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変えた過去
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ガーベラが必死に訴えている声がする。ヨミは改めて自分の体を見た。ふわふわな毛に土埃を被った黒猫の姿。
顔を上げればガーベラがロイに詰め寄っていた。
「アレはなんですか!? 侍女やメイドたちには見えていないようですし、驚くどころか誰も気づきませんし!」
「わかりました。今からどうにかしますので、姉上は城へお戻りください」
ヨミはボーとする頭で周囲を見た。ここは闘技場。さっきまでロイがテラと宝石をかけて戦って……それから……
霞がかかったように思い出せない。苦悩するヨミの視界の端にネイビの姿が写った。
しかし、ガーベラとロイはネイビの存在に気づかない。
「ですが……」
「すでに手は打ってあります。あとは……」
ここでロイがネイビに気がつき声をかけた。
「騒がせて、すまない。これから……ネイビ?」
ネイビからの返事はない。それどころか俯いたまま、ブツブツと小声で呟き続けている。
「おい、ネイビ。どうした?」
ネイビがズリズリと足を引きずるように歩く。
(この光景、どこかで見たような……)
ヨミはまっすぐこちらに来るネイビを見ていた。
「魔女だ……魔女のせいだ……すべては魔女が現れたから……」
ネイビはロイが見えていないかのように隣を通り抜ける。その手には短刀。
「ネイビ!」
ロイが短刀の存在に気がついた時には、ネイビはヨミの前にいた。
ヨミの脳裏に短刀を振り上げるネイビの姿が浮かぶ。
「魔女さえいなければ!」
想像通りネイビが短刀を振り上げる。
(ここで避けようとして左前足が痛くて動けなかった)
ヨミは駆け寄ってくるロイの姿を見た。
(このままだと、ロイがまた刺される!)
ヨミはその場でくるんと回り、人の姿に戻った。突然の光りに、ロイの動きが止まる。
しかし、ネイビが振り下ろした腕は止まらなかった。
「ウッ」
胸に鋭い痛みが走る。
「ヨミ!?」
「やった! 殺したぞ! 魔女を殺した! これで兄上は元通りだ! あはははは……」
「ネイビ! なんてことを!」
「ネイビ様! お気を確かに! ネイビ様を城へお連れしろ!」
「はっはははっ! やった! やったぞ!」
ネイビの高笑いが遠くなっていく。ヨミは力が入らず、膝から崩れ落ちた。
「ヨミ! しっかりしろ! 治療師を! 急げ!」
倒れるヨミの体をロイが支える。
(上手くやれた……の、ね)
「あなたが無事で、よかった」
「よくないです!」
ロイがイヤイヤと子どものように頭を振った。その姿にヨミは思わず、ふふふ、と声を漏らす。
「なにがおかしいんですか」
「私と同じこと言ってる」
「同じこと?」
怪訝な顔をするロイにヨミは微笑んだ。
「気に、しないで……ヴッ」
「おい! 治療師はまだか! 早く!」
「い、いのよ。魔法では……治らない」
呪詛のせいか視界がぼやける。ロイの顔を見たいのに見れない。
ポツポツと頬に何かが落ちてきた。
「泣いて、いるの?」
「雨ですよ、雨」
「……そう」
ずいぶんと生温かい雨。それに塩っぱい。
ぼやけたヨミの視界に金髪が映る。
「ありがとう、にいに」
ロイの背後の立つテラが訊ねた。
「石を使ったのか?」
「あと、お願い……ね」
「もう、甦らないのか?」
あの喪失感をロイに体験させることになるけど。
「えぇ」
「ヨミ!?」
驚くロイにヨミは微笑んだ。
もう息をするのも億劫で。でも、これだけは伝えないと。
「ロイ……私は」
「話すな! 治療をすれば、まだ間に合う! まだ……」
「聞いて……」
ロイが言葉をのみ込む。
「ロイ……私、ね。あなたのこと、一緒に生きたいと思えるぐらいには、す……」
ヨミの息が静かに止まった。
「ヨミ!? ヨミ!?」
ロイが必死にヨミの体を揺するが反応はない。白い顔がますます白くなる。体から温もりが消えていく。
