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事件の解決と憂鬱

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 リーアンの動きが明らかに不審になる。

「ど、どういうことだ?」
「この遺言書に書いてありました。妾妻の子である貴方は領主の血を引いていない可能性が高い、と。そもそも、隣国との戦争で領主が不在だった時にできた子など、不義以外にありえません」
「私が不義の子だと言うのか!?」

 取り乱すリーアンにヴァージルが説明を続ける。

「先代領主はその証拠を集めている途中で突然死しました。まるで、誰かが口を封じたように」
「そんなの憶測にすぎない!」
「そうです。証拠がなければ憶測です。ですので、あなたが不義の子である証拠を集めました。巧妙に隠されていましたので、証拠を集めるのは難儀しましたが、すべて揃えて王に訴えました」

 リーアンが振り返り、立ち上がったレオンを睨む。

「家のことで王家を巻き込んだのか!? 恥を知れ!」
「たしかに家のことで王家の手を煩わせるなど、恥ずべき行い。だが、そんなことを言っていられないほどの領地経営だろ。税は年々重くなり、領民の暮らしは良くなるどころか悪化するばかり。これ以上、見て見ぬふりは出来ない」

 私は立ち上がりながらレオンに訊ねた。

「あの、レオンは何者なの?」
「私はレオン・オルコット。先代領主の正妻の子にして、この領地の正当な後継者だ」

 堂々をした立ち姿。洗練された立ち振る舞い。そういえば、煩雑な店の中でもレオンはカトラリーの使い方が綺麗で目を惹いていた。

「本当の領主、様?」
「あぁ。リーアンの母に命を狙われ、他の領地で身を隠していたが」
「じゃあ、女の子の格好をしていたのは……」

 レオンの顔が暗闇でも分かるほど赤くなり周囲を気にする。

「そ、その話はまた後だ」

 小声で私に囁くと、兵士に命令をした。

「リーアンを連れていけ」
「はい」

 この人数では抵抗しても無駄だと悟ったのか、リーアンがおとなしく連行される。盛大な不満顔のまま。
 そこに私を襲った男を捕縛した兵士が現れた。

「こいつはどうしましょう?」
「オレは金で雇われただけだ! なにも知らねえ!」

 男の訴えに、レオンが視線だけで殺せるほどの極悪面になる。

「斬り殺されなかっただけ、ありがたいと思え! 徹底的に尋問して、すべてを吐かせろ」
「ハッ!」

 レオンの迫力に兵士が震えながら、さっさと男を連れて下がった。

「生きて……いたのね」
「必要な証人だからな。ルーシーに手を出した時点で万死に値するが、我慢して気絶させるだけに留めた」

 もしかして、男を気絶させたときにレオンが怖く見えたのは怒っていたから?
 確認する前にレオンが小綺麗な青年を呼ぶ。

「ヴァージル、彼女を家まで送り届けてくれ」
「え?」

 驚く私にレオンが謝った。

「申し訳ないが、私はまだ仕事がある。後日、説明をするために店へ顔を出すから」
「あ、はい……」

 兵士たちの視線。ピリッとした空気。とても、これ以上は追求できない。

 こうして私は家がある店まで馬車で送られた。



 悪夢のような夜から数日後。

「聞いたか? 領主が代わったってよ」
「あぁ。今までは先代の領主の妾妻が統治していたが、贅沢三昧で私腹を肥やしていたらしいな」
「それだけじゃなくて、先代の領主を毒殺したとか」
「金のためにか? 女は怖えな」

 常連客たちの雑談が自然と耳に入る。それは、振り払いたくても払えず。

「次の領主はどんなヤツなんだ?」
「領主と一緒に毒殺された正妻の子らしいぞ。なんでも、近隣の領地に身を隠して反撃する機会をうかがっていたとか」
「苦労人か。今より悪くならないなら、誰でもいいな」
「そりゃそうだ」

 私は喧騒をすり抜けて、いつものように料理を運んだ。レオンの話題が出る度に足が止まりそうになるけど、今は仕事に集中。

 忙しい昼の時間を乗り越え、やっと訪れた小休憩。椅子に座ってぼんやりと天井を眺める。

「はぁ……」
「なんだ、おめぇ。最近はため息ばっかりだな。ついに恋煩こいわずらいか?」
「ほっといて」

 軽口を言う父を睨むとキッチンに逃げられた。最近、一言多くて困る。

 カラン。

 ドアが開く音に私は慌てて立ち上がって声を出した。

「いらっしゃ……え?」

 花が! 大量の花が歩いて!?

 なにを言っているか分からないだろう。私も分からない。ただ、大量の花々がドアをくぐり押し入ってきた。

「ちょっと、花を置いてもいいか?」

 花の後ろからレオンの声が聞こえる。私は慌てて窓際のテーブルを指さした。

「隣にあるテーブルに置いて」
「ありがとう」

 顔が見えないほどの花束をレオンがゆっくりとテーブルに下ろす。ここで、ようやくレオンの全身が現れた。
 海のような碧色の布に、黄金色の紐で飾られた正装。シワ一つなく、パリッとした姿は似合いすぎて、カッコ良すぎ。
 顔が赤くなるのを感じた私は、誤魔化すように視線を花束に向けた。

「こ、これは?」

 レオンが短い金髪をかきながら答える。

「いや、その……この前、迷惑をかけたから、その詫びに」
「あ……」

 そういえば、説明のために来ると言っていたっけ。でも、そのためにこんな大量の花を……キッチンから覗き見している父も唖然としている。

「噂で耳にしているかもしれないが、正式に領主となった」

 良いことなのに、素直に喜べない。やっと再会できたのに、レオンが一気に遠い存在に。

「そ、そう。おめで、とう……」

 私はそう言うだけで精一杯だった。




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