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第三章・両思い編〜失われた記憶
それは、この二人にも地雷でした
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ベレンがスカートを翻しながら駆けよる。
「あら、もう帰りますの?」
ふわふわとした白に近い金色の髪を風に遊ばせ、大きな水色の瞳がガラス玉のように光を弾いている。まるで人形のような姿。
しかし、帰る邪魔をされたクリスは肩を落とした。
「まだオークニーにいたのか」
「まあ、なんですの!? その言い方!」
可愛らしく頬を膨らますが、本気で怒っていないことは顔を見れば分かる。
クリスは厄介払いをするように言った。
「いい加減、帝都に帰れ」
「ちょっと、それが現帝の姉の娘への言葉ですの? もう少し敬いを持っても、よろしいと思うのですが? ルド、どう思います?」
話を振られ、反射的にルドの体が固まる。その様子にベレンの後から歩いてきたオグウェノが笑った。
艶やかな黒髪に、涼やかな深緑の瞳。彫りが深く、甘い顔立ちは男の色気が溢れている。浅黒い肌に筋肉質な体は夏がよく似合う。
「相変わらず赤狼はお姫さんが苦手なんだな」
「べ、別にそのような訳では……」
額に汗をかきながら言い訳をしているルドにオグウェノが肩をすくめる。
「そうか? そういえば、体がなまっているから、手合わせをしてほしいんだが」
ルドが盛大に首を横に振る。
「何度も言っていますが、他国の王子に手合わせでも傷を負わせたら国際問題になりますので、絶対に! 嫌です」
拒否されたオグウェノが隣で控えているイディに顔を向けた。
黒茶の髪を刈り上げ、眼力だけで人を殺せると囁かれているほどの厳つい顔。体はオグウェノより筋肉質。ちなみにベレンとは親密な関係になりつつある。
「けど、イディと手合わせするのは飽きたんだよな」
護衛でもあるイディは無言のまま。クリスは何かを思いついた顔になり、セルシティに耳打ちをした。
「それはいい」
魅惑的に微笑んだセルシティは老齢の執事を呼んで指示を出した。
ルドが不安気にクリスに訊ねる。
「師匠?」
「気にするな」
「いや、気になりますよ」
「悪いようにはしない」
「何をする気ですか!?」
ルドの背中に悪寒が走った。オグウェノとイディの背中にも。
戻ってきた老齢の執事がセルシティにこっそりと報告をする。セルシティはクリスに目で合図をして立ち上がった。
「クリスティ、帰るのだろう? 途中まで送ろう」
「あぁ」
二人が歩き出したのでルドが慌てて追う。そこにベレンとオグウェノ、イディもついてきた。
「もう帰りますの?」
「もう少しゆっくりすればいいだろ」
オグウェノがクリスの後ろから訊ねる。
「そういえば、黒い執事は来てないのか?」
「カリストか? 用があるなら呼ぶぞ」
クリスは歩きながら自分の影に視線を向けた。オグウェノが少し考えて首を横に振る。
「いや、そこまでの用ではないからいい」
「そうか」
種類は違えど美形揃いが、ぞろぞろと城内を歩く光景は注目を浴びた。しかし、この一行に声をかける強者はいない。
城の者たちが遠巻きに眺めていると、遥か前方からつい先ほど絨毯の一部にされた親衛隊の青年騎士三人組が歩いてきた。
「すぐに治療してもらえて良かったな、ケラック」
「当然だ。オレを誰だと思ってやがる」
「まったく、ひどい一日だよな」
不満を隠す様子なく堂々と周囲の物を蹴って八つ当たりをする。
その態度にオグウェノが聞こえる声で言った。
「態度が悪いな。騎士としての礼節がなってない」
「あぁ!? オレにそんなことを……」
三人組がオグウェノに視線を向けたところで、クリスの存在に気付いた。
「「「ゲッ」」」
三人の顔色が一瞬で悪くなる。
「また会ったな」
クリスから他人に声をかけることは、とても珍しい。ルドは驚きながらも確認した。
「師匠、お知り合いですか?」
ちなみにルドは先ほど自分がこの三人を吹っ飛ばしたことは覚えていない。
クリスは平然と説明した。
「あぁ。さっき初めて、ここで会ったんだがな。いきなり専属の治療師になって戦場に付いて来いと言われた」
