【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで〜クリスマス話〜

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クリスマスマーケットでの買い物

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 クリスマスマーケットの屋台の屋根を見たルドが感嘆の声を漏らした。

「凄いですね」
「屋根の装飾コンテストが毎年の恒例でな。年々派手になっている」

 木々の中にトナカイや人形が飾られた屋根や、ステンドグラスと蝋燭の火で周囲を照らしている屋根。大きな物では、風車で人形を動かしている屋根まである。

 クリスは呆然と見上げるルドの手を引いた。

「さっさと買うぞ」

 クリスマスマーケットには、クリスマスの装飾品から、今の時期にしか食べられない食材や名物品なども並ぶ。
 ルドが嬉しそうに露店を眺める。

「なにか食べますか? あ、あれ美味しそうですね」
「おい、ちょっ……」

 ルドがクリスを引っ張り、肉が挟まったパンを買う。呆れるクリスを前にルドがパクリと食べた。

「ん、美味しいですよ」
「食べ過ぎると夕食が入らないぞ」
「一口だけなら大丈夫ですよ。はい」
「なんだ?」

 首をかしげるクリスの目前に肉と野菜を挟んだパン。
 ほかほかと湯気がのぼり香ばしい匂いが漂ってくる。夕食前の空腹時間というのもあり、クリスは自然と生唾を呑み込んでいた。

「美味しいから食べてみてください」
「ひ、一口だけな」

 クリスはルドが差し出したパンにかぶりついた。香ばしく焼けた肉に、キャベツと玉ねぎのシャキシャキがよく合う。この冷えた空気に温かい食事は体の内側から温まる。

「確かに美味いな」
「でしょう? あ、これも美味しそうですよ」

 ルドが残りのパンを二口で食べ終え、次の屋台へとクリスを連れて行く。棒に刺さった焼きたてのウインナーが並ぶ店。

「一つください」
「はいよ!」

 威勢のいい声とともにウインナーを手に取る。一口食べたルドが眉を寄せた。

「あー、これは師匠には辛いかもしれないですね。ビールとか酒のつまみになる感じです」
「……それは私が子ども舌ということか?」
「あ、いや! そういうわけでは……あっ!」

 子ども扱いされたクリスは、ルドが持っている棒を掴み、ウインナーにかじりついた。

「ん? 別に辛くな……グッ!?」

 最初は感じなかった辛さが突如襲いかかる。口が熱くなりヒリヒリする。
 若干涙目になって悶えているクリスの前に、林檎ジュースが現れた。

「どうぞ」

 クリスは無言で受けとり一気に飲む。爽やかな甘さが辛さを和らげた。
 ルドがしょぼんと頭をさげる。

「すみません、辛いと知らずに買ってしまって……」
「か、辛くなかったぞ! 問題ない! 次だ! 次!」
「は? えぇ!?」

 自棄になったクリスは手を繋いだままクリスマスマーケットを進んだ。
 二人で気になるモノをどんどん買って食べていく。

「このホットワインも美味しいですね。甘くて食後にぴったりです」
「だが、そろそろ頼まれた物を買わないと、屋敷に戻る頃には暗くなるな」
「あ、ツリーの装飾品が売られていますよ」

 棚に金色のベルや銀色のロザリオ、小さな赤いリンゴや松ぼっくりなど、様々な飾りが並ぶ。

「こういうのって、見ているだけでワクワクするんですよね」
「そうだ……な」

 ここでクリスはいつもと違う自分の感情に気が付いた。

 クリスマスマーケットを見かけると、どこか寂しいような悲しいような気持ちになり避けていた。賑わう人々の中で、自分だけが置いていかれたような。だから、クリスマスは苦手だった。

 しかし、今日はそんな気持ちにならない。

 握られた右手から伝わる温もりが心地よく、クリスマスマーケットでの買い物も楽しくて。
 そんなクリスの感情に気付くはずもないルドが、メモに書かれた物を買っていく。

 そうして、すべての買い物を終えた頃には夕方になっていた。

 クリスマスマーケットに増々人が増える。
 クリスはルドに近づきすぎないように、どうにか距離をとりながら歩いた。だが、どんなに気をつけようと、増えていく人混みの中では限界があり。

 ドンッ!

「うわっ」

 クリスは人波に押され、ルドに倒れかかった。

「す、すまん」

 クリスは全体重でもたれかかったが、ルドはビクともしていない。クリスを受け止め、顔を覗いた。

「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ」

 顔をあげた正面。そこに琥珀の瞳が。突然のことに体が硬直する。そこで人にぶつかり帽子が取れた。
 長い茶色の髪がふわりと広がる。

「おい、気をつけ……クリス様?」

 その声に他の人も反応する。

「え? クリス様だって?」
「あ、クリス様だ!」
「クリス様!」

 あっという間に人々が集まる。

「クリス様、林檎酒! 今年のは出来が良いんすよ! 持って帰ってください!」
「それなら、このチーズも! 食べごろですよ!」
「それより、このハム! 絶品ですから!」

 クリスは逃げようとしたが、囲まれて動けない。

「いや、今日は買い物に来ただけで……」
「クリス様が買い物!?」
「珍しい! なにがいるんですか?」
「それならウチで買っていってくださいよ! 安くしますよ!」
「い、いや。欲しいものは買ったから……」

 ジリジリと下がるクリスに男たちが群がる。それを遮るように手が伸び、クリスを抱き上げた。

「逃げます」

 ルドがクリスを肩に担いで走り出す。

「おい! クリス様に失礼だろ!」
「待て!」

 追いかけてくる男たちを避け、ルドがクリスマスマーケットを抜ける。そこから走り続け、街の入り口でルドの歩調がゆっくりになった。

「ここまで来れば大丈夫だろ。下ろせ」
「……はい」

 雑に下ろされたクリスの足元がふらつく。
 どこか不機嫌そうなルドにクリスは首をかしげた。

「どうした? 頼まれたものは全部、買っただろ?」
「そうですが……」
「なんだ?」

 ルドがどこか拗ねたように呟く。

「師匠がはっきりと断らないから……」
「あいつらははっきり断っても、物を押し付けてくるだろ」
「そうですが……」
「どうした? なにが言いたいんだ?」

 ルドが自分の胸を押さえながら首をかしげる。

「いや、自分でもよく分からないんです。なんか、こう、この辺りがモヤモヤするような」
「モヤモヤ? 胃が悪いのか? 消化不良か? 吐きそうか?」
「吐くとは違うのですが……うーん」
「とりあえず様子見だな。帰るぞ……ほれ」

 まっすぐ差し出したクリスの右手。顔は背けているが、よく見れば耳が赤い。

「はい」

 ルドは左手でクリスの手を握り、ポケットに入れた。

「あ……」
「どうした?」
「モヤモヤが消えました」
「不思議な症状だな。今度はもっと詳しく調べたいから、同じ症状が出たら言え」
「はい」

 ニコニコとルドが笑う。残念なことに、ここにツッコミ役はいなかった。



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