【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで〜クリスマス話〜

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サンタクロースとプレゼント

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 屋敷に帰ると、満面の笑顔のカルラが二人を出迎えた。

「お疲れ様でした。どうでしたか?」

 ルドが買ってきた物が入った袋を差し出す。

「これだけあれば足りますか?」
「はい。十分です」
「せめて中身を確認してから言え」

 呆れるクリスにカルラが上機嫌で微笑む。

「見てましたから」
「は?」
「手を繋いだまま、お二人で一つの食べ物を分けあって……」
「なっ!? そ、それはだな! いや、そもそも来ていたなら……」

 クリスが顔を赤くして両手をバタバタさせる。その様子に満足したカルラがルドに訊ねた。

「ところで、クリスマスはどう過ごされますか? 予定がなければ、クリスマスパーティーに参加されませんか?」
「ちょっ、なにを勝手に……んぐっ」

 焦るクリスの口をカルラが塞ぐ前で、ルドがすまなそうに言った。

「あ、いや……クリスマスは祖父と過ごしますので、すみません」
「それなら……」

 なおも引き下がらないカルラをクリスは止める。

「クリスマスは家族で過ごすものだ。それを邪魔するな」
「……わかりました」

 カルラが渋々下がったところで、ルドは家へと帰った。

 ルドの姿が見えなくなったところで、クリスはカルラに訊ねた。

「あとでキッチンを使いたいんだが、いいか?」
「夕食後であれば、大丈夫ですよ。なにをされるのですか?」

 クリスがそっぽを向き小声で呟く。

「……ちょっと菓子をな」

 それだけでピンときたカルラがクリスに詰め寄った。

「犬にあげるんですか? あげるんですね!」
「あ、い、いや……その……なりゆきで」
「すぐにキッチンを空けさせます! あとエマを呼んで菓子作りの準備を……そういえば、どのような菓子を作るのですか!?」

 カルラの勢いにクリスは逃げ腰になる。

「すぐに空けなくていい。あと作り方は知っているから、エマは呼ばなくていい」
「では、材料を揃えましょう! なにが必要ですか?」

 喜び勇むカルラにクリスはキッチンに連行された。

※※※※

 それから、数日後のクリスマスの深夜。

 まだ屋敷から酔っぱらったような賑やかな声が響く。この日ばかりは無礼講で、使用人たちが夜遅くまで料理と酒を楽しむ。
 屋敷の主のクリスはさっさと自室で眠りについていたが。

 その様子を闇夜に紛れて青いコートを羽織ったルドが眺めていた。ルドは屋敷の外にある高い木の上から、クリスの部屋を睨む。

「師匠は……」

 魔宝石の位置からクリスが自室にいることを確認する。

「よし!」

 ルドは懐に入れている小箱を確認すると姿を消した。



 それからしばらくして、クリスの屋敷が騒がしくなった。

「不審者はどこだ!?」
「こっちだ!」
「中庭に追い詰めろ!」

 ルドは暗闇に隠れて息を潜めながら呟いた。

「セルシティの城より警備が厳重じゃないか?」

 ルドが魔法で出した幻影を追って使用人たちが中庭へ集まる。酒で酔いつぶれる直前だったのに、使用人たち全員の動きがいい。

 ルドは警備が手薄になったクリスの部屋へ移動した。

「……やっと、たどり着いた」

 火炙り、巨大な鉄球、落とし穴とその先にある針山、など無数の罠を越えて、ようやくクリスの部屋の前へ。
 明らかに普通の屋敷ではないが、深く考えたら最後な気がしたルドは、息を整えることに集中した。

 一息ついたルドが緊張しながらドアノブに手をかける。ゆっくりとドアを開け、部屋の中を覗き見た。

 暖炉に小さな火が灯り、バチバチと微かに音がする。
 クリスはいつものように頭から布団を被っており、姿は見えない。だが、ベッドに長い金髪が散らばり、布団が規則正しく上下する。

 ルドは気配と足音を消して、慎重に部屋に入った。罠がないことを確認しながらベッドに近づく。

 無事、目的地にたどり着いたルドは、懐から箱を出すと枕元に置いた。

「メリークリスマスです、師匠」
「……ん」

 まるで返事をしたかのようにクリスがもぞもぞと動く。ルドは、ヤバい! と硬直したが、クリスはそのまま寝入った。

「ふぅー」

 ルドは深く息を吐きながら部屋を出て、静かにドアを閉める。

「青いサンタですか? そういえば、青い服のサンタがいる地方もありましたね」

 突然の声にルドが慌てて横を向くと、暗闇に溶けるようにカリストが立っていた。
 ルドはどこか安堵しながら肩をすくめる。

「赤い服はさすがに目立ちますから」
「そうですか。まあ、なにはともあれ、お疲れ様です。私からのクリスマスプレゼントをどうぞ」

 カリストが掌にボタンを出すと、綺麗な指で躊躇いなく押した。同時に盛大な警報音が鳴り、中庭が騒がしくなる。

「どこだ!?」
「クリス様の寝室の方だ!」
「捕まえろ!」

 怒鳴り声とともに足音が迫る。

「嫌がらせですかぁ!?」

 目的を果たした、ルドは迷うことなく一目散に屋敷から脱出した。




 窓から差し込む柔らかい陽を浴びながら、クリスは珍しく自然と目を覚ました。
 普段ならカリストが起こしに来るが、クリスマスの翌朝は休みのため起こされない。

 クリスは爆発した金髪をかきながら体を起こした。そこで枕元にリボンでラッピングされた小箱を発見する。

「まさ……か」

 本当にプレゼントがあるとは思っていなかった。可愛らしくラッピングされた小箱を前に、クリスは自分の胸がドキドキしていることに気がつく。

 小さな期待と少しの不安。この感覚はいつ以来だろう。

 クリスはゆっくりとラッピングを外し、箱を開けた。そこには特殊な金属で作られたネックレスと、赤い飴。

「……タイミングがいいな」

 クリスは細い皮ひもを手に取ると、首から外した。それから魔宝石を外し、ネックレスに通す。特殊な金属で作られたこのネックレスなら、魔力に負けて切れることはない。

 クリスはネックレスを首にかけると、小箱を手に取った。

「これが甘い菓子か」

 クリスは赤い飴を摘まみ、口に放り込む。

「確かに……甘いな」

 不思議な甘さにクリスの顔は自然と綻んでいた。



 一方、その頃、ルドの屋敷では……
 ルドが目を覚ますと、枕の隣に炭の菓子があった。

「いつの間に!? いったい誰が……」

 昨夜はクリスの屋敷の一件で疲れはしたが、侵入者に気づかないほど深く眠っていない。
 炭の菓子に微かにカリストの魔力を感じる。ルドはカリストなら影を通して、気づかれずに物を置けることを思い出し……

「やられた」

 クリスのプレゼントを置くために、自分はあれだけ苦戦したのに! と、ルドは一人悔しがった。






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