その言葉にルドの気配が一瞬で変わる。どす黒い殺気が吹き出し周囲をおおう。
その気配に青年騎士三人の足が無意識に下がる。
普段からは考えられないルドの雰囲気にオグウェノは軽くルドの肩を叩いた。
「おい、おい。どうしたんだよ。少し落ち着けって」
ルドが琥珀の瞳を光らせオグウェノを睨む。
「こいつらは師匠を戦場に連れていこうとしたのですよ?」
「いや、でも戦場に治療師は必要だろ?」
「夜伽込みの意味で、ですよ?」
オグウェノの肩眉がピクリと動き、深緑の瞳が鋭くなる。
「男、なのにか?」
オグウェノはクリスの本当の性別を知っているが、あえて偽りの性を口にした。
「戦場に女性は連れて行けませんから」
「そういうことか」
すべてを悟ったオグウェノの雰囲気が一変する。軽さが消え、跪きそうになるほどの威圧が三人にかかる。
その上、首に剣を突きつけられたような、鋭い気配がルドから放たれる。
三人がゴクリと唾を飲むと、セルシティが呑気な声で提案した。
「そうだ、オグウェノ殿。先ほど手合わせの相手を探していたが、この三人はいかがかな?」
オグウェノがいつもの色気がある笑みを消して獰猛に笑う。
「それは、ありがたい。ちょうど体がなまっていたからな」
「ルドとイディ殿も入れば、三対三で人数も合う」
黙って様子を見守っていたベレンがクリスの服の裾を引っ張り、小声で訊ねた。
「よろしいですの?」
「セルティが言い出したんだから、問題ないだろ」
三人組は手合わせにクリスが入らないことに安堵した。
よく見れば赤髪は治療師の服を着ているし、あとの二人は筋肉質で異国の服を着ているが、騎士や戦士の服装ではない。
これなら勝算はある、と考えた三人は軽く頷いた。
「セルシティ第三皇子が言われるのなら」
「我らの実力をお見せする、よい機会です」
「ちょうど軽く体を動かしたいと思っていたところですし」
自信満々に言った三人は、自分たちを吹き飛ばしたのがルドであることに気付いていない。
しかも、最近オークニーに来たため、オグウェノがケリーマ王国の第四王子であることも、その実力も知らなかった。
「では、鍛錬場へ行こう」
セルシティは晴れやかな笑顔で全員を案内した。
手合わせの結果から言うと、イディは何もせず。ルドとオグウェノによる、一方的なものだった。
二人は三人組に対して、必ず急所を外し、絶妙な手加減で相手が起き上がれる程度の攻撃をした。
一方の三人組もプライドがあり、自国の皇子が観戦している前で無様な姿は見せられず、自ら負けを認めるなど出来ない。
こうして三人組は体力の限界まで挑むこととなった。
ボロ雑巾のように鍛錬場に転がる三人を胸の前で腕を組んだルドとオグウェノが見下ろす。
ルドの赤髪が初夏の風に絡み、燃えるようになびく。だが、琥珀の瞳に輝きはなく、底が見えないほど冷える。
「もう終わりですか?」
感情がない声の隣では、オグウェノが艶やかな黒髪を揺らし嘲笑を浮かべる。軽い雰囲気なのだが、深緑の瞳は笑っていない。
「情けねぇな。こっちは剣も抜いてないのに」
ルドが一歩踏み出す。
「もし次、師匠に声をかけたら……」
格の違いを思い知らされた三人が慌てて首を横に振る。
「か、かけねぇ! 二度と声はかけねぇ!」
「わ、悪かった! オレたちが悪かったから!」
「もう、しねぇ! 絶対にしねぇから!」
オグウェノが屈んで三人と視線を合わした。
「その言葉、忘れるなよ」
「あ、あぁ!」
「忘れない! 忘れないから!」
「勘弁してくれ!」
三人が逃げ腰になっているところにクリスが歩いてきた。
『ヒッ!』
恐怖で三人の声が重なる。クリスは呆れたように三人組を見下ろした。
「おまえたち。騎士なら最低でも相手の実力が読み取れるぐらいにはなれ。家柄と実力を混同するな。でなければ戦に出ても、すぐ死ぬぞ」
オグウェノはクリスの隣に立つと、深緑の瞳を細くして微笑んだ。
「まったく。月姫は優しいな」
「そんなことはない」
クリスが踵を返してセルシティがいる方向へ歩く。ルドとオグウェノが目を合わした。
「では、これぐらいで」
「そうだな」
二人がクリスの後に付いていく。セルシティはルドとオグウェノを見ながら、戻ってきたクリスに言った。
「豪華な護衛だな」
