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告白と幸福
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素直に祝福できず俯いた私にレオンが説明を続ける。
「リーアンが先代領主の血を引いていないことの証明と、先代領主と正妻である母が毒殺された証拠を集めるのに時間がかかってしまって。でも、やっと決着がついた」
「そう……」
「今まで秘密裏に動いていたが、途中で気づいたリーアンが私の過去を調べたらしく……ルーシーを人質にして、私を封じようとしたんだ。巻き込んでしまって、本当に申し訳なかった」
レオンが勢いよく頭をさげた。いや、領主様が民に頭をさげたらダメでしょ!?
「顔をあげて! 気にしてないから!」
しかし、私の訴えは聞き入れられず。
「あんな怖い思いをさせてしまって、どう謝罪すればいいか……」
「大丈夫だから! 怪我もほとんどないし!」
どれだけ釈明してもレオンが動く様子はない。困った私はポケットに手をいれた。
「ほら、これ! 預かっていたハンカチ。返すから顔をあげて」
頭をさげているレオンに見えるようにハンカチを差し出す。すると、レオンが感動したように呟いた。
「……本当に、持っていてくれたのか」
「約束だから」
やっと顔をあげたレオンがそっとハンカチを受け取る。
「ルーシーは私に嬉しいことばかりしてくれる」
「べ、別に約束を守っただけだから」
「それだけではない。手品のコツの話も覚えていてくれた」
「話を覚えていなくても、あんな分かりやすい合図なら、すぐに気づくわ」
『手品はね、どれだけ注意を集められるか、が重要なんだ。注目を集めている側とは反対の手で、こっそりタネを準備する』
昔、リーが教えてくれたコツ。
「遺言書を持つ右手に注目させて、空いた左手で私に、三、二、一、で屈めってジェスチャーするんだから。あのジェスチャーがリーアンに気づかれないか、そっちの方が不安だったわ」
「それは大丈夫。リーアンからは見えない位置だったから。それより、ルーシーが理解してくれるか、そっちのほうが心配たったよ。リーアンが投げた遺言書を追いかけなかった時は、そのまま体当たりをして取り押さえる予定だったから。ルーシーが近くで立っていたら、それが出来なかった。結局はリーアンが遺言書を追いかけて終わったが」
お互いに顔を見合わせた後、どちらともなく吹き出して笑った。子どもの頃と同じ、柔らかく温かい空気。懐かしくて安らぐ。
私はずっと気になっていたことを訊ねた。
「何度も店に来たのに、どうしてリーだって教えてくれなかったの?」
「あ、い、いや。それは、その……」
レオンが口元を手で押さえ、顔を背ける。
「言えない理由があったの?」
「そうではないんだ……その、女のドレスを着ていたことが、とても恥ずかしかったんだ。男とバレたら妾妻に殺される危険があったから、命を守るために必要だったとはいえ……」
「でも、とっても似合っていたわよ」
私の一言にレオンが両手で顔を覆って俯いた。
「そこなんだ。今は、こんなゴツい体に成長しているだろ? もし、あの可愛い顔が好きだったって、今の自分に幻滅されたら……私は生きていけない」
大げさな。と喉まで出かけた言葉を呑み込む。
テーブルに置かれた花々は秘密の花園に咲いていた花と同じ種類。レオンも私と同じように、ずっと覚えていてくれたのだろう。
私は顔を隠しているレオンの手に自分の手を添えた。
とても大きくて、筋張った男の人の手。皮膚が厚くて、カサついて、たくさん苦労してきた証。その中でも、私を忘れずにいてくれた。
レオンとなら、うまくやっていける気がする。
「私のことを大事に思ってくれている。その変わらない気持ちが嬉しい。可愛らしかったリーも、今のカッコいいレオンも、私は好きよ」
レオンが顔を隠していた手を外す。
「本当、に?」
「うん」
大きく頷くと、レオンが全身で私を抱きしめた。
「私も! 私もずっとルーシーのことが好きだった。いや! 今も好きだ!」
「ちょ、強すぎ。少し緩めて」
私は慌ててレオンの背中を叩いた。
「す、すまない」
レオンが腕の力を緩める。顔をあげれば、とろけるように微笑む緑の瞳。
武骨な手が優しく私の髪を撫で、愛おしむように私の頬に触れる。離れていた時間を埋めるように見つめあう。
どんなに姿が変わっても、心は変わらない。初めて会った、あの日から。私の心は、あなたに捕われていた。
無言のまま、ゆっくりと落ちてくる薄い唇。私は目を閉じて迎えいれ……
カンカンカンカンカン!!!!