どんなに抱きしめても、どこも動かない。
「ヨミィィィ!」
ロイが吠えるように泣き叫んだ。
顔を上げればガーベラがロイに詰め寄っていた。
「アレはなんですか!? 侍女やメイドたちには見えていないようですし、驚くどころか誰も気づきませんし!」
「わかりました。今からどうにかしますので、姉上は城へお戻りください」
ヨミはボーとする頭で周囲を見た。ここは闘技場。さっきまでロイがテラと宝石をかけて戦って……それから……
霞がかかったように思い出せない。苦悩するヨミの視界の端にネイビの姿が写った。
しかし、ガーベラとロイはネイビの存在に気づかない。
「ですが……」
「すでに手は打ってあります。あとは……」
ここでロイがネイビに気がつき声をかけた。
「騒がせて、すまない。これから……ネイビ?」
ネイビからの返事はない。それどころか俯いたまま、ブツブツと小声で呟き続けている。
「おい、ネイビ。どうした?」
ネイビがズリズリと足を引きずるように歩く。
(この光景、どこかで見たような……)
ヨミはまっすぐこちらに来るネイビを見ていた。
「魔女だ……魔女のせいだ……すべては魔女が現れたから……」
ネイビはロイが見えていないかのように隣を通り抜ける。その手には短刀。
「ネイビ!」
ロイが短刀の存在に気がついた時には、ネイビはヨミの前にいた。
ヨミの脳裏に短刀を振り上げるネイビの姿が浮かぶ。
「魔女さえいなければ!」
想像通りネイビが短刀を振り上げる。
(ここで避けようとして左前足が痛くて動けなかった)
ヨミは駆け寄ってくるロイの姿を見た。
(このままだと、ロイがまた刺される!)
ヨミはその場でくるんと回り、人の姿に戻った。突然の光りに、ロイの動きが止まる。
しかし、ネイビが振り下ろした腕は止まらなかった。
「ウッ」
胸に鋭い痛みが走る。
「ヨミ!?」
「やった! 殺したぞ! 魔女を殺した! これで兄上は元通りだ! あはははは……」
「ネイビ! なんてことを!」
「ネイビ様! お気を確かに! ネイビ様を城へお連れしろ!」
「はっはははっ! やった! やったぞ!」
ネイビの高笑いが遠くなっていく。ヨミは力が入らず、膝から崩れ落ちた。
「ヨミ! しっかりしろ! 治療師を! 急げ!」
倒れるヨミの体をロイが支える。
(上手くやれた……の、ね)
「あなたが無事で、よかった」
「よくないです!」
ロイがイヤイヤと子どものように頭を振った。その姿にヨミは思わず、ふふふ、と声を漏らす。
「なにがおかしいんですか」
「私と同じこと言ってる」
「同じこと?」
怪訝な顔をするロイにヨミは微笑んだ。
「気に、しないで……ヴッ」
「おい! 治療師はまだか! 早く!」
「い、いのよ。魔法では……治らない」
呪詛のせいか視界がぼやける。ロイの顔を見たいのに見れない。
ポツポツと頬に何かが落ちてきた。
「泣いて、いるの?」
「雨ですよ、雨」
「……そう」
ずいぶんと生温かい雨。それに塩っぱい。
ぼやけたヨミの視界に金髪が映る。
「ありがとう、にいに」
ロイの背後の立つテラが訊ねた。
「石を使ったのか?」
「あと、お願い……ね」
「もう、甦らないのか?」
あの喪失感をロイに体験させることになるけど。
「えぇ」
「ヨミ!?」
驚くロイにヨミは微笑んだ。
もう息をするのも億劫で。でも、これだけは伝えないと。
「ロイ……私は」
「話すな! 治療をすれば、まだ間に合う! まだ……」
「聞いて……」
ロイが言葉をのみ込む。
「ロイ……私、ね。あなたのこと、一緒に生きたいと思えるぐらいには、す……」
ヨミの息が静かに止まった。
「ヨミ!? ヨミ!?」
ロイが必死にヨミの体を揺するが反応はない。白い顔がますます白くなる。体から温もりが消えていく。
どんなに抱きしめても、どこも動かない。
「ヨミィィィ!」
ロイが吠えるように泣き叫んだ。
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