「いずれ帰る場所がある者たちだ。私には関係ない」
その言葉にセルシティはやれやれと肩をすくめた。
「あら、もう帰りますの?」
ふわふわとした白に近い金色の髪を風に遊ばせ、大きな水色の瞳がガラス玉のように光を弾いている。まるで人形のような姿。
しかし、帰る邪魔をされたクリスは肩を落とした。
「まだオークニーにいたのか」
「まあ、なんですの!? その言い方!」
可愛らしく頬を膨らますが、本気で怒っていないことは顔を見れば分かる。
クリスは厄介払いをするように言った。
「いい加減、帝都に帰れ」
「ちょっと、それが現帝の姉の娘への言葉ですの? もう少し敬いを持っても、よろしいと思うのですが? ルド、どう思います?」
話を振られ、反射的にルドの体が固まる。その様子にベレンの後から歩いてきたオグウェノが笑った。
艶やかな黒髪に、涼やかな深緑の瞳。彫りが深く、甘い顔立ちは男の色気が溢れている。浅黒い肌に筋肉質な体は夏がよく似合う。
「相変わらず赤狼はお姫さんが苦手なんだな」
「べ、別にそのような訳では……」
額に汗をかきながら言い訳をしているルドにオグウェノが肩をすくめる。
「そうか? そういえば、体がなまっているから、手合わせをしてほしいんだが」
ルドが盛大に首を横に振る。
「何度も言っていますが、他国の王子に手合わせでも傷を負わせたら国際問題になりますので、絶対に! 嫌です」
拒否されたオグウェノが隣で控えているイディに顔を向けた。
黒茶の髪を刈り上げ、眼力だけで人を殺せると囁かれているほどの厳つい顔。体はオグウェノより筋肉質。ちなみにベレンとは親密な関係になりつつある。
「けど、イディと手合わせするのは飽きたんだよな」
護衛でもあるイディは無言のまま。クリスは何かを思いついた顔になり、セルシティに耳打ちをした。
「それはいい」
魅惑的に微笑んだセルシティは老齢の執事を呼んで指示を出した。
ルドが不安気にクリスに訊ねる。
「師匠?」
「気にするな」
「いや、気になりますよ」
「悪いようにはしない」
「何をする気ですか!?」
ルドの背中に悪寒が走った。オグウェノとイディの背中にも。
戻ってきた老齢の執事がセルシティにこっそりと報告をする。セルシティはクリスに目で合図をして立ち上がった。
「クリスティ、帰るのだろう? 途中まで送ろう」
「あぁ」
二人が歩き出したのでルドが慌てて追う。そこにベレンとオグウェノ、イディもついてきた。
「もう帰りますの?」
「もう少しゆっくりすればいいだろ」
オグウェノがクリスの後ろから訊ねる。
「そういえば、黒い執事は来てないのか?」
「カリストか? 用があるなら呼ぶぞ」
クリスは歩きながら自分の影に視線を向けた。オグウェノが少し考えて首を横に振る。
「いや、そこまでの用ではないからいい」
「そうか」
種類は違えど美形揃いが、ぞろぞろと城内を歩く光景は注目を浴びた。しかし、この一行に声をかける強者はいない。
城の者たちが遠巻きに眺めていると、遥か前方からつい先ほど絨毯の一部にされた親衛隊の青年騎士三人組が歩いてきた。
「すぐに治療してもらえて良かったな、ケラック」
「当然だ。オレを誰だと思ってやがる」
「まったく、ひどい一日だよな」
不満を隠す様子なく堂々と周囲の物を蹴って八つ当たりをする。
その態度にオグウェノが聞こえる声で言った。
「態度が悪いな。騎士としての礼節がなってない」
「あぁ!? オレにそんなことを……」
三人組がオグウェノに視線を向けたところで、クリスの存在に気付いた。
「「「ゲッ」」」
三人の顔色が一瞬で悪くなる。
「また会ったな」
クリスから他人に声をかけることは、とても珍しい。ルドは驚きながらも確認した。
「師匠、お知り合いですか?」
ちなみにルドは先ほど自分がこの三人を吹っ飛ばしたことは覚えていない。
クリスは平然と説明した。
「あぁ。さっき初めて、ここで会ったんだがな。いきなり専属の治療師になって戦場に付いて来いと言われた」
その言葉にルドの気配が一瞬で変わる。どす黒い殺気が吹き出し周囲をおおう。
その気配に青年騎士三人の足が無意識に下がる。
普段からは考えられないルドの雰囲気にオグウェノは軽くルドの肩を叩いた。
