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最後の異世界生活~カノン編~

~カノンと美桜~

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一ノ瀬家。
カノンがおまじないを唱えて気を失ってからすぐに、美桜の部屋から何かが倒れる音を聞いたかなめが美桜の部屋の前に訪れた。

かなめはドアをノックするが、中から返事がない事を疑問に思い、一声かけ、ゆっくりとドアを開け、中へ入った。

美桜の部屋に入ったかなめの目に飛び込んで来たのは、倒れている美桜の体があり、かなめは慌てた様子で美桜の体をベッドに運び、一階にいるとおるゆいを呼びに行った。

――。
同時刻、アルストロメリア王国のフローライト家。

ここでもまた、美桜が突如めまいに襲われ、カノン同様におまじないを唱え、気を失い倒れた。

翌日の予定を確認しようと、カノンの部屋に入ってきた侍女のリリーが倒れているカノンの体を発見し、慌てて屋敷内にいた使用人やカノンの父、オリヴァーや姉のサントリナ、兄のフロックス、婚約者のライラック達を呼びに行った。


両家が騒がしくしている頃、当の本人達は夢を見ていた。

おまじないを唱えた日に必ず見る夢。
そして、ここ最近、何度も意識を引っ張られる感覚に襲われた時に見る夢。

「(ここは…あの世界ですわ…。
相変わらず、真っ白いですわね…。
ですが…今回は…寂しさもなく…最初に見た時と同じ…キレイな世界ですわ。)」

カノンが現状を把握しようと辺りを見渡すと、倒れている人が目に飛び込んで来た。

「!?…あれは!!」

見覚えのある姿にカノンは慌てて駆け寄り、倒れている人物の体を自分に向け、首の後ろに腕を回し、首や体を支えながら目を覚まして欲しい一心で声を掛けた。

「美桜さん!!目を覚ましてくださいまし!!!美桜さん!!!」

「う……んん?………カ…ノ…さん?」

「美桜さん!よかったですわ!!気が付いてくれましたのね!」

カノンの呼びかけに目を覚ました美桜。
美桜はゆっくりと体を起こし、今の現状を把握しようと辺りを見渡した。

「ここは…あの夢の世界…?」

「そうみたいですわ。」

美桜は意識がはっきりとし、起こしてくれた事に慌てて目の前のカノンにお礼を言った。

「そういえば…目の前の姿…カノンさん…ですよね…。
私の姿…どうなっていますか?」

「わたくしの目の前のお姿…美桜さんですわ…。」

「どうなっているんでしょう…。二人とも…本当の姿になっているなんて…。」

「……わかりません。少し…お話しませんか?
以前はお話出来ないまま入れ替わってしまったので。」

「……そうでした…私…カノンさんに会えずに…前回の入れ替わりの時は、声だけが聞こえて…怖くて、不安で…。
最近、何度も急にめまいが来て…この世界の夢を見て…カノンさんはいなくて…でも…また会えて嬉しいです!」

美桜は前回の夢の様子を思い出し、恐怖と安堵の複雑な感情が入り混じり、少し涙目で目の前のカノンに抱き着いた。
カノンもそんな美桜を受け止め、優しく抱き返した。

「わたくしも…美桜さんのお姿は見えるのに、声が聞こえず、怖かったですわ。

それに…わたくしも何度もめまいが来て…この夢に閉じ込められそうになって…とても不安になりましたの。
いのりちゃんの言う通り…二人とも、同じ事が起こっていたのですわ。

こちらこそ…またお会いできて…嬉しいですわ…。」

二人は体を離し、何もない空間に腰を下ろし、お互いの世界の事を報告し合った。

「……と、まぁ、大まかに報告をするとこんな感じですわ。
あとはいつも通り、日記に書き留めています。」

「すごい…なんか…何でしょう…規格外過ぎて…言葉が出ないです。」

「ふふっ。さ、次は美桜さんの番ですわ。お話…聞かせてくださいまし。」

「私の方は……。――という感じです。」

「……すみません…兄が騒がしくて…。戻れたらちゃんと言い聞かせなければ…。」

「そんな!大丈夫ですよ!フロックスお兄ちゃ…フロックスさんに助けられた事も多かったですし。」

「お兄様の事……そのまま、お兄ちゃんと読んであげてくださいまし。
あんなでも、頼りになるのは間違いないですわ。すごく喜んでくださると思いますの。」

「カノンさん………はい。そのままで…呼ばせて頂きます。

サントリナお姉ちゃんに、フロックスお兄ちゃん…オリヴァーお父さんにライラック殿下…アイリスさん…。

皆さん…本当にお優しかったです。
それにアザレアの方々…。
時には…心細くて、私…何も出来てないんじゃないかと不安になって、勝手に落ち込んで…周りの方々に心配とか迷惑とか掛けてしまいました。

それなのに…手を差し伸べてくれたんです…。
こんな異世界からきた私に…優しくしてくれたんです…。

本当に…皆さんには感謝してもしきれないくらいです。」

「美桜さん……。わたくしも…ゆいお母様、とおるお父様、かなめさん…いのりちゃんに雅君、ひいらぎさん…多くの方々に気付きを…優しさを頂きました。

美桜さんのお体…貸して頂き、ありがとうございました。

国に戻ってからのやりたい事も決まりましたし、もう、あの時の自分はいませんわ。」

「…私も…将来の夢…決まりました。
カノンさんの国で多くの経験をさせて頂いたおかげです。

もう、自信を無くしてばかりの自分は過去に置いてきました。

カノンさんのお体…こちらこそ、貸して頂いてありがとうございます。」

「ふふっ。最初の頃の印象と…だいぶ変わりましたわね。
力強く、楽しそうにキラキラしていますわ。」

「カノンさんも、最初に会った時よりもだいぶ違いますよ。
さらに頼りになって、とっても生き生きしています!!」

カノンと美桜が話に夢中になっていると、当たりがさらに輝きを増した空間が広がった。
そんな時、二人の感覚がまた違和感を覚えた。
おそらく、夢から覚めようとしているのだろう。

「あら……なんだか…。」

「そうですね…これは…夢から覚めようとしていると思います。」

「最後に質問…いいでしょうか。
美桜さんの…将来の夢を伺ってもいいですか?」

「私の将来の夢…カノンさんの国で得た経験が導いたもの…パティシエです。

私、自分でデザインして作ったお菓子を、日本だけでなく世界に広めたいです。
そして、幸せな笑顔の花を咲かせていきたいです。」

「素敵な夢ですわ…。
わたくしも…殿下とともに国を良くし、笑顔を広めていきますわ。
美桜さんの世界で学んだ知識と技術を駆使して、美桜さんに負けないくらいの行動力で頑張りますわよ。」

お互いの決意を言葉にし、微笑み会った直後、意識が現実世界に引っ張られる感覚が二人を襲う。

「本当に…最後ですわね…。
……あの…美桜ちゃん…とお呼びしても…いいでしょうか…。」

「!…はい!カノンちゃん!!。」

カノンは照れた表情で美桜に提案を持ち掛けた。
美桜はそんなカノンの言葉に嬉しさで少しだけ涙目になり笑顔で応えた。

「「最後にもう一度……あなたに会えて本当に良かった。

……本当にありがとう。」」

二人は最後の最後に言葉が重なり、満面の笑みを見せ合い、どちらともなく握手をした。
そうして二人の意識は現実の世界へと、それぞれの世界へと戻っていった。
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