29 / 34
決着
しおりを挟む
突如、闘技場に現れた半透明の半球体。その中ではロイとテラが打ち合う魔法と土煙で埋め尽くされていた。その周囲を騎士や兵士たちが囲み、心配そうに中を覗く。
そこへ騒ぎを聞きつけたパルドがやってくきた。半球体の前に立つグリスを見つけ、急いで駆け寄る。
「なにが起きているのですか!? どういうことです!?」
「若い、ということだな」
ホッホッホッと笑うグリスに、パルドが焦りと怒りを抑えて再度訊ねた。
「ちゃんと説明を……」
そこに爆音が空気を振動させ、地面が大きく揺れる。尋常ではない戦いの規模。
パルドが自分の仕事を思い出し、周囲を確認した。
「ネイビ様はどこですか!? 安全なところへお連れしないと!」
「ここは私に任せて行きなさい」
何か言いたげなパルドだったが、現状から主であるネイビの安全確保を優先と判断し、グリスに一礼して駆け出した。
黒猫姿のヨミはグリスに近づき、半透明の壁越しに話しかける。
「まさか、ここまでのことになるなんて。迷惑をかけるわ、ね」
「いやいや、こちらこそ。うちの王家の方たちの方がご迷惑をおかしておりますからの」
「曲者揃い、ね」
「魔女殿には負けます」
心外な言葉にヨミはムッとした。
「私は曲者ではないわ」
「ホッホッホッ。そういうことにしておきましょう」
再び爆音が響き、地面が揺れる。ヨミはバランスをとりながら、軽くため息を吐いた。
「もう少し周囲のことを考えてほしいわ」
巻き上がる土煙であまり見えないが、テラとロイの魔法と剣が休むことなくぶつかり合う。
二人とも徐々に傷が増えているが、決定打にかけるらしく決着がつかない。
そのためか、戦いながら罵倒合戦が始まった。先制はテラから。
「そろそろ諦めたらどうだ? しつこい男は嫌われるぞ?」
「しつこさについては、あなたに言われたくない」
「おや。いつ、私がしつこいと?」
剣を弾いた高い金属音が響く。
「ヨミの兄だがなんだが知らんが、つきまといすぎだ」
「私は自分がしたことの責任を取ろうとしているだけだ」
「兄だから、なにをして良いという訳ではないだろ! もう少しヨミのことを考えろ!」
テラの片眉がピクリと上がった。怒りを抑えた声で、剣を振り下ろしながら怒鳴る。
「おまえにヨミの何が分かる!」
ドン、と衝撃波が広がった。ヨミは地面に爪をたて、身を低くして飛ばされないようにする。
正面から剣を受けたロイがそのまま堪えた。
「ヨミは……焼き立てパンが好きだ!」
叫びとともに剣を弾く。周囲がきょとんと目を丸くする中、ロイが真剣に話を続けた。
「陽だまりでの昼寝も好きだし、静かに本を読むのも好きだ」
そこまで聞いたテラが鼻で笑う。ヨミは猫のまま器用に頭を抱えた。
「突然なにを言い出すのかと思えば……呆れられて当然よ」
テラがビシッと剣先をロイに向ける。
「ヨミが一番好きな食べ物はイチゴだ。昼寝より朝の二度寝の方が好きだし、愛読書は世界各国の神話集とおとぎ話だ」
予想外のテラの返しにヨミは叫んでいた。
「真面目に張り合わないで!」
ヨミの声が聞こえてないのか、ロイが悔しそうに反論する。
「朝食に焼き立てパンとイチゴを並べたら、先に焼き立てパンを食べた。古い情報を持ち出すな!」
「わかっていないな。ヨミは好物を最後に食べる派だ!」
余裕の笑みを浮かべるテラに、ロイがぐぐぐ、と唸る。
「ヨミは昼寝の方が好きだ。二度寝より、昼寝の邪魔をした時のほうが激しく怒る!」
「クッ……」
返しが浮かばないのかテラが言葉に詰まった。ロイが勝ち誇ったように笑う。
「ちなみに最近の愛読書は、怪談モノと推理モノだ。あと枕の下にこっそり恋愛小説を隠している」
最後の言葉にヨミは爆発して、テラが膝から崩れ落ちた。
「なんで、枕の下の本を知ってるのよ!」
「あ、あの怖がりなヨミが、怪談モノを読んでいる……だと?」
プルプルと震えるテラにヨミが叫ぶ。
「なんで剣と魔法の攻撃の時より負傷してるの!?」
「しかも、恋愛小説を枕の下に……」