烈火のごとくフライパンを叩く音。
「まだ、早い! まだ、早いぞ!」
私とレオンが顔をあげると、半泣き状態でフライパンを叩き鳴らす父がいた。
――――――――半年後、秘密の花園で一組の結婚式が行われるが、それはまた別のお話。
「リーアンが先代領主の血を引いていないことの証明と、先代領主と正妻である母が毒殺された証拠を集めるのに時間がかかってしまって。でも、やっと決着がついた」
「そう……」
「今まで秘密裏に動いていたが、途中で気づいたリーアンが私の過去を調べたらしく……ルーシーを人質にして、私を封じようとしたんだ。巻き込んでしまって、本当に申し訳なかった」
レオンが勢いよく頭をさげた。いや、領主様が民に頭をさげたらダメでしょ!?
「顔をあげて! 気にしてないから!」
しかし、私の訴えは聞き入れられず。
「あんな怖い思いをさせてしまって、どう謝罪すればいいか……」
「大丈夫だから! 怪我もほとんどないし!」
どれだけ釈明してもレオンが動く様子はない。困った私はポケットに手をいれた。
「ほら、これ! 預かっていたハンカチ。返すから顔をあげて」
頭をさげているレオンに見えるようにハンカチを差し出す。すると、レオンが感動したように呟いた。
「……本当に、持っていてくれたのか」
「約束だから」
やっと顔をあげたレオンがそっとハンカチを受け取る。
「ルーシーは私に嬉しいことばかりしてくれる」
「べ、別に約束を守っただけだから」
「それだけではない。手品のコツの話も覚えていてくれた」
「話を覚えていなくても、あんな分かりやすい合図なら、すぐに気づくわ」
『手品はね、どれだけ注意を集められるか、が重要なんだ。注目を集めている側とは反対の手で、こっそりタネを準備する』
昔、リーが教えてくれたコツ。
「遺言書を持つ右手に注目させて、空いた左手で私に、三、二、一、で屈めってジェスチャーするんだから。あのジェスチャーがリーアンに気づかれないか、そっちの方が不安だったわ」
「それは大丈夫。リーアンからは見えない位置だったから。それより、ルーシーが理解してくれるか、そっちのほうが心配たったよ。リーアンが投げた遺言書を追いかけなかった時は、そのまま体当たりをして取り押さえる予定だったから。ルーシーが近くで立っていたら、それが出来なかった。結局はリーアンが遺言書を追いかけて終わったが」
お互いに顔を見合わせた後、どちらともなく吹き出して笑った。子どもの頃と同じ、柔らかく温かい空気。懐かしくて安らぐ。
私はずっと気になっていたことを訊ねた。
「何度も店に来たのに、どうしてリーだって教えてくれなかったの?」
「あ、い、いや。それは、その……」
レオンが口元を手で押さえ、顔を背ける。
「言えない理由があったの?」
「そうではないんだ……その、女のドレスを着ていたことが、とても恥ずかしかったんだ。男とバレたら妾妻に殺される危険があったから、命を守るために必要だったとはいえ……」
「でも、とっても似合っていたわよ」
私の一言にレオンが両手で顔を覆って俯いた。
「そこなんだ。今は、こんなゴツい体に成長しているだろ? もし、あの可愛い顔が好きだったって、今の自分に幻滅されたら……私は生きていけない」
大げさな。と喉まで出かけた言葉を呑み込む。
テーブルに置かれた花々は秘密の花園に咲いていた花と同じ種類。レオンも私と同じように、ずっと覚えていてくれたのだろう。
私は顔を隠しているレオンの手に自分の手を添えた。
とても大きくて、筋張った男の人の手。皮膚が厚くて、カサついて、たくさん苦労してきた証。その中でも、私を忘れずにいてくれた。
レオンとなら、うまくやっていける気がする。
「私のことを大事に思ってくれている。その変わらない気持ちが嬉しい。可愛らしかったリーも、今のカッコいいレオンも、私は好きよ」
レオンが顔を隠していた手を外す。
「本当、に?」
「うん」
大きく頷くと、レオンが全身で私を抱きしめた。
「私も! 私もずっとルーシーのことが好きだった。いや! 今も好きだ!」
「ちょ、強すぎ。少し緩めて」
私は慌ててレオンの背中を叩いた。
「す、すまない」
レオンが腕の力を緩める。顔をあげれば、とろけるように微笑む緑の瞳。
武骨な手が優しく私の髪を撫で、愛おしむように私の頬に触れる。離れていた時間を埋めるように見つめあう。
どんなに姿が変わっても、心は変わらない。初めて会った、あの日から。私の心は、あなたに捕われていた。
無言のまま、ゆっくりと落ちてくる薄い唇。私は目を閉じて迎えいれ……
カンカンカンカンカン!!!!
烈火のごとくフライパンを叩く音。
「まだ、早い! まだ、早いぞ!」
私とレオンが顔をあげると、半泣き状態でフライパンを叩き鳴らす父がいた。
――――――――半年後、秘密の花園で一組の結婚式が行われるが、それはまた別のお話。
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