【完結】黒猫になった甦りの魔女と子どもになった腹黒な元王子は不処カフェで宝石を待つ

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ヨミとテラの関係

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 ヨミとロイの前に現れたテラが、感心したように口角を上げた。

「まさか王が付けていたとは。ヨミが探しても見つからないわけだ」

 ぞわりとした不穏な気配が漂う。頭を下げていた騎士たちが一斉に立ち上がった。

「何者だ!」

 一瞬で戦闘態勢になった騎士たちに兵士たちも続く。

「邪魔するな」

 テラが右手を挙げ、魔法を詠唱した。

『除廃』

 テラを中心に竜巻が発生し、ヨミとロイ以外の人と猫が飛ばされる。次に闘技場の中心に半透明の半球が出現し、ヨミたちを覆った。
 テラがロイに声をかける。

「これで邪魔者は入ってこれない。では、そのブローチを渡してもらおうか」
「待って!」

 ヨミはテラの前に立ち、訴えた。

「大量の負の魔力が消せるかもしれないの。そうすれば、過去を変えなくても……」
「なら、今のヨミが死んで、次に甦った時に発生した大量の負の魔力はどうするんだい?」

 思わぬ質問にヨミの目が無言で丸くなる。

「もし、今回の大量の負の魔力を消せば、私は転生できない。では、次は誰が大量の負の魔力を消費するんだい? 大量の負の魔力を使う魔法を扱える人間を、何人も集めるのかい? それとも、私だけ死んで負の魔力を使って転生しろと?」
「それは……」
「それをすれば、ヨミが甦るタイミングと私が転生するタイミングがずれる。結局は次にヨミが甦った時、大量に発生した負の魔力を消すのに困るだけだ」
「それ、は……」

 ヨミは口ごもった。胸に広がっていた期待はいつの間にか消えている。

「それとも、ヨミは願うのかい? ともに生きたい、と」

 その言葉にロイが反応する。

「ともに生きたいと願ったら、どうなるんだ?」
「ヨミが唯一、甦ることなく死ねる方法だよ。ある特定の人間。その人とともに生きたいと心から望むこと。望んだ瞬間、死が迎えにくるがな」
「そん、な……まるで、呪いじゃないか!」
「呪い……そうだな。これは魔法ではなく、呪いだ。禁術と呼ばれ、封印されていた」

 テラが空を仰ぐ。金髪がふわりと風にのり、翡翠の瞳がここではない遠い空を映した。

「ヨミは幼い頃から病弱で満足に外で遊べなかった。魔法研究家だった両親は最初、ヨミの病気を治そうと必死に研究していた。しかし、その情熱も徐々に薄れ消えた」

 フッとテラが自嘲気味に笑う。

「両親はさじを投げたが、子どもだった私は諦めず、いろんな魔法をヨミに試した。そして、やっと治せたと思った魔法はヨミから死を奪い、永遠と甦る体にした」
「まさ……か、おまえが! おまえが原因なのか!」

 ロイがテラに掴みかかろうとする。そこにヨミは飛び込んで止めた。

「待って! にいには悪くないの!」
「にいに?」

 気まずそうに下を向いたヨミはボソリと呟く。

「……テラは私の実の兄よ」
「なん……」

 固まったロイにヨミはゆっくりと語り始めた。

「にいに……テラは、私が甦ることなく死ぬ方法を、ずっと探してくれているの。そして、負の魔力が世界をのみ込む前に自ら死んで、負の魔力を消費して転生して。それを、何度も、何度も……」

 テラがきっぱりと断言する。

「私はヨミをこんな体にした責任がある」
「だからって他に方法は!?」

 吠えるロイをテラがあざ笑った。

「あったさ。それが、さっき話した『誰かと、ともに生きたいと願う』だ。だが、見つけ時には手遅れだった。何度も繰り返した甦りの中で、ヨミは希望と期待の感情を凍らせた。希望を持たなければ、期待しなければ、甦った時に今度も死ねなかった、と絶望することもない」