「それぐらい、別に読んでもいいでしょ!」
人の姿であれば顔を真っ赤にしていたであろうヨミは、全身の毛を膨らまして叫んでいた。
そこに、ロイがとどめを刺す。
「あと右耳の後ろと顎を撫でたら、ゴロゴロと喉を鳴らして転がる」
テラとヨミは同時に叫んだ。
「なんだと!?」
「鳴らしてない!」
ロイが目を閉じて思い出す。
「喉を鳴らさないように必死な姿がまた可愛らしく。結局、最後は喉を鳴らしているんですが、本人は気づいていないんです」
「う、嘘よ! 嘘よね!?」
「事実ですよ。今、やってみましょうか?」
青水晶の瞳が優しくヨミを見つめる。ヨミは顔を真っ赤にして、言葉が出なかった。今は猫なので、顔が真っ赤になったことは誰にも分からなかったが。
そこに、テラから力のない声がした。
「……しなくていい」
俯いたままテラがゆらりと立ち上がる。
「やはり、過去は変えないといけない。甦りの魔法をかける前の過去に。私が知っているヨミがいる世界に」
翡翠の瞳が淀みすわっている。ロイが軽く笑って剣をかまえた。
「知ってるか? そういうのを世間ではシスコンと言うんだ。いい加減に妹離れしたら、どうだ?」
「黙れ。そもそも、おまえが現れなければ良かっただけのこと」
テラが言い終わると同時に踏み込んだ。ロイとの距離を一気に詰める。剣でロイを一刀両断……に見せかけて左手を出した。
『塊氷』
先端が尖った氷の塊がロイを囲む。動けば氷で傷だらけになる。
ロイの逃げ道を塞いだテラが剣を振り下ろした。しかし、ロイが迷うことなく氷の隙間を抜ける。
「なに!?」
氷がロイの体を裂いていく。しかし、ロイの動きは止まらない。
ロイが驚くテラの懐に入った。
「これで終わりだ!」
腰を捻り、ロイが全身をバネにして剣を振る。
『炎よ、風とともに剣と踊れ!』
炎と風をまとった剣がテラの脇腹を直撃した。
「グハッ」
防御が間に合わなかったテラの体が地面スレスレを飛んだ後、数回跳ねて転がった。
周囲を覆っていた半透明の半球が消える。空から吹いてきた風がヨミの頬を撫でた。
そこへ騒ぎを聞きつけたパルドがやってくきた。半球体の前に立つグリスを見つけ、急いで駆け寄る。
「なにが起きているのですか!? どういうことです!?」
「若い、ということだな」
ホッホッホッと笑うグリスに、パルドが焦りと怒りを抑えて再度訊ねた。
「ちゃんと説明を……」
そこに爆音が空気を振動させ、地面が大きく揺れる。尋常ではない戦いの規模。
パルドが自分の仕事を思い出し、周囲を確認した。
「ネイビ様はどこですか!? 安全なところへお連れしないと!」
「ここは私に任せて行きなさい」
何か言いたげなパルドだったが、現状から主であるネイビの安全確保を優先と判断し、グリスに一礼して駆け出した。
黒猫姿のヨミはグリスに近づき、半透明の壁越しに話しかける。
「まさか、ここまでのことになるなんて。迷惑をかけるわ、ね」
「いやいや、こちらこそ。うちの王家の方たちの方がご迷惑をおかしておりますからの」
「曲者揃い、ね」
「魔女殿には負けます」
心外な言葉にヨミはムッとした。
「私は曲者ではないわ」
「ホッホッホッ。そういうことにしておきましょう」
再び爆音が響き、地面が揺れる。ヨミはバランスをとりながら、軽くため息を吐いた。
「もう少し周囲のことを考えてほしいわ」
巻き上がる土煙であまり見えないが、テラとロイの魔法と剣が休むことなくぶつかり合う。
二人とも徐々に傷が増えているが、決定打にかけるらしく決着がつかない。
そのためか、戦いながら罵倒合戦が始まった。先制はテラから。
「そろそろ諦めたらどうだ? しつこい男は嫌われるぞ?」
「しつこさについては、あなたに言われたくない」
「おや。いつ、私がしつこいと?」
剣を弾いた高い金属音が響く。
「ヨミの兄だがなんだが知らんが、つきまといすぎだ」
「私は自分がしたことの責任を取ろうとしているだけだ」
「兄だから、なにをして良いという訳ではないだろ! もう少しヨミのことを考えろ!」
