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未来へ
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闘技場にロイの嗚咽が響く。人形のように動かなくなったヨミをただただ抱きしめる。
「今度も……今度も守れなかった。あんなに……次こそは守ると決めたのに……」
「ヨミが死んだことで、使い魔の契約が切れて失くした記憶が戻ったか」
テラの言葉に返事はない。見守っていたグリスがロイに声をかけた。
「ロイ様、場所を移しましょう」
しかし、ロイが動く様子はない。グリスが静かに説得する。
「魔女殿をいつまでもそのままというわけにも、いきますまい」
それでもロイが動く様子はない。それどころか、ロイの足元に魔法陣が現れ、誰も近づけさせなくした。
その様子に周囲が困惑する。
ガーベラが前に出て声をかけた。
「ロイ、悲しみは分かります。ですが、甦りの魔女さんのためにも一度……キャッ!」
突風が吹き荒れる。よろけたガーベラをパルドが支えた。
「放っといてください」
完全に殻にこもったロイにテラがため息を吐く。
「まったく。それだと、ヨミがなんのために過去を変えたか意味がなくなるだろ」
「過去を変え……? そうだ! 過去を変える宝石を! それでヨミが死なないように過去を変えれば!」
テラがロイの前に宝石を落とした。それは明らかに輝きを無くしている。
「どうして……」
「ヨミが使った、らしい」
「らしい?」
「推測にしかならないが、未来で何かあったのだろう。それでヨミはその未来を変えるため、石の力を使った。だから、石の力が消えた」
ロイがヨミを見て、テラに視線を戻した。
「なぜ、そんなことが分かる!」
「ヨミが私に礼を言った。つまり、未来の私がヨミに石を使わせた、ということだ」
「そん……な」
「ヨミのことだ。おまえが死ぬはずだった未来を変えたんだろう」
「まさか……いや、あそこでヨミが人に戻らなかったら……私が光で動きを止めなかったら……私はヨミを庇って、ネイビに刺されていた……?」
呆然とするロイを置いて、テラが空を眺める。
「さて。ヨミにあとをお願いされたが……」
青空を侵食していく闇。
「まったく。前回の負の魔力を使って私が転生する前にヨミを起こすから。前回と今回、二回分の負の魔力になっている。今回のは正の魔力を消費した量が少ないから、負の魔力量も少なめだが、それでも結構な量だ」
テラがロイに視線を落とす。
「なぜ、ヨミを無理やり起こしたんだ?」
「そもそも、私はヨミが甦りの魔女だと知らなかった。古い文献で甦りの魔法を見つけ、それに必要な道具を集め、ヨミの生家でその魔法をかけただけ」
「記憶と時間を奪われることは知っていたのか?」
「知らなかった」
「その結果がコレ、か。さて、どうするか」
「好きにしろ」
投げやりなロイの言葉にガーベラが叫んだ。
「ロイ!」
ガーベラの咎める声にもロイの反応はない。テラが呆れたように訊ねた。
「なら、このまま世界が闇にのまれてもいい、と?」
「私には関係ない」
ロイがヨミを抱きしめる。
「ヨミがいない世界など……」
「つまり、ヨミがいる世界ならいいのか?」
「当然だ……が、いまさらその話がなんになる? 宝石は力を失い過去は変えられない。ヨミは戻らない」
「私は過去の話はしていない。未来の話をしている」
「だが、ヨミは甦らない! なら、そんな話はするだけ無駄だ!」
「だから、誰が甦りの話をしている?」
ロイが痺れを切らしたように叫ぶ。
「まどろっこしい! さっさと結論を言え!」
「ヨミを転生させる」
青水晶の瞳と口がポカンと丸くなった。
「え?」
「だから、この負の魔力を使ってヨミを転生させる。呪いはヨミが死んで効力を失った。ヨミが転生した後は、死んでも甦ることはない。今度こそ自由に生きられる」
「……転生、できるのか? 本当に?」
「できる。ただ、負の魔力が大きすぎて転生に使ってもまだ余るのが問題だ」
突如として現れた道にロイの顔に生気が戻る。
「残った負の魔力は王家に仕えている魔道士たちに魔法を使わせて消費させる!」
「そうか。あとヨミは死んで君との縁が切れた状態だ。ヨミが転生しても、会えるとは限らない。むしろ会えない確率の方が高い、か」
