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無事、ガラスアクセサリーが作れそうです

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 庭でのお茶会の間、私はほとんどボーとしていた。

 弟子と言われて満足なはずなのに、モヤモヤしている。そのせいか、ニアとキヌファの話が耳に入ってこない。

「……おい。おい、どうした?」
「は、はい!」

 声をかけられて私は反射的に返事をした。目の前にはニアの顔。キヌファの姿がない。

「あれ? キヌファ様は?」

 ニアがムッとする。

「さっき、帰った」
「すみません……」

 客人をちゃんと見送りできないなんて、弟子失格すぎる。

 落ち込む私にニアが低い声で訊ねた。

「まだ、キヌファと一緒にいたかったのか?」
「どうしてですか?」

 キヌファと話が盛り上がった記憶もないし、そう思われる理由が分からない。

 首を傾げる私から逃げるようにニアが顔を背ける。

「いや、いい。昼飯を食べたらガラス作りをするぞ」

 ニアはさっさとテーブルセットを片付けて丸太小屋に戻っていった。



 午後。私は青い炎と格闘していた。

 ガラス作りの間はすべてを忘れて集中できる。

 私はピンセットでつまんだガラス片を炎にかざした。トロリとガラスが溶けるタイミングに合わせて鉄の棒に巻きつけ、形を整える。そこに他の色のガラスを加え、自分が出したい色にする……のだが、うまくいかない。

 どうやってもニアのガラス作品のような色がでない。

 私はあの夜明け色のガラス玉を作ろうと、いろんなガラスを組み合わせ、試行錯誤した。でも、全然だめで。

 それで、ニアのガラス作りをこっそり観察していた。すると、なんとニアはなにもしていなかった。
 最初は、そんなはずはない。ガラスの配合の違いか、こっそり染料のようなものを混ぜているのだろう。そう考えていた。

 けど、本当になにもしていない。

 私は試しにニアと同じ原料からガラス作品を作った。
 すると、私は透明なガラス玉になったのに、ニアは夜明け色に染まった作品が完成。ちなみに作品は皿……らしい。私には陸に打ち上げられたタコ……にしか見えなかったけど、そこは黙っておく。

「はぁ」

 ため息もこぼれてしまう。
 そんな私の背後からニアが声をかけてきた。

「ガラスに関しては、意外と器用だよな」
「どちらかというと、ニアが不器用なだけだと思ぃ……」

 ジロリとにらまれていることに気づき、口を閉じる。
 ニアの様子をうかがうように見上げると、プッと吹き出された。柔らかい紫の瞳。でも、それは弟子を見守る目。

 ……私は、なにが不満なんだろう。

 私の葛藤に気づいていないニアが軽く手をふる。

「別にオレが不器用なのは事実だから、いいんだよ。それより、なにか作りたいモノはあるか?」
「え?」
「ガラスの扱いにも慣れてきたし、ガラス玉以外のモノを作ってもいいだろ」
「それなら!」

 私はずっと考えていたことを提案した。

「ガラスのアクセサリーを作ってみたいです!」
「アクセサリー?」
「はい。ガラスの形を丸ではなくしずく形にして、それをネックレスやイヤリングにつけるんです」

 ニアが不思議そうに首を傾げる。

「そういうのは宝石で作るんじゃないのか?」
「宝石にはない色でアクセサリーを作るんです」
「あー、そういうことか。面白そうだし、好きにやってみろ」
「はい!」

 私さっそく試しに何個か作ってみた。雫形以外に三角や四角など、いろんな形のガラスが転がる。

「形は……なんとか作れそう。あとは色だけ」

 ほっと一息ついた私は額から流れる汗をタオルで拭いた。ニアを見れば、ガラスが溶けた窯をジッと覗き、ガラスの材料の溶け具合を見定めている。

 私はそっと工房を出た。水分補給のためコップに水をいれて、塩飴を持って戻る。

 すると、ニアは私が工房から出た時と同じ姿勢のままだった。私は水を置いて、後ろからこっそりニアの作業を覗く。

 ニアが近くに置いている吹き棒を見ることなく手に取る。武骨な手に、筋肉がしっかりと浮き出た二の腕。
 狙いを定めたように手が動き、吹き棒の先端に溶けたガラスを絡めとる。

 素早く窯から出し、吹き棒を回しながら空気を吹き込んだ。溶けたガラスはシャボン玉のように一瞬で膨らむ。それを隣の窯に入れ、ガラスに熱をくわえてから再び窯から出した。
 次は布を当てて形を整えていく。これを何回か繰り返すことで、ガラスはコップや皿などの形になる。

 ガラスを見つめる紫の瞳。通った鼻筋にキツく結ばれた唇。シャープな顎に太い首。

 真剣なニアの姿に、つい目を奪われてしまう……

 ただ、不思議なことにニアが汗をかいているところを、あまり見たことがない。工房はこんなに暑いのに。

 ニアは暑さに強いから、あまり汗をかかない、と言っていたけど。でも、水分は取ったほうがいい。

 私はニアの作業が一段落ついたところで声をかけた。

「お疲れ様です。水をどうぞ」
「おう。ありがとう」

 ニアが水を受け取る。私は塩飴をなめながら水を飲んだ。冷めた水が体に染み渡って気持ちいい。病みつきになりそうな瞬間。
 そこで視線を感じて顔をあげる。そこには、コップを持ったまま動きを止めたニアが。

「どうかしましたか?」
「あ……いや、なんでもない」

 ニアがコップに口をつける。チラチラとこちらを見ながら。さすがに、これは気になる。

「あの、私、なにかやらかしました?」

 ガラス玉を作り始めた頃は服を燃やしたり、髪を焦がしたり、いろいろやらかした自覚はある。でも、最近はしなくなった……はず。

 私の質問にニアが気まずそうに視線をそらす。

「いや、その……オレがいないところでキヌファと何を話していたのか……ちょっと、その……気になって、な」
「キヌファ様と?」

 私は顎に手をそえて記憶をたどった。ボーとしている時間が多かったので、あまり覚えていないけど……

「ニアは私のことになると、周りが見えなくなる……というようなことを言われました」

 ニアが顔を背けて小さく舌打ちする。

「チッ。あいつ、余計なことを」
「周りが見えなくなるって、どういうことですか?」
「そ、それはだな」

 焦ったようにニアが視線をさまよわす。そして、私が作ったガラス玉に目を止めた。

「で、弟子だからな! 弟子に教えることに集中して、周りが見えなくなるってことだ!」

 弟子……

 なんども聞いたその言葉に私の中でナニかがキレる。

「どうせ、私は不出来な弟子です!」

 気がつくと私は机を叩いて立ち上がっていた。珍しくニアが驚いた顔をしている。

 私は慌てて空になったコップを持った。

「ごはん作ってきます」

 なぜ怒鳴ったりしたのか分からない。とにかく恥ずかしい私は逃げるように工房から出ていった。

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