テラの片眉がピクリと上がった。怒りを抑えた声で、剣を振り下ろしながら怒鳴る。
「おまえにヨミの何が分かる!」
ドン、と衝撃波が広がった。ヨミは地面に爪をたて、身を低くして飛ばされないようにする。
正面から剣を受けたロイがそのまま堪えた。
「ヨミは……焼き立てパンが好きだ!」
叫びとともに剣を弾く。周囲がきょとんと目を丸くする中、ロイが真剣に話を続けた。
「陽だまりでの昼寝も好きだし、静かに本を読むのも好きだ」
そこまで聞いたテラが鼻で笑う。ヨミは猫のまま器用に頭を抱えた。
「突然なにを言い出すのかと思えば……呆れられて当然よ」
テラがビシッと剣先をロイに向ける。
「ヨミが一番好きな食べ物はイチゴだ。昼寝より朝の二度寝の方が好きだし、愛読書は世界各国の神話集とおとぎ話だ」
予想外のテラの返しにヨミは叫んでいた。
「真面目に張り合わないで!」
ヨミの声が聞こえてないのか、ロイが悔しそうに反論する。
「朝食に焼き立てパンとイチゴを並べたら、先に焼き立てパンを食べた。古い情報を持ち出すな!」
「わかっていないな。ヨミは好物を最後に食べる派だ!」
余裕の笑みを浮かべるテラに、ロイがぐぐぐ、と唸る。
「ヨミは昼寝の方が好きだ。二度寝より、昼寝の邪魔をした時のほうが激しく怒る!」
「クッ……」
返しが浮かばないのかテラが言葉に詰まった。ロイが勝ち誇ったように笑う。
「ちなみに最近の愛読書は、怪談モノと推理モノだ。あと枕の下にこっそり恋愛小説を隠している」
最後の言葉にヨミは爆発して、テラが膝から崩れ落ちた。
「なんで、枕の下の本を知ってるのよ!」
「あ、あの怖がりなヨミが、怪談モノを読んでいる……だと?」
プルプルと震えるテラにヨミが叫ぶ。
「なんで剣と魔法の攻撃の時より負傷してるの!?」
「しかも、恋愛小説を枕の下に……」
「それぐらい、別に読んでもいいでしょ!」
人の姿であれば顔を真っ赤にしていたであろうヨミは、全身の毛を膨らまして叫んでいた。
そこに、ロイがとどめを刺す。
「あと右耳の後ろと顎を撫でたら、ゴロゴロと喉を鳴らして転がる」
テラとヨミは同時に叫んだ。
「なんだと!?」
「鳴らしてない!」
ロイが目を閉じて思い出す。
「喉を鳴らさないように必死な姿がまた可愛らしく。結局、最後は喉を鳴らしているんですが、本人は気づいていないんです」
「う、嘘よ! 嘘よね!?」
「事実ですよ。今、やってみましょうか?」
青水晶の瞳が優しくヨミを見つめる。ヨミは顔を真っ赤にして、言葉が出なかった。今は猫なので、顔が真っ赤になったことは誰にも分からなかったが。
そこに、テラから力のない声がした。
「……しなくていい」
俯いたままテラがゆらりと立ち上がる。
「やはり、過去は変えないといけない。甦りの魔法をかける前の過去に。私が知っているヨミがいる世界に」
翡翠の瞳が淀みすわっている。ロイが軽く笑って剣をかまえた。
「知ってるか? そういうのを世間ではシスコンと言うんだ。いい加減に妹離れしたら、どうだ?」
「黙れ。そもそも、おまえが現れなければ良かっただけのこと」
テラが言い終わると同時に踏み込んだ。ロイとの距離を一気に詰める。剣でロイを一刀両断……に見せかけて左手を出した。
『塊氷』
先端が尖った氷の塊がロイを囲む。動けば氷で傷だらけになる。
ロイの逃げ道を塞いだテラが剣を振り下ろした。しかし、ロイが迷うことなく氷の隙間を抜ける。
「なに!?」
氷がロイの体を裂いていく。しかし、ロイの動きは止まらない。
ロイが驚くテラの懐に入った。
「これで終わりだ!」
腰を捻り、ロイが全身をバネにして剣を振る。
『炎よ、風とともに剣と踊れ!』
炎と風をまとった剣がテラの脇腹を直撃した。
「グハッ」
防御が間に合わなかったテラの体が地面スレスレを飛んだ後、数回跳ねて転がった。
周囲を覆っていた半透明の半球が消える。空から吹いてきた風がヨミの頬を撫でた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる