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宣戦布告
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ちょうど次の登校日は週明けだった。
いつものようにダラダラと過ごす週末だったが、美結は日に日に嫌な予感が増していた。
しかしそれは決して避けられないことであり、美結は意を決して月曜日を迎えた。
美結は廊下で陸と他愛のない会話をし、いつもよりのんびりと登校した。
しかし美結は教室に入るなり、多くの生徒の視線を浴びた。
つい明人の姿を探したがまだ登校していないようだった。
工以外の仲良しメンバーが既に自分の机の周りにいたのだった。
美結は嫌な予感はやはり的中であった。
「みんなおはよう!」
それでも明るく笑顔を振りまいた美結だったが、友人らは顔を見合わせて神妙な表情をしていた。
隼人が海に背中を押されて、一番に口を開いた。
「おはよう、美結。実はさ、あれから噂聞いちゃったんだけど。美結と明人って…。」
「付き合ってたよ。」
美結の耳元で小声で話し始めた隼人の余所余所しさに、美結はイライラして思わず大きな声で言ってしまった。
美結が口に手を当てて教室を見渡すと聞き耳を立てていたクラスメイト達がヒソヒソ話をしていた。
美結は深い溜め息をついて、椅子に座ると無心でバッグから教科書を出した。
あからさま不機嫌な様子の美結に、三人は机の前で揃って頭を下げた。
「美結本当にごめん。」
「ごめんなさい、噂で聞いちゃって。何も聞いてないとか平気なふりできなくて…。」
「過去のことなのに本当ごめん。そりゃ嫌になるよね。」
美結は三人に言葉を返さなかった。
友人達が悪いとは思っていなかったが、腑が煮え切っていた。
しかし美結の後ろから、聞き慣れた声が聞こえた。
「てかお前らさー、まじTPO弁えろよー。」
「工?」
珍しく妥当なことを話した工も、声のトーンから相当苛立っているのが分かった。
「美結、声デカくて廊下にいた俺にまで聞こえたー。」
美結は振り返り、揶揄う工を軽く睨みつけた。
しかし工は明らかに重い空気を振り払ってくれた。
「あのさ、俺と美結だって中学の時付き合ってたのに、誰も噂してくれないよな。俺はまだ美結の大好きだし、片想いしてる俺の方がよっぽど面白いネタじゃね?」
楽観的に話す工の様子に、美結を含め仲良しメンバーは呆気に取られ、まるで空いた口が塞がらなくなった。
「お前、本当素直だな。」
「てか本当バカ。」
「美結、また俺と付き合おうよ?」
ふざける工に仲良しメンバー達は安堵しながら話に乗っかった。
美結は席から立ち上がり工の正面に向かうと、工のこめかみに向かって自分の握り拳を回した。
「美結、痛い。」
「もう、皆が変な誤解したらどーするの。」
あまりに単純で素直な工と困っている美結の姿を見ていた友人達は、笑い声を放った。
美結は顔を赤くして照れながらも、自分を含めた周りの雰囲気を和ませてくれた工に感謝の気持ちでいっぱいだった。
「誤解してくれた方が俺はいいんだけどなぁ。」
工がそう小声で言ったのは、美結には聞こえなかった。
「あ、明人だ。」
「ん?俺がどうした?」
そして騒めく教室内に明人が現れたことで、この話はこれっきりすっきりと終わりになった。
「ねぇ、あの子誰?」
それはその日のホームルームでのことだった。
美結は教壇に立ったある女子を遠くから鋭く睨めつけ、工に視線を送った。
それは工にしか見せられない素の自分でもあった。
しかし聞いた相手が間違えだったと美結は我に返る。
「知ってるわけないか。」
「知ってるよ。濱田千花。」
工はそう言い放った。
それは再来月に開催される文化祭実行員に立候補した女子の代表だった。
美結が気にした理由はその隣にいる、先に立候補をして決まった男子代表だった。
「千花はね、二年生ながらもオーケストラ部でコンサートマスターを務めるバイオリニストでさ。あ、なんで俺が知ってるかって?俺、実は小さい頃からビオラ習っててオーケストラとかよく聴きに行くんだよね。俺の家族音楽一家でさ…。」
そう工が珍しく恥ずかしそうにしながら語り始めたが、美結の頭には入って来なかった。
周りからお似合い!と茶化されて照れ合う、黒板の前の男女の様子を美結はひたすら呆然と見つめていた。
「柄じゃない…。明人が文化祭実行委員なんて。」
そう美結がついボソリと呟いたのを、幸い誰も聞超えていなかった。
明人は人懐こっくてでもどこかヤンチャで、帰宅部が似合うような自由人間だ。
しかし転校先でいろんな人に会い高校生活に慣れたいからと、文化祭実行委員を自ら立候補した。
そして明人のパートナーの席をすぐに手に入れたのが千花だった。
千花は黒髪ストレートでスカートの丈も短くない優等生タイプで一見実行員には相応しかった。
そしてノーメイクで地味だけれども、顔立ちがよく整った原石のような女の子だった。
大好きな人のあからさまな嫉妬心を見抜けない工ではなかった。
工はそれに気付くと音楽通の語りを止め、しばらく美結を見つめて机に突っ伏した。
しかし工は何も突っ込みたくないくらい、唇を噛み締める美結の姿が可愛すぎてつい何も言えなくなったのである。
「工、先帰るね。バイバイ。」
しかし美結はその気持ちの理由を工にも告げることなく、ホームルームが終わったらすぐに帰宅した。
ムカムカする胸の内を誰かに明かせれば楽だろうが、美結自身はまだ分からない感情だった。
ー元彼のはずだった…のに。
こんなことで心がかき乱されては、これから一年心が持たない。
今はクラスメイトなだけで、友達でもないし話すことすらほとんどないのに。
「心を無にできますように。」
美結は速攻近所の神社に行き、しっかりお賽銭を入れ、鐘を鳴らしてそう願い事をしていた。
誰にも見られたくも、聞かれたくもない光景だった。
しかしそれは神様への願い事に入っていなかったからか、あっさりと破られた。
「あれ、美結こんなところでなにしてたの?なにか願い事でもあった?」
「…陸!?あれ、今日部活じゃなかったんだっけ!?」
酷く取り乱した美結だったが、陸は先程の自分の神頼みの内容までは聞いていない様子であった。
二人は何事もなかったかのように一緒に帰り、帰り道で美結はついホームルームであった出来事を陸に話していた。
「そうだね。明人が文化祭委員なんて珍しいね。」
同じ幼馴染みとして、いや自分以上に深く知っているかもしれない陸も明人の行動に神妙になりながらも笑っていた。
笑い返した美結はまさかその相手とのツーショットに動揺してることまでは吐露せずに済み、少し安心したはずだった。
「美結は…まだ明人が気になるの?」
「え…。」
それは陸らしくない、美結の本心につくような返しだった。
美結はつい黙ってしまい、俯いた。
陸に返す言葉を考えたが出てこなかった。
そして困っている美結に偽りの返事をさせたのもまた陸だった。
「そりゃあ、気になるよね…。」
陸はその理由までは言わなかった。
それは普段落ち着いてる陸も信じ難いことであった。
そして自分がこのまま美結と心地の良い関係を続けられない未来を危うみ、陸は前に進まなきゃいけないと決断した。
「俺、来月の球技大会のサッカーで絶対二組に勝つから。」
「え?球技大会?そうだね、あったね。頑張ってね。応援してる!」
中学生の頃、明人は転校するまでサッカー部のエースで陸とそのポジションを争っていた。
それは陸の明らかな宣戦布告だった。
しかし美結はいきなり話題が変わったことに素直に安堵して笑みを溢していて、陸の気持ちに気づくことはなかった。
