【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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第一章・無自覚編〜出遭い

弟子による不本意な運ばれ方(11/24一部変更)

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 クリスとルドを乗せた馬車が街中を走る。露店が並ぶ大通りを抜け、教会の近くにある大きな二階建ての建物の前で止まった。

 馬車から降りたクリスに元気な声がかかる。

「あ、クリス兄ちゃんだ!」
「今日はクリス兄ちゃんの日か?」
「じいちゃんがクリス兄ちゃんに診てもらいたいって言ってたぞ!」

 近くで遊んでいた子どもたちが続々と集まり、その声に大人たちが反応する。

「クリス様だって?」
「今日は当番じゃないだろ」
「あ、本当だ! クリス様だ!」
「おい! クリス様がいらしたぞ!」

 あっという間に囲まれ、すぐそこにある治療院に入れなくなったクリス。

「そこ、どけ。歩けないだろ」

 クリスの声は集まった人々の熱気にかき消される。
 そこに果物を持った中年男性が人々を押し退けて、クリスの前に来た。

「クリス様! おかげ様であれからまったく痛みが出なくなりました! 他の治療師だと数日したらまた痛みが出てきていたのに。クリス様のおかげです! これ、どうぞ!」
「クリス様のおかげで傷あとも痛みも残らず治りました。他の治療師だと、ここまでキレイに治りません。これも食べてください」

 そう言って若い女性がカゴに入ったパンを差し出す。それを見ていた他の大人たちが我も我もと、食べ物やモノを持ってきた。

「クリス様、ぜひこれも!」
「これ、受け取って下さい!」

 次々と人が集まり、あれこれ渡そうとしてくる。

「いらないからな」

 クリスは受け取る素振りすらせず、治療院に向かって歩く。そのため人々がクリスの後ろにいるルドに押し付けた。

「これ、クリス様に渡してくれ」
「頼んだぞ!」
「これもお願い」
「は? え? ちょっと、持ちきれないです!」

 ルドの悲鳴を無視して差し入れが次々と降り注ぐ。対応しきれないルドを放置してクリスは治療院に入った。さすがに中までは入ってこない。

 ホッと一息つくクリスに受付の男が声をかけた。

「あれ? クリス様の治療日はまだ先ですよね? どうかされたのですか?」
「テオに報告がある」

 そう言いながらクリスは受付の奥を見る。治療待ちの人で椅子は半分ほど埋まっていた。

「盛況だな」
「はい。午前の予約は一杯になりました」
「急用ではないし、昼休みに報告するか」
「急ぎでないなら、それがいいと思います。クリス様が来られたことは伝えておきます。少し早いですが昼食を食べてこられたら、どうですか?」
「そうだな」

 そこに、ようやく人々から逃げてきたルドがクリスへの捧げものを受付に置いた。

「あの、これ預かっていて下さい。あ、師匠! 待って下さい!」

 ルドが止めるのも聞かずに建物を出たクリスは案の定、人に埋もれた。

「通せ」

 さっきはすぐ目の前の治療院に逃げ込めたが、今回は昼食が目的なため、飯屋まで突き進まないといけない。しかも、標準より小柄な体のクリスには余計に難しい。

「今日は治療はなぃ……ぅわあっ!?」

 人波に溺れていたクリスの両脇に手が突っ込まれる。

「誰だ!? なにをすっ……ん!?」

 クリスは軽々と持ち上げられ、ルドの肩に担がれた。景色は良く、人波から開放はされたが。

「ちょっ、まっ!?」

(手! 手が腰に! 尻! 今、尻に手が当たっただろ!)

 声に出せない言葉をクリスは心の中で叫ぶ。少々暴れてもルドがふらつくことはない。しっかりとした安定感。
 しかし、周囲の人々からルドに非難の声があがる。

「クリス様に失礼だろ!」
「誰だ!?」
「見かけない顔だな」
「何者だ!?」

 詰め寄られながらもルドが平然と答える。

「弟子です」
「「「「「弟子!?」」」」」

 さざ波のように広がった言葉に人々が納得し始める。

「弟子……つまり、見習いってことか?」
「見習いか! せめてクリス様の足元におよぶぐらいにはなれよ!」
「そうだな。他の治療師はクリス様の足元にもおよばないから」
「頑張れよ!」

 今まで敵意むき出しの人々から、一転して好意的な視線が集まる。
 そこに老人がやってきて、ルドに声をかけた。

「クリス様を師にできるなんて幸運だぞ、若者。しっかり学ぶように」
「はい! 自分は師匠の一番弟子です!」

 晴れやかな顔をしているルドに対して、クリスの顔は嵐がきそうなほど曇る。

「その呼び方は、やめろ!」
「いえ! こればっかりは譲れません!」
「いいから、やめろ!」
「嫌です!」

 クリスは担がれたままルドの背中を叩いた。しっかりと筋肉がついた背中は意外と柔らかく、クリスが叩いたぐらいではダメージがない。
 見守っていた人々がルドの味方となり声援を送る。

「いいじゃねぇか」
「クリス様なら弟子の一人や二人ぐらいいてもおかしくないもんな」
「弟子一号! 頑張れよ!」

 ルドが空いている手をあげた。

「はい! 頑張ります!」

 外見も良く快活で好青年なルド。そのため、あっさりと街の人に受け入れられ、応援までされ。
 その光景にクリスは肩に担がれたまま脱力した。もう味方はどこにもいない。

「……とにかく下ろせ」
「下ろしたら、また動けなくなりますよ?」

 ルドの指摘にクリスは言葉に詰まる。ルドが近くにいた中年男性に声をかけた。

「昼ごはんを食べたいのですが、どこかお勧めの店はありませんか?」
「おう! それなら、この通りをまっすぐ行った先にある赤い屋根の『ロ・マノ』っていう飯屋がいいぞ」

 そこに中年女性が割り込む。

「そこより、あっちの通りの『ラ・ピューレ』っていうパン屋の方がいいわよ。あそこはパンも美味しいけど、スープがいい味しているんだから」
「いや、いや。昼飯なら北口にある『セダン』だろ。安くて量が多くて味も良い。この三拍子がそろった店はなかなかないぞ」
「安くて美味い店なら東門の……」

 街の人たちの白熱した議論を始まる。
 その隙に気配を消したルドがクリスを担いだまま、そっと治療院に戻った。

 肩から下ろされたクリスは思わずぼやく。

「これだと外では食べられないな。受付で宅配を頼むか」
「そんなのがあるのですか?」
「受付員に昼食を買ってきてもらうだけだがな」
「それなら、自分が……」
「失礼いたします」

 二人に声をかけたのはオンディビエラ子爵の屋敷にいた老執事だった。

「お話中、申し訳ありません。ご主人様がクリスティアヌス様のお弟子様とお話をしたいと申しておりまして。少しお時間をよろしいでしょうか?」
「自分と話……ですか?」
「はい」

 クリスとルドが顔を見合わす。

「どうしましょう?」
「好きにしろ」
「えー……」

 悩むルドに老執事が頭を下げる。

「ご主人様はどうしても二人・・で話したいことがあるそうです」
「うーん……」

 どこか必死な様子の老執事にルドが頷く。

「わかりました。師匠、すぐに戻ってきますので」
「私は適当に食べておくから気にするな」
「こちらへ、どうぞ」

 ホッと息を吐いた老執事が外に停めている馬車へルドを案内した。







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