【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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治療師の仕事と治療魔法の講義

ルドから見たメイドたちによる簡単な振り分け

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 翌朝。
 愛馬でバドの町に着いたルドは、治療院を探していた。そこで、背後から声をかけられる。

「お、ルド。待ってたぞ」

 ルドが振り返ると左腕がない男がいた。男がルドを見て豪快に笑う。

「そう警戒すんな。オレの名はマノロ。一回、会ってるだろ?」

 たしか、治療院研究所での初日。捨てられた奴隷を探した時に来ていた、クリスの馬車の御者だ。

「あ、あの時の」
「思い出したか。で、クリス様からの伝言だ。ラミラとカルラの仕事を見てこいってよ。馬はうちの馬車の馬たちと一緒にうまやへ置いておく」
「では、馬をお願いします。ラミラとカルラとは、どなたのことですか?」
「ほれ、そこの長い列の先頭にいる茶色の髪のメイドがラミラで、そこの赤茶の髪のメイドがカルラだ」
「わかりました」

 ルドは馬の手綱をマノロに渡すと、昨日会話をしたカルラのところへ走った。

「おはようございます」

 カードを配っていたカルラが振り返る。

「おはようございます。クリス様からお話しは聞いております」
「はい。あの、なにをされているのですか?」

 カルラが持っているカードを見せようとして、ルドとの距離に困惑した。昨日もさり気なく距離を取られていたことを思い出す。

「もう少し近づいていただかないと、見せられないのですが」
「いえ。自分は目が良いので見えます」
「……そうですか。クリス様の治療を希望される方は大勢います。なので、順番を書いたカードを配っておりました」
「それは良いですね。割り込んだと揉めることもない」
「このカードを配る目的はそれだけではありませんけどね」

 カルラが列に戻り、子どもを抱いている女性にカードを渡す。

「治療を受けたいのは、あなたですか?」
「違うわ、この子よ」

 女性の腕の中では静かに眠っている一歳ぐらいの子どもがいた。

「どうしたのですか?」
「昨日の昼に階段から落ちたの。しばらくは泣いて、一回吐いたんだけど、その後いびきをかきながら眠って……朝になっても起きないから心配になって連れて来たの」
「いびき……」

 話を聞き終わったカルラが叫ぶ。

「マノロ! 大至急、来て!」

 かなりの大声だったが子どもはまったく反応しない。代わりにマノロが走ってきた。

「どうした?」
「この子をすぐにクリス様に診せて。あ、でも揺らさないように。慎重に早足で移動して」
「わかった」

 順番を飛ばして治療を受けられることに嫉妬や嫌悪の視線が母子に集まる。

「でも順番が……」
「いいから、早くクリス様のところに行って下さい。手遅れになる前に」
「手遅れ?」
「ほら、行くぞ」

 マノロに促されて女性が歩きだす。ルドはカルラに訊ねた。

「どうして子どもを先に?」
「あの子は階段から落ちた時、頭を打った可能性があります。嘔吐やいびきなどの症状から、至急クリス様の治療が必要と判断しました。頭を打った時の恐ろしさは、ご存知でしょう?」
「たしかに」

 感心しながら頷くルドにカルラが説明を続ける。

「他にも並ぶのが辛い人は、順番がくるまで家か治療院の隣にある教会で待ってもらいます。その場合は順番カードを渡した時に待機場所を聞いて、この紙にメモします」
「素晴らしい仕組みですね」
「すべてクリス様の発案です。一般の治療師は並んだ人から順番に治療をしますが、クリス様は優先順位をつけて治療します。そして、効率的に治療ができるようにします」
「こんな仕組みを考えるとは、さすが師匠。それに、緊急で治療をしないといけないと判断ができるあなたも凄いですね」