そして文化祭の前に球技大会で陸の一方的な対決が切って落とされ、また自分にも一波乱があるなどまだ平穏に過ごしていた美結には想像できなかった。
いつものようにダラダラと過ごす週末だったが、美結は日に日に嫌な予感が増していた。
しかしそれは決して避けられないことであり、美結は意を決して月曜日を迎えた。
美結は廊下で陸と他愛のない会話をし、いつもよりのんびりと登校した。
しかし美結は教室に入るなり、多くの生徒の視線を浴びた。
つい明人の姿を探したがまだ登校していないようだった。
工以外の仲良しメンバーが既に自分の机の周りにいたのだった。
美結は嫌な予感はやはり的中であった。
「みんなおはよう!」
それでも明るく笑顔を振りまいた美結だったが、友人らは顔を見合わせて神妙な表情をしていた。
隼人が海に背中を押されて、一番に口を開いた。
「おはよう、美結。実はさ、あれから噂聞いちゃったんだけど。美結と明人って…。」
「付き合ってたよ。」
美結の耳元で小声で話し始めた隼人の余所余所しさに、美結はイライラして思わず大きな声で言ってしまった。
美結が口に手を当てて教室を見渡すと聞き耳を立てていたクラスメイト達がヒソヒソ話をしていた。
美結は深い溜め息をついて、椅子に座ると無心でバッグから教科書を出した。
あからさま不機嫌な様子の美結に、三人は机の前で揃って頭を下げた。
「美結本当にごめん。」
「ごめんなさい、噂で聞いちゃって。何も聞いてないとか平気なふりできなくて…。」
「過去のことなのに本当ごめん。そりゃ嫌になるよね。」
美結は三人に言葉を返さなかった。
友人達が悪いとは思っていなかったが、腑が煮え切っていた。
しかし美結の後ろから、聞き慣れた声が聞こえた。
「てかお前らさー、まじTPO弁えろよー。」
「工?」
珍しく妥当なことを話した工も、声のトーンから相当苛立っているのが分かった。
「美結、声デカくて廊下にいた俺にまで聞こえたー。」
美結は振り返り、揶揄う工を軽く睨みつけた。
しかし工は明らかに重い空気を振り払ってくれた。
「あのさ、俺と美結だって中学の時付き合ってたのに、誰も噂してくれないよな。俺はまだ美結の大好きだし、片想いしてる俺の方がよっぽど面白いネタじゃね?」
楽観的に話す工の様子に、美結を含め仲良しメンバーは呆気に取られ、まるで空いた口が塞がらなくなった。
「お前、本当素直だな。」
「てか本当バカ。」
「美結、また俺と付き合おうよ?」
ふざける工に仲良しメンバー達は安堵しながら話に乗っかった。
美結は席から立ち上がり工の正面に向かうと、工のこめかみに向かって自分の握り拳を回した。
「美結、痛い。」
「もう、皆が変な誤解したらどーするの。」
あまりに単純で素直な工と困っている美結の姿を見ていた友人達は、笑い声を放った。
美結は顔を赤くして照れながらも、自分を含めた周りの雰囲気を和ませてくれた工に感謝の気持ちでいっぱいだった。
「誤解してくれた方が俺はいいんだけどなぁ。」
工がそう小声で言ったのは、美結には聞こえなかった。
「あ、明人だ。」
「ん?俺がどうした?」
そして騒めく教室内に明人が現れたことで、この話はこれっきりすっきりと終わりになった。
「ねぇ、あの子誰?」
それはその日のホームルームでのことだった。
美結は教壇に立ったある女子を遠くから鋭く睨めつけ、工に視線を送った。
それは工にしか見せられない素の自分でもあった。
しかし聞いた相手が間違えだったと美結は我に返る。
「知ってるわけないか。」
「知ってるよ。濱田千花。」
工はそう言い放った。
それは再来月に開催される文化祭実行員に立候補した女子の代表だった。
美結が気にした理由はその隣にいる、先に立候補をして決まった男子代表だった。