「なら、何故おまえは生まれ変わるたびにヨミと会えるのだ?」
「私たちは最初に兄妹という血の繋がりがあった。その繋がりで自然と引き寄せ合う。でも、君とヨミは赤の他人。この広い世界で出会えるような場所にヨミが転生するとは限らない」
少し考えたロイが顔を上げて宣言した。
「ヨミの魂に使い魔として契約をする」
ロイの考えを予想していたのか、テラが驚くことなく頷く。
「それなら繋がりがあるから、会える可能性は高くなる。ただ、魔力をヨミに預けるようになるから、転生したヨミと出会うまで魔法は使えなくなる」
「かまわない!」
「せっかく大人に戻ったのに、また子どもの姿になる……が、体は成長するから、そんなに問題ではないか。では、最後に」
テラの声が低くなる。
「……戻った記憶もまた失うぞ」
ロイが言葉に詰まった。
「ヨミが死んで契約が切れた。けど、それを切れていない状態に戻す。つまり、体だけではなく、記憶も使い魔として契約していた時の状態に戻る。つまり、戻った記憶を再び失う。それでも、いいのか?」
静かにロイがヨミに視線を落とした。胸の中のヨミの黒髪が風で揺れる。こうしていると、眠っているようにしか見えない。
「……記憶が戻ってスッキリした。知りたかったことを知れて。自分の気持ちは間違っていなかった、と確認できた。また記憶を失くしても、この気持ちは消えない。それなら問題ない。それで、ヨミにまた会えるなら」
「そうか」
ロイがヨミを抱き寄せ、耳元で囁く。
「必ず、また逢いましょう。その日まで、カフェで待っていますから」
当然、返事はない。ヨミを地面に寝かせたロイが両手をかざす。
『我、ロイロ・アルジエッタは月讀命の魂を主とし、永遠に眷属として従うことを誓う』
詠唱が終わると同時にロイの両手が淡く光る。青から銀色へと変わった光は、そのままヨミの体に吸い込まれた。
ロイの髪が銀髪から黒髪になり、体が縮んで子どもになる。だが、ロイの顔は晴れやかで清々しい。
次にテラが魔法を唱えた。
『魂を司る神へ乞う。この者、月讀命を転生への道へ導きたまえ』
空を侵食していた闇が渦巻き、ヨミの体の上に集まる。そのままヨミの体を包み込んだ。
「なっ!?」
ロイが小さくなった手を伸ばす。しかし、触れる前にヨミの体は色を失い、闇とともに霧散した。
「今度も……今度も守れなかった。あんなに……次こそは守ると決めたのに……」
「ヨミが死んだことで、使い魔の契約が切れて失くした記憶が戻ったか」
テラの言葉に返事はない。見守っていたグリスがロイに声をかけた。
「ロイ様、場所を移しましょう」
しかし、ロイが動く様子はない。グリスが静かに説得する。
「魔女殿をいつまでもそのままというわけにも、いきますまい」
それでもロイが動く様子はない。それどころか、ロイの足元に魔法陣が現れ、誰も近づけさせなくした。
その様子に周囲が困惑する。
ガーベラが前に出て声をかけた。
「ロイ、悲しみは分かります。ですが、甦りの魔女さんのためにも一度……キャッ!」
突風が吹き荒れる。よろけたガーベラをパルドが支えた。
「放っといてください」
完全に殻にこもったロイにテラがため息を吐く。
「まったく。それだと、ヨミがなんのために過去を変えたか意味がなくなるだろ」
「過去を変え……? そうだ! 過去を変える宝石を! それでヨミが死なないように過去を変えれば!」
テラがロイの前に宝石を落とした。それは明らかに輝きを無くしている。
「どうして……」
「ヨミが使った、らしい」
「らしい?」
「推測にしかならないが、未来で何かあったのだろう。それでヨミはその未来を変えるため、石の力を使った。だから、石の力が消えた」
ロイがヨミを見て、テラに視線を戻した。
「なぜ、そんなことが分かる!」
「ヨミが私に礼を言った。つまり、未来の私がヨミに石を使わせた、ということだ」
「そん……な」
「ヨミのことだ。おまえが死ぬはずだった未来を変えたんだろう」
「まさか……いや、あそこでヨミが人に戻らなかったら……私が光で動きを止めなかったら……私はヨミを庇って、ネイビに刺されていた……?」
呆然とするロイを置いて、テラが空を眺める。
「さて。ヨミにあとをお願いされたが……」
青空を侵食していく闇。