 説明をしながらテラがキツく拳を握りしめる。

「だから、ヨミが心からともに生きたいと……誰かと未来に希望を持ちたいと思うことなど、不可能なのだ」
「なぜ、心を凍らせたりなんか……」

 ロイの呟きにヨミはビクリと跳ねた。
 テラが静かにロイを睨む。

「なぜ、だと? 今度こそ、と希望を持って死んで甦った時の絶望が、どれだけのことだと思っている!? それだけではない。外見だけで寄り付く醜い人間。どの世でも争い、変わらない世界。絶望で壊れていくヨミの心を守るには、必要なことだった!」
「心が……壊れていく?」

 ヨミはロイから顔を逸した。心を柔らかくしろ、と偉そうなことを言っておきながら、自分は心を凍らせて逃げている。

 テラが一歩踏み出し、ロイに迫った。

「だから石を渡せ。すべてをなかったことにすればいい。そうすれば、こうして悩むことも、苦しむこともない」

 これまでの衝撃の事実に負けずロイがテラを睨む。

「すべてとは、どういうことだ?」
「私はその石で、ヨミに甦りの魔法をかけなかった過去に変える」
「な!? では、私は……」
「そうだな。ヨミと出会うことさえない。ヨミは甦ることもなく、大昔にその寿命を終える」

 ロイがブローチを握りしめた。

「そんなことはさせない!」
「そうは言っても、その姿ではまともに戦えまい」

 体は子どもで、魔法も使えない。それでも、歯をくいしばるロイの目は諦めていない。
 ロイがヨミに頭を下げ、懇願する。

「使い魔の再契約を! お願いします!」

 ヨミは強く目を閉じた。苦渋の決断をするように声を絞り出す。

「もう、二度と契約破棄はできないわよ。それどころか、前より強い契約になるわ。そうなったら、記憶は戻せないかも……」
「かまいません! あなたとの関係がすべて消えることに比べたら!」

 ロイの強い決意にヨミはゆっくりと瞼を開いた。黄金の瞳がロイに最後の確認をする。

「……いいのね?」
「はい」

 ヨミは猫の姿のままロイの前に座り、右前足を掲げた。

『遠き地より再び契約をおこなう。彼の者、ロイロ・アルジエッタを、我が真名、月讀命ツクヨミの名において、眷族とせん』

 テラが残念そうに笑う。

「それが答えか」

 ヨミの体から魔力が抜け、ロイに移った。体が軽くなりホッと息を吐くヨミの前で、ロイの髪色が黒から銀に変化していく。グッと背が伸び、顔が少年から青年になった。

 立ち上がったロイが青水晶の瞳でテラを睨む。
 銀髪が風で舞い上がった。眉目秀麗な顔立ちにまっすぐ閉じられた口。今までのロイとなにかが違う。

 ロイが細身の剣を手にしてテラへ向けた。

「宝石をすべて渡せ」
「断る、と言ったら?」

 テラの問いに、ロイが腰を落とし剣をかまえる。

「力ずくで奪う」
「あんなに負け続けているのに? 私に勝てるとでも?」
「挑発にはのらない」

 ロイが余裕の表情でフッと口角を上げた。今までと違う雰囲気にテラが笑みを消し、剣を出してかまえる。

「少しはまともに相手ができそうだな」
「その余裕も今のうちだ」

 ロイが剣先を地面に向け、魔法を詠唱した。

『風よ、大地と踊れ』

 剣先の地面にヒビが入り、そのままテラの足元まで地面が割れる。
 しかし、そのことを予想していたようにテラが土を蹴り、上空へ逃げた。そこに竜巻が現れ、テラを追いかける。

「少しはやるようになったか」

 テラが竜巻に手をかざし、魔法を詠唱した。

『散塵』

 竜巻があっさりと消える。だが、竜巻の近くにいたロイの姿もない。
 どこだ、と探すテラの背後に影が飛んできた。テラの背にロイが大きく剣を振り下ろす。

「チッ」

 テラは無理やり体を捻りながら、剣で攻撃を受けた。

「クッ!」

 体勢が悪かったため、剣を受け止めるだけで精一杯だったテラは地面に叩きつけられた。
 打撃音とともに、土埃が巻き上がる。風が土煙を飛ばし、中から土で汚れたテラが出てきた。

「おもしろい。少しはできるようだな」
「少し、かな?」

 お互いにニヤリと口角が上がる。次の瞬間、盛大に魔法が爆ぜ、剣撃が響いた。
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