【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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第二章・片思い自覚編〜帝都へ

不穏な動きの始まり〜ルド視点〜

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 昨日のオアズ町の兵舎と同じように応接室に案内され、そこに昼食が運ばれてきた。ルドは人払いをして、念のために部屋全体に隠匿の魔法をかける。

「これで簡単に部屋には入れませんし、部屋の中を覗き見することも出来ません。目の包帯を外して食事をしても大丈夫です」
「そうか」

 クリスが包帯を外した。目の前にはテーブルに置かれた温かい食事。

 昨日と同じように、ゆっくりと口に入れて毒がないか確認しながら食べていく。食事はここの兵士が食べている物と同じものだろう。肉や野菜は少なめでパンや芋が多く、味付けは濃い。

 ルドはクリスが食べる姿を無意識に眺めていた。
 いつもと服装が違うせいか、それとも髪の色が違うせいか、なんとなく見てしまう。もともと綺麗な所作で食事をすると思っていたが、こうしてみると女性が食事をして……

 と、そこまで考えてルドは大きく頭を横に振った。

(師匠は男だ。師匠はセルのせいで女性の服を着ることになったのに、こんなことを考えることは失礼だ)

 頭の中で葛藤しているとクリスが手を止めて顔をあげた。

「どうした?」

 深緑の瞳と目が合ったルドは慌てて食事を口につめこむ。

「い、いえ! なんでもありません!」
「そうか。それにしても量が多いな」
「そうですか?」

 いつものクリスなら軽く食べそうな量なのに。

「私には味が濃すぎる」
「あぁ。それなら、無理に食べなくていいですよ。馬に乗った時に気分が悪くなってはいけませんから」
「だが、残すのは……」
「残りは自分が食べます」

 ルドの前にあった料理が次々と消えていく。その様子にクリスが思わず手を止めた。

「よく食べるな」
「これぐらいなら普通です。あと食べられる時に食べるように訓練もしてますから」

 戦場ではいつ食べられなくなるか分からない。食べられる時に食べておくことは基本である。

「騎士には必要なことか」
「はい」

 ルドは自分の食事を食べきると、クリスが残したパンに手を伸ばしながら訊ねた。

「そういえば先ほど馬から降りる時、なぜ声を出さなかったのですか?」
「この格好に、この声は合わないだろ。下手に印象に残っても困るからな」
「そうですか?」

 女性にしては低めの声に感じるかもしれないが、そこまで違和感もないし印象にも残らない。むしろ違和感というか問題なのは……

「それより、話し方を女性らしくしたほうが良いのでは……」

 クリスが睨んでルドの言葉を止めた。鋭い深緑の瞳で室温が一気に下がる。

「だから人前では極力話さないようにする」
「……はい」

 これ以上クリスの機嫌を損ねるわけにはいかないルドは、黙って食事に集中した。



 食事を終え、ルドはクリスの目に包帯を巻いた。そして、再び茶色のマントで全身を隠したクリスの手を引く。
 スッポリと包み込める小さな手。柔らかくて、華奢で、気を抜くと握りつぶしそうで。
 自分の手との違いを実感する。

(女性の手のよう……違う! 違う! それは、師匠に失礼だ!)

 ブンブンと大きく頭を振るルドに見えていないクリスが訝しげに声をかける。

「いきなりどうした?」
「い、いえ。なんでもありません」
「見えてなくても、手を繋いでいたら魔力の乱れぐらいなら分かるからな」
「い、いえ。本当になんでもなく……あ、馬に乗りますよ」

 ルドはどうにか誤魔化しながら、クリスを新しく準備された馬に乗せ、出発した。

 午前と同じように休憩なしで街道をひた走る。

 ルドは途中でクリスに休憩を打診したが、その度に却下された。クリスの様子から早く目的地に着いて休憩した方がいいと判断し、とにかく馬を走らせる。

 そのおかげか陽が傾く前にはソンドリオ領に入ることが出来た。畑が徐々に増え、遠くに城壁が見える。

「師匠、もう少しでソンドリオ領の検問所に到着します。予定より早く着きましたし、検問所を抜けたら休憩しましょう」
「……そうだな」

 さすがに疲れたのか、クリスが素直にルドの意見に同意する。そのことにルドは驚きながらも頷いた。

「どんな店があるか楽しみ……」

 変なところで言葉を切ったルドにクリスが声をかける。

「どうした?」
「……少々、面倒な連中が現れたようです」

 ルドは馬の速度を落とすことなく振り返った。

 街道ではなく作物を刈り取った畑を踏み荒らしながら複数の馬が走ってくる。その馬にはガラが悪い男たちが乗っており、剣やオノを振り上げながら、こちらに向かっていた。

 ルドは検問所との距離を見ながら呟く。

「……振り切れないか」

 ここまで休憩なしで走り、疲れ切っている馬では逃げ切ることはできない。かと言って激しい戦闘をするほどの体力も馬には残っていない。今の状態だと検問所まで走り抜けるだけで精一杯だろう。

「仕方ない」

 ルドは上半身だけで振り返り、右手を伸ばした。

『土よ、彼の者たちの足をとれ』

 畑の土がうねったかと思うと泥のように柔らかくなり走っていた馬の体半分が埋まった。

「なんだこりゃ!?」
「くそ! 抜けねぇ!」
「動け!」

 馬をどうにか土の中から出そうとするが、いくらもがいても馬は畑から抜け出せない。

「何があった?」
「馬に乗った盗賊のような人たちが現れたので、足止めをしました」
「転倒させたのか?」
「あの速度で走っている馬を転倒させたら、馬が骨を折ってしまいます。そうならないように馬の体を土に埋めて動きを止めました」
「馬に罪はないからな」
「はい」

 そこに検問所から複数の憲兵が出てきた。
 襲われているのを助けるためだろうが、それにしては憲兵の数が多いし、対応が早い。まるで、助ける準備していたかのような。

 思案していると、馬に乗った憲兵の一団が風のように通り抜けた。その中で最後尾にいた兵士が馬の向きを変え、ルドの馬と並走する。

「お怪我はありませんか?」
「はい」
「何か盗まれた物はありませんか?」
「こちらに被害はありません」
「それは良かった。あとはこちらで処理いたしますので、そのまま真っすぐ検問所へ向かって下さい」
「はい」
「では、失礼します」

 必要最低限のことを話した憲兵が踵を返し、仲間を追いかけた。

「この辺りの治安はあまりよくないのか?」
「そういう話はなかったんですけどね……」

 ルドは一度だけ振り返り、男たちを捕まえようとしている憲兵たちの様子を見送った。





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