 自然に誉められたカルラが一瞬、自分の耳を疑った。男尊女卑が強いこの国で男が女を誉めるなんて普通はない。
 カルラがルドから逃げるように視線を伏せた。

「この知識はクリス様より教えて頂きました」
「さすが師匠。素晴らしすぎです」

 感激するルドを置いてカルラがカード配りに戻る。

「待って下さい!」

 カルラが手際よくカードを配るが列は長い。途中でカルラが手を止めた。

「私の役割は理解していただけたと思います。次はラミラの役割を見てください」
「わかりました。ありがとうございます」

 礼を言って頭を下げるルド。その光景に周囲の人々がざわつく。男が女に礼を言ったり、頭を下げたりすることは超珍しい。
 カルラも茶色の瞳を丸くしたが、すぐ穏やかに微笑んだ。

「いいえ、どういたしまして」
「失礼します」

 ルドは駆け足で列の先頭へ移動した。そこでは茶色の髪のメイドが並んでいる人に質問をしている。

「十日前に農作業をしていて、鉈で切ったのですね。痛みはありますか? 熱は? そうですか。わかりました」

 ルドは一歩下がったところから、黙って様子を見ていた。そこにメイドが振り返る。

「ルド様、ですね? クリス様より聞いております。私のことはラミラとお呼び下さい」
「はい。お願いします」

 頭を下げたルドにラミラが慌てた。

「そのようなことはなさらないでください。まず、私の役割について説明します」
「はい」

 顔を上げたルドにラミラが近づく。その動きに合わせてルドが下がる。
 ラミラが口を動かす前にルドは手で制した。

「この位置で大丈夫ですので」
「そう、ですか」

 ラミラが持っていた用紙をルドに向ける。

「ここでは名前と、どこが悪いのか、どのような症状があるのかを聞いて記録します。これで、クリス様が状態を把握しやすくなり早く治療ができます」
「この仕組みもクリス様の発案ですか?」
「はい、そうです」
「さすが師匠! そういえば、カルラさんとラミラさんは字が書けるのですね」

 この国では女に学問は必要ないという考えがあり、平民でも女性の識字率はかなり低い。
 ラミラがルドに背を向け、列に戻る。

「クリス様の屋敷の使用人は全員、読み書きができますから。では、私は役割に戻ります」

 ルドの一歩先でラミラが次々と話を聞いて記入していく。

「どこが悪いですか?」

 ラミラの質問に、痩せた老人が自分の足を見せた。

「前回、クリス様からもらった薬を飲んで良くなっていたのだが、薬がなくなったら、また足が腫れてきたんじゃ」
「薬を飲んでいる間は腫れがひいていました?」
「あぁ」
「わかりました。他に悪いところはありますか?」
「悪いところだらけだが、クリス様に治療してもらうまでもない」
「わかりました」

 ラミラが紙に前回と同じ薬を希望、と書き込む。ルドはラミラに訊ねた。

「薬って、あの薬ですか? 葉や木の根をすり潰した……」
「はい、そうです」
「そのようなものが効くのですか?」

 魔法治療が中心のこの国では、薬は効果がないと言われている。
 そのことを思い出したラミラが説明した。

「症状に合わせた薬を適した量だけ飲めば、薬は効果があります。この町に常駐の治療師はいません。ですので、薬で症状を抑えたり、整えることも必要です。クリス様は他国で薬学を学ばれたそうです」
「他国の知識……すごい」
「クリス様は、治療魔法は万能ではない。だからこそ様々な知識が必要になる。と言われています」
「日々精進、ですね」
「その通りです。ルド様もクリス様から様々なことを学んで立派な治療師になってください」

 ルドは少し躊躇いながら静かに頷いた。

「……はい、頑張ります」

 明らかに様子が変わったルドにラミラがどうするか迷う。
 そこに治療院からルドを呼ぶ声がした。カリストが治療院の入口に立っている。
 ラミラがルドに声をかけた。

「緊急の治療が終わったのでしょう。クリス様のところへ行ってください」
「わかりました。ありがとうございます」

 ルドは一礼をして治療院へ走った。





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