「おい、おい。どうしたんだよ。少し落ち着けって」
ルドが琥珀の瞳を光らせオグウェノを睨む。
「こいつらは師匠を戦場に連れていこうとしたのですよ?」
「いや、でも戦場に治療師は必要だろ?」
「夜伽込みの意味で、ですよ?」
オグウェノの肩眉がピクリと動き、深緑の瞳が鋭くなる。
「男、なのにか?」
オグウェノはクリスの本当の性別を知っているが、あえて偽りの性を口にした。
「戦場に女性は連れて行けませんから」
「そういうことか」
すべてを悟ったオグウェノの雰囲気が一変する。軽さが消え、跪きそうになるほどの威圧が三人にかかる。
その上、首に剣を突きつけられたような、鋭い気配がルドから放たれる。
三人がゴクリと唾を飲むと、セルシティが呑気な声で提案した。
「そうだ、オグウェノ殿。先ほど手合わせの相手を探していたが、この三人はいかがかな?」
オグウェノがいつもの色気がある笑みを消して獰猛に笑う。
「それは、ありがたい。ちょうど体がなまっていたからな」
「ルドとイディ殿も入れば、三対三で人数も合う」
黙って様子を見守っていたベレンがクリスの服の裾を引っ張り、小声で訊ねた。
「よろしいですの?」
「セルティが言い出したんだから、問題ないだろ」
三人組は手合わせにクリスが入らないことに安堵した。
よく見れば赤髪は治療師の服を着ているし、あとの二人は筋肉質で異国の服を着ているが、騎士や戦士の服装ではない。
これなら勝算はある、と考えた三人は軽く頷いた。
「セルシティ第三皇子が言われるのなら」
「我らの実力をお見せする、よい機会です」
「ちょうど軽く体を動かしたいと思っていたところですし」
自信満々に言った三人は、自分たちを吹き飛ばしたのがルドであることに気付いていない。
しかも、最近オークニーに来たため、オグウェノがケリーマ王国の第四王子であることも、その実力も知らなかった。
「では、鍛錬場へ行こう」
セルシティは晴れやかな笑顔で全員を案内した。
手合わせの結果から言うと、イディは何もせず。ルドとオグウェノによる、一方的なものだった。
二人は三人組に対して、必ず急所を外し、絶妙な手加減で相手が起き上がれる程度の攻撃をした。
一方の三人組もプライドがあり、自国の皇子が観戦している前で無様な姿は見せられず、自ら負けを認めるなど出来ない。
こうして三人組は体力の限界まで挑むこととなった。
ボロ雑巾のように鍛錬場に転がる三人を胸の前で腕を組んだルドとオグウェノが見下ろす。
ルドの赤髪が初夏の風に絡み、燃えるようになびく。だが、琥珀の瞳に輝きはなく、底が見えないほど冷える。
「もう終わりですか?」
感情がない声の隣では、オグウェノが艶やかな黒髪を揺らし嘲笑を浮かべる。軽い雰囲気なのだが、深緑の瞳は笑っていない。
「情けねぇな。こっちは剣も抜いてないのに」
ルドが一歩踏み出す。
「もし次、師匠に声をかけたら……」
格の違いを思い知らされた三人が慌てて首を横に振る。
「か、かけねぇ! 二度と声はかけねぇ!」
「わ、悪かった! オレたちが悪かったから!」
「もう、しねぇ! 絶対にしねぇから!」
オグウェノが屈んで三人と視線を合わした。
「その言葉、忘れるなよ」
「あ、あぁ!」
「忘れない! 忘れないから!」
「勘弁してくれ!」
三人が逃げ腰になっているところにクリスが歩いてきた。
『ヒッ!』
恐怖で三人の声が重なる。クリスは呆れたように三人組を見下ろした。
「おまえたち。騎士なら最低でも相手の実力が読み取れるぐらいにはなれ。家柄と実力を混同するな。でなければ戦に出ても、すぐ死ぬぞ」
オグウェノはクリスの隣に立つと、深緑の瞳を細くして微笑んだ。
「まったく。月姫は優しいな」
「そんなことはない」
クリスが踵を返してセルシティがいる方向へ歩く。ルドとオグウェノが目を合わした。
「では、これぐらいで」
「そうだな」
二人がクリスの後に付いていく。セルシティはルドとオグウェノを見ながら、戻ってきたクリスに言った。
「豪華な護衛だな」
「いずれ帰る場所がある者たちだ。私には関係ない」
その言葉にセルシティはやれやれと肩をすくめた。
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