「まったく。前回の負の魔力を使って私が転生する前にヨミを起こすから。前回と今回、二回分の負の魔力になっている。今回のは正の魔力を消費した量が少ないから、負の魔力量も少なめだが、それでも結構な量だ」
テラがロイに視線を落とす。
「なぜ、ヨミを無理やり起こしたんだ?」
「そもそも、私はヨミが甦りの魔女だと知らなかった。古い文献で甦りの魔法を見つけ、それに必要な道具を集め、ヨミの生家でその魔法をかけただけ」
「記憶と時間を奪われることは知っていたのか?」
「知らなかった」
「その結果がコレ、か。さて、どうするか」
「好きにしろ」
投げやりなロイの言葉にガーベラが叫んだ。
「ロイ!」
ガーベラの咎める声にもロイの反応はない。テラが呆れたように訊ねた。
「なら、このまま世界が闇にのまれてもいい、と?」
「私には関係ない」
ロイがヨミを抱きしめる。
「ヨミがいない世界など……」
「つまり、ヨミがいる世界ならいいのか?」
「当然だ……が、いまさらその話がなんになる? 宝石は力を失い過去は変えられない。ヨミは戻らない」
「私は過去の話はしていない。未来の話をしている」
「だが、ヨミは甦らない! なら、そんな話はするだけ無駄だ!」
「だから、誰が甦りの話をしている?」
ロイが痺れを切らしたように叫ぶ。
「まどろっこしい! さっさと結論を言え!」
「ヨミを転生させる」
青水晶の瞳と口がポカンと丸くなった。
「え?」
「だから、この負の魔力を使ってヨミを転生させる。呪いはヨミが死んで効力を失った。ヨミが転生した後は、死んでも甦ることはない。今度こそ自由に生きられる」
「……転生、できるのか? 本当に?」
「できる。ただ、負の魔力が大きすぎて転生に使ってもまだ余るのが問題だ」
突如として現れた道にロイの顔に生気が戻る。
「残った負の魔力は王家に仕えている魔道士たちに魔法を使わせて消費させる!」
「そうか。あとヨミは死んで君との縁が切れた状態だ。ヨミが転生しても、会えるとは限らない。むしろ会えない確率の方が高い、か」
「なら、何故おまえは生まれ変わるたびにヨミと会えるのだ?」
「私たちは最初に兄妹という血の繋がりがあった。その繋がりで自然と引き寄せ合う。でも、君とヨミは赤の他人。この広い世界で出会えるような場所にヨミが転生するとは限らない」
少し考えたロイが顔を上げて宣言した。
「ヨミの魂に使い魔として契約をする」
ロイの考えを予想していたのか、テラが驚くことなく頷く。
「それなら繋がりがあるから、会える可能性は高くなる。ただ、魔力をヨミに預けるようになるから、転生したヨミと出会うまで魔法は使えなくなる」
「かまわない!」
「せっかく大人に戻ったのに、また子どもの姿になる……が、体は成長するから、そんなに問題ではないか。では、最後に」
テラの声が低くなる。
「……戻った記憶もまた失うぞ」
ロイが言葉に詰まった。
「ヨミが死んで契約が切れた。けど、それを切れていない状態に戻す。つまり、体だけではなく、記憶も使い魔として契約していた時の状態に戻る。つまり、戻った記憶を再び失う。それでも、いいのか?」
静かにロイがヨミに視線を落とした。胸の中のヨミの黒髪が風で揺れる。こうしていると、眠っているようにしか見えない。
「……記憶が戻ってスッキリした。知りたかったことを知れて。自分の気持ちは間違っていなかった、と確認できた。また記憶を失くしても、この気持ちは消えない。それなら問題ない。それで、ヨミにまた会えるなら」
「そうか」
ロイがヨミを抱き寄せ、耳元で囁く。
「必ず、また逢いましょう。その日まで、カフェで待っていますから」
当然、返事はない。ヨミを地面に寝かせたロイが両手をかざす。
『我、ロイロ・アルジエッタは月讀命の魂を主とし、永遠に眷属として従うことを誓う』
詠唱が終わると同時にロイの両手が淡く光る。青から銀色へと変わった光は、そのままヨミの体に吸い込まれた。
ロイの髪が銀髪から黒髪になり、体が縮んで子どもになる。だが、ロイの顔は晴れやかで清々しい。
次にテラが魔法を唱えた。
『魂を司る神へ乞う。この者、月讀命を転生への道へ導きたまえ』
空を侵食していた闇が渦巻き、ヨミの体の上に集まる。そのままヨミの体を包み込んだ。
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