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12話

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「で、狼さん。私に頼みとは?」

『お! 私の願いを聞いてくれる気になったのか?』

 悠理がそう提案すると、狼さんの目がキラキラと輝き始める。

 だって狼さんの願いを叶えない限り、解放してもらえそうにないんですもの。

「ええ、谷底に落ちた私達を救い出してくれるほどのお願いみたいなので……」

『そうかそうか。では、先ず確認を取らせてもらうぞ。お主は聖女で間違っておらんな?』

「「……え?」」

 ……悠理の背中に冷や汗が流れる。

「せ、聖女?」

 ルイ王子の目が大きく見開かれた。

『ん? お主は聖女ではないのか?』

 銀狼は、首を傾げながら尋ねてくる。

「……そうです。私は……紛れもなく聖女です」

 悠理は、声が震えそうになりながらも言いきる。

「……ユウ、リ?」

 ルイ王子が戸惑いながらも悠理の名を呼ぶ。

 悠理は胸が苦しかった。ルイ王子を騙したくて騙していたわけではない。
 それでもルイ王子を騙していたという事実は消えない。

 ごめんなさい。こんな私のことなど、嫌いになりましたか? そうですよね。地味で、ブスで、嘘つきで……。

『やはりか。私の支配下にお主の存在を感知したときはまさかと思ったが……』

「ユウリ、聖女って本当なのかい?」

 ルイ王子の視線が悠理の体に突き刺さる。

「……ル、ルイ……その……ずっと騙していて、ごめんなさい……」

 悠理はルイ王子の顔を見るのが、怖かった。

 いつかこうなると分かっていた……でもそれを先延ばしにしてきた。
 だから……全て自分が悪い。

「ユウリ、どうして私を見てくれないの?」

 ルイ王子の優しい声が聞こえる。

「…ごめん、なさい。ごめんなさい」

「ねえユウリ。私はとても嬉しいんだよ。ユウリが聖女だと分かって」

「え……?」

 悠理は顔をガバッと上げると、目の前には微笑みを浮かべたルイ王子の顔があった。

「やっと私を見てくれた」

「ど、どうして? ずっとルイを騙していたんだよ?」

 悠理の視界が滲み始める。無意識に涙が流れているのだろう。
 ルイ王子の指が、悠理の頬を流れる涙を拭う。

「分かっていたよ。悠理が私に隠し事をしていたことは。でも、それでもよかったんだ。悠理が私の側にいてくれるのなら……」

「ル、ルイ……でも私は……」

「いいんだよ。それに私も悠理に秘密していることがあるんだ」

「……え?」

「私は“神の慈悲”というスキルを持っていてね、そのスキルの効力で他人の性質が大まかにだけど分かるんだ。そして、これは……」

 ルイ王子の手が悠理の頬に添えられる。

「触れている相手の考えや気持ちが、なんとなくだけど理解することができる」

「そう……ん?」

 今のは聞き間違いだろうか? その人の体の一部に触れているだけで、その人の感情が分かるということであっているのだろうか?
 だから、やたらめったら触ってきたのか!?

「うん、そうだよ」

 どうやらルイ王子は、悠理の考えを読んだらしい。

「ッ!? つ、つまり……ルイに隠し事はできないってこと…であってるの?」

 悠理が恐る恐る尋ねると、ルイ王子はにっこりと笑う。

「まあ、そんな感じかな?」

「……」

 悠理の脳内に“チーン”という音が鳴り響いた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 バレたことは仕方ないので、取り敢えず狼さんのお願いを聞く。

『私の寝床付近でいいから、聖女の加護結界を張ってくれぬか?』

「……加護結界?」

『そうじゃ』

 『そうじゃ』と言われても、加護結界って何? それって美味しいの? って感じだ。

「ユウリ、加護結界とは聖女にしか使えない魔法のことだよ。加護結界を張ることで、そこに瘴気が発生しなくなるんだ」

 ルイ王子がすかさず悠理に説明してくれる。人の心をスキルの所為といえど勝手に覗き見るなんて……と思っていたが、案外便利なスキルである。

「なるほど……で、それはどうやって張るの?」

 聖女としての訓練を受けてこなかった悠理にとって、加護結界など未知の領域だった。

『……ぬ? お主は聖女なのだろう?』

「そうなんだけど……」

「ユウリは聖属性の魔法を一度も使用したことがないんだ。つまり悠理の聖魔法は、生まれたての雛レベル、、、、、、、、、、ってことです」

 “生まれたての雛レベル”という部分を強調して言うルイ王子。事実ちゃあ事実だから、ルイ王子に言い返すこともできない。

『そうなのか。それは困ったのう……』

 悠理の聖魔法が生まれたての雛レベルだと分かるや否や、明らかにションボリとする銀狼と白狼。
 なんて失礼な奴らなんだ。悠理の心内に、モヤモヤとした感情が広がる。

「その加護結界っていうやつを張ればいいんでしょう!! み、見てなさい!!」

「ユ、ユウリ!!」

 慌てて止めようとするルイ王子を無視して、悠理は胸の前で手を組んだ。
 そして、若干やけくそになりながらも唱える。

「出でよ!! 加護結界!!」と。

 まるでモンスターかなにかを召喚するような術になってしまったが……まあ、そこはご愛嬌である。

 シーンと辺りを静寂が包んだとき、見えない手が悠理の手を優しく包み込む。

『我が加護を受けし者よ。そなたの願いを叶えてあげよう』

 悠理の脳内に女性の優しい声が響く。どうやらその声はルイ王子や狼さん達にも聞こえたらしく、大きく目を見開いている。

「ユウリ、今の声は?」

『なんと、お主は女神の加護持ちなのか……』

「女神の加護持ち?」

 悠理の体から力が抜け落ちるのと同時に、何かが溢れ出る。それはジワジワと範囲を広げ、どんどんと拡大していく。

『なんて魔力量だ。それに…これは……』

『女神様の魔力を感じるの~』

 狼さん曰く、女神様が悠理に力を貸してくれているようだった。

『……ふむ、どうやらこの森全土に加護結界が張られたようじゃ』

「「……え?」」

 悠理とルイ王子の間抜けた声が辺りに響き渡った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


 長くなりそうだったので、一旦区切ります。

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