「千花はね、二年生ながらもオーケストラ部でコンサートマスターを務めるバイオリニストでさ。あ、なんで俺が知ってるかって?俺、実は小さい頃からビオラ習っててオーケストラとかよく聴きに行くんだよね。俺の家族音楽一家でさ…。」
そう工が珍しく恥ずかしそうにしながら語り始めたが、美結の頭には入って来なかった。
周りからお似合い!と茶化されて照れ合う、黒板の前の男女の様子を美結はひたすら呆然と見つめていた。
「柄じゃない…。明人が文化祭実行委員なんて。」
そう美結がついボソリと呟いたのを、幸い誰も聞超えていなかった。
明人は人懐こっくてでもどこかヤンチャで、帰宅部が似合うような自由人間だ。
しかし転校先でいろんな人に会い高校生活に慣れたいからと、文化祭実行委員を自ら立候補した。
そして明人のパートナーの席をすぐに手に入れたのが千花だった。
千花は黒髪ストレートでスカートの丈も短くない優等生タイプで一見実行員には相応しかった。
そしてノーメイクで地味だけれども、顔立ちがよく整った原石のような女の子だった。
大好きな人のあからさまな嫉妬心を見抜けない工ではなかった。
工はそれに気付くと音楽通の語りを止め、しばらく美結を見つめて机に突っ伏した。
しかし工は何も突っ込みたくないくらい、唇を噛み締める美結の姿が可愛すぎてつい何も言えなくなったのである。
「工、先帰るね。バイバイ。」
しかし美結はその気持ちの理由を工にも告げることなく、ホームルームが終わったらすぐに帰宅した。
ムカムカする胸の内を誰かに明かせれば楽だろうが、美結自身はまだ分からない感情だった。
ー元彼のはずだった…のに。
こんなことで心がかき乱されては、これから一年心が持たない。
今はクラスメイトなだけで、友達でもないし話すことすらほとんどないのに。
「心を無にできますように。」
美結は速攻近所の神社に行き、しっかりお賽銭を入れ、鐘を鳴らしてそう願い事をしていた。
誰にも見られたくも、聞かれたくもない光景だった。
しかしそれは神様への願い事に入っていなかったからか、あっさりと破られた。
「あれ、美結こんなところでなにしてたの?なにか願い事でもあった?」
「…陸!?あれ、今日部活じゃなかったんだっけ!?」
酷く取り乱した美結だったが、陸は先程の自分の神頼みの内容までは聞いていない様子であった。
二人は何事もなかったかのように一緒に帰り、帰り道で美結はついホームルームであった出来事を陸に話していた。
「そうだね。明人が文化祭委員なんて珍しいね。」
同じ幼馴染みとして、いや自分以上に深く知っているかもしれない陸も明人の行動に神妙になりながらも笑っていた。
笑い返した美結はまさかその相手とのツーショットに動揺してることまでは吐露せずに済み、少し安心したはずだった。
「美結は…まだ明人が気になるの?」
「え…。」
それは陸らしくない、美結の本心につくような返しだった。
美結はつい黙ってしまい、俯いた。
陸に返す言葉を考えたが出てこなかった。
そして困っている美結に偽りの返事をさせたのもまた陸だった。
「そりゃあ、気になるよね…。」
陸はその理由までは言わなかった。
それは普段落ち着いてる陸も信じ難いことであった。
そして自分がこのまま美結と心地の良い関係を続けられない未来を危うみ、陸は前に進まなきゃいけないと決断した。
「俺、来月の球技大会のサッカーで絶対二組に勝つから。」
「え?球技大会?そうだね、あったね。頑張ってね。応援してる!」
中学生の頃、明人は転校するまでサッカー部のエースで陸とそのポジションを争っていた。
それは陸の明らかな宣戦布告だった。
しかし美結はいきなり話題が変わったことに素直に安堵して笑みを溢していて、陸の気持ちに気づくことはなかった。
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