から来た人間じゃろ」
「マジで? 確かにカオリって名前は日本人っぽいなぁとは思ったけど」
「ほう。日本というのか、お前たちのいた国は? どんな国なんじゃ?」
「んー……どんな国って言われても一言で表すのは難しいな。この世界と同じように人間はいるけど、魔法とかは存在しない世界で。お前みたいなモンスターなんかもいなくて平和で……そうだなぁ……ま、とりあえず蚊は殺虫剤で一撃だな」
俺の言葉に、リアがぶるっと震えた。
「何と恐ろしい国なのじゃ!」
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