【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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混乱とクリスの答え

それは、甘い朝でした

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「おはようございます」

 ルドの挨拶に返事はない。クリスは半分だけ目を開けて、ボーとしていた。寝ぼけているようで目がとろんとしている。滅多に見れないその顔が、また愛おしい。

 ルドが飽きることなく見つめる。その視線に気づいたのか、クリスの顔が赤くなり、目が丸くなり、突然両手で顔を隠した。

「ま、待て、待て、待て! 昨日、なにがあった!? どうして、おまえと一緒に寝ているんだ!? どこからが夢だ!?」
「落ち着いてください」

 ルドがクリスの前髪に軽くキスをした後、落ち着かせるように抱きしめた。
 ルドの行動に驚いたクリスが顔をあげる。その表情はポカンという言葉通りで、どこか間抜けだ。いつもの憮然としたクリスからは考えられない。

 ルドが微笑む。

「まだ朝早いですので、寝ていていいですよ」
「え!? いや、待て。説明が先だろ? ここはどこだ? 王城の離れではないのか? 私は……どうして、おまえと、あの、その、寝てぃ、ぅ……」

 恥ずかしいのか語尾が小さくなる。ルドは自分の腕の中で丸く小さくなっていくクリスの頭を撫でた。

「あの後、自分はやけ酒を呑んでいました。その途中で第四王子の部屋にきたら、鬱陶しがられ、閉じ込められてしまいました」
「おまえが、やけ酒!?」

 クリスが驚いて顔をあげる。ルドは眉尻を下げた。

「結構、ショックだったんですから。やけ酒ぐらいしますよ。人生初のやけ酒でしたが」
「そ、そうか……」

 クリスが居心地悪そうに俯く。

「そうしたら、師匠が先にテラスで呑んでいました」
「そうだ! 私はテラスで呑んでいたのに……クソッ、記憶が……」
「少し話したら、師匠は酔いつぶれてしまいました」
「……少し、話した?」

 クリスが恐る恐る目線だけをあげる。

「私は……なにを、話した?」
「なんでしょうね」

 ルドが満面の笑みでニヤける。クリスが目の前にある胸を叩いた。

「言え! 私はなにを話した!?」
「秘密です」
「言え!」

 クリスが体を起こしてルドに圧し掛かる。金色の髪がクリスの肩からルドの頬へと流れ落ちた。
 ルドが楽しむように金髪を自分の指に絡める。

「師匠が自分を受け入れてくれるなら、話しますよ?」
「っ!」

 クリスが身を引く。ルドは体を起こし、クリスの胸で揺れる魔宝石に触れた。

「師匠が耳に付けてくれるまで、自分は諦めませんから」
「その話は……」
「自分はずっと想い続けます。師匠がどれだけ拒否しても、自分はずっと側にいます」

 琥珀の瞳が深緑の瞳を射る。クリスに昨日の感情がこみ上げてくる。涙が溢れないように堪えるだけで精一杯だ。

 クリスは顔を隠すようにシーツの海に潜った。離れないといけない、拒否しないといけない。でも、ルドが側からいなくなった時、自分は耐えられるのか。

 (……きっと無理だ)

 クリスがどうにか声を出す。

「か、勝手にしろ」
「はい、勝手にします」

 ルドがクリスを包み込むように抱きしめる。その温もりにクリスは安堵した。

「優しさに甘えて……ダメだな」
「どうしました?」

 クリスの呟きが聞き取れなかったルドがシーツをめくり覗き込む。

「なっ、なんでもない! 勝手にシーツを取るな!」
「いや、師匠が勝手にしろって、言ったんじゃないですか」
「そういうことではなく!」
「勝手にしますよ」
「ちょっ! シーツの中に入ってくるな! こら! やめっ!」

 カリストが朝の紅茶を持参した時にはクリスは疲労困憊だった。

 クリスは疲れた顔で目覚めの紅茶を飲んだ。目はすっかり覚めているので、目覚めの紅茶とは言えないが。
 一方、反対側で同じように紅茶を飲むルドは生き生きしている。クリスが恨めしそうにルドを睨んでいると、カリストが背後に立った。クリスの髪の色を変えるため、鼈甲の櫛を取り出す。

 それをルドが止めた。

「待ってください」

 ルドが紅茶のカップを置いて立ち上がると、足早にカリストの隣に移動した。
 クリスが振り返り、首を傾げる。

「どうした?」
「自分がします」

 ルドが櫛を受けとろうと手を差し出す。カリストが意見を求めるように視線をクリスに向ける。
 クリスは慌てて確認した。

「おまえが私の髪の色を変えるってことか?」
「はい」
「なぜ!?」

 ルドが金色の髪を一房手に取り、口元に引き寄せる。

「師匠の髪に、自分以外の魔力を付けたくないからです」

 クリスの顔が真っ赤になる。口をパクパクさせるが、声が出てない。
 カリストは肩をすくめながら櫛をルドに差し出した。

「嫉妬も度が過ぎると醜くなりますよ」
「ありがとうございます」
「その櫛は差し上げます」
「カリスト!」

 クリスの抗議にカリストが微笑む。

「諦めてください」
「そういうことです」

 ルドがクリスの髪に鼈甲の櫛を滑らす。金髪が茶色へと変わっていく。これで下手なら文句の一つでも言えるが、髪は櫛に引っかかることなく流れていく。
 クリスは不満顔で紅茶を飲むしかなかった。

「終わりました」

 ルドが懐に櫛を収める。クリスは慌てて振り返った。

「ま、待て! おまえが、その櫛を持ったら、明日からどうするんだ!?」
「朝、自分が師匠の髪の色を変えます」
「それは、毎朝私の部屋に来るということか!?」
「そうです」

 ルドが当然のように頷く。

「ちょっ、それは……」
「カリストが毎朝していたことを、自分がしてはいけませんか?」
「カリストと、おまえは違う!」

 その瞬間、空気が凍り、琥珀の瞳が鋭くなる。クリスが思わず息を飲んだ。なにか、地雷とやらを踏んだ気分。
 ルドが爽やかながらも裏に何かがこもった笑顔で訊ねる。

「カリストが良くて、自分がダメな理由を教えてください」
「うっ……」

 ルドの迫力に押され、クリスが下がる。

「いや、あの、その……朝早くから、私の部屋に来るのは大変だし……」
「朝の鍛錬のために早く起きていますので、問題ありません」
「そ、それにオークニーに戻ったら、おまえの屋敷と私の屋敷は離れているから、朝から移動するのは……」
「毎朝、師匠をお迎えに行ってましたので、労力は変わらないです」
「……うぅ」

 ソファーに押し倒されそうなほど迫られ、クリスがクッションに手を付く。カリストが紅茶のセットを片付けながら、助け船を出した。

「その話は後で、ごゆっくりしてください。今は朝食をどうぞ」
「そうですね」

 ルドがクリスに手を差し出す。

「食堂へ行きましょう」
「……その前に着替えてくる」

 クリスは立ち上がると、さっさと廊下へ移動した。
 二人きりになったところで、カリストがルドに忠告する。

「押しすぎると、かえって逃げられますよ?」
「あまりに可愛すぎて、つい」
「変わり過ぎも問題ですね」
「もう、我慢はしませんから。自分も着替えてきます」
「ご自由にどうぞ」

 ルドも自室へと戻った。






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