「「中身が入れ替わったので人生つまらないと言った事、前言撤回致しますわ!」」

桜庵

文字の大きさ
166 / 170
最後の異世界生活~カノン編~

~カノンと美桜~

しおりを挟む
一ノ瀬家。
カノンがおまじないを唱えて気を失ってからすぐに、美桜の部屋から何かが倒れる音を聞いたかなめが美桜の部屋の前に訪れた。

かなめはドアをノックするが、中から返事がない事を疑問に思い、一声かけ、ゆっくりとドアを開け、中へ入った。

美桜の部屋に入ったかなめの目に飛び込んで来たのは、倒れている美桜の体があり、かなめは慌てた様子で美桜の体をベッドに運び、一階にいるとおるゆいを呼びに行った。

――。
同時刻、アルストロメリア王国のフローライト家。

ここでもまた、美桜が突如めまいに襲われ、カノン同様におまじないを唱え、気を失い倒れた。

翌日の予定を確認しようと、カノンの部屋に入ってきた侍女のリリーが倒れているカノンの体を発見し、慌てて屋敷内にいた使用人やカノンの父、オリヴァーや姉のサントリナ、兄のフロックス、婚約者のライラック達を呼びに行った。


両家が騒がしくしている頃、当の本人達は夢を見ていた。

おまじないを唱えた日に必ず見る夢。
そして、ここ最近、何度も意識を引っ張られる感覚に襲われた時に見る夢。

「(ここは…あの世界ですわ…。
相変わらず、真っ白いですわね…。
ですが…今回は…寂しさもなく…最初に見た時と同じ…キレイな世界ですわ。)」

カノンが現状を把握しようと辺りを見渡すと、倒れている人が目に飛び込んで来た。

「!?…あれは!!」

見覚えのある姿にカノンは慌てて駆け寄り、倒れている人物の体を自分に向け、首の後ろに腕を回し、首や体を支えながら目を覚まして欲しい一心で声を掛けた。

「美桜さん!!目を覚ましてくださいまし!!!美桜さん!!!」

「う……んん?………カ…ノ…さん?」

「美桜さん!よかったですわ!!気が付いてくれましたのね!」

カノンの呼びかけに目を覚ました美桜。
美桜はゆっくりと体を起こし、今の現状を把握しようと辺りを見渡した。

「ここは…あの夢の世界…?」

「そうみたいですわ。」

美桜は意識がはっきりとし、起こしてくれた事に慌てて目の前のカノンにお礼を言った。

「そういえば…目の前の姿…カノンさん…ですよね…。
私の姿…どうなっていますか?」

「わたくしの目の前のお姿…美桜さんですわ…。」

「どうなっているんでしょう…。二人とも…本当の姿になっているなんて…。」

「……わかりません。少し…お話しませんか?
以前はお話出来ないまま入れ替わってしまったので。」

「……そうでした…私…カノンさんに会えずに…前回の入れ替わりの時は、声だけが聞こえて…怖くて、不安で…。
最近、何度も急にめまいが来て…この世界の夢を見て…カノンさんはいなくて…でも…また会えて嬉しいです!」

美桜は前回の夢の様子を思い出し、恐怖と安堵の複雑な感情が入り混じり、少し涙目で目の前のカノンに抱き着いた。
カノンもそんな美桜を受け止め、優しく抱き返した。

「わたくしも…美桜さんのお姿は見えるのに、声が聞こえず、怖かったですわ。

それに…わたくしも何度もめまいが来て…この夢に閉じ込められそうになって…とても不安になりましたの。
いのりちゃんの言う通り…二人とも、同じ事が起こっていたのですわ。

こちらこそ…またお会いできて…嬉しいですわ…。」

二人は体を離し、何もない空間に腰を下ろし、お互いの世界の事を報告し合った。

「……と、まぁ、大まかに報告をするとこんな感じですわ。
あとはいつも通り、日記に書き留めています。」

「すごい…なんか…何でしょう…規格外過ぎて…言葉が出ないです。」

「ふふっ。さ、次は美桜さんの番ですわ。お話…聞かせてくださいまし。」

「私の方は……。――という感じです。」

「……すみません…兄が騒がしくて…。戻れたらちゃんと言い聞かせなければ…。」

「そんな!大丈夫ですよ!フロックスお兄ちゃ…フロックスさんに助けられた事も多かったですし。」

「お兄様の事……そのまま、お兄ちゃんと読んであげてくださいまし。
あんなでも、頼りになるのは間違いないですわ。すごく喜んでくださると思いますの。」

「カノンさん………はい。そのままで…呼ばせて頂きます。

サントリナお姉ちゃんに、フロックスお兄ちゃん…オリヴァーお父さんにライラック殿下…アイリスさん…。

皆さん…本当にお優しかったです。
それにアザレアの方々…。
時には…心細くて、私…何も出来てないんじゃないかと不安になって、勝手に落ち込んで…周りの方々に心配とか迷惑とか掛けてしまいました。

それなのに…手を差し伸べてくれたんです…。
こんな異世界からきた私に…優しくしてくれたんです…。

本当に…皆さんには感謝してもしきれないくらいです。」

「美桜さん……。わたくしも…ゆいお母様、とおるお父様、かなめさん…いのりちゃんに雅君、ひいらぎさん…多くの方々に気付きを…優しさを頂きました。

美桜さんのお体…貸して頂き、ありがとうございました。

国に戻ってからのやりたい事も決まりましたし、もう、あの時の自分はいませんわ。」

「…私も…将来の夢…決まりました。
カノンさんの国で多くの経験をさせて頂いたおかげです。

もう、自信を無くしてばかりの自分は過去に置いてきました。

カノンさんのお体…こちらこそ、貸して頂いてありがとうございます。」

「ふふっ。最初の頃の印象と…だいぶ変わりましたわね。
力強く、楽しそうにキラキラしていますわ。」

「カノンさんも、最初に会った時よりもだいぶ違いますよ。
さらに頼りになって、とっても生き生きしています!!」

カノンと美桜が話に夢中になっていると、当たりがさらに輝きを増した空間が広がった。
そんな時、二人の感覚がまた違和感を覚えた。
おそらく、夢から覚めようとしているのだろう。

「あら……なんだか…。」

「そうですね…これは…夢から覚めようとしていると思います。」

「最後に質問…いいでしょうか。
美桜さんの…将来の夢を伺ってもいいですか?」

「私の将来の夢…カノンさんの国で得た経験が導いたもの…パティシエです。

私、自分でデザインして作ったお菓子を、日本だけでなく世界に広めたいです。
そして、幸せな笑顔の花を咲かせていきたいです。」

「素敵な夢ですわ…。
わたくしも…殿下とともに国を良くし、笑顔を広めていきますわ。
美桜さんの世界で学んだ知識と技術を駆使して、美桜さんに負けないくらいの行動力で頑張りますわよ。」

お互いの決意を言葉にし、微笑み会った直後、意識が現実世界に引っ張られる感覚が二人を襲う。

「本当に…最後ですわね…。
……あの…美桜ちゃん…とお呼びしても…いいでしょうか…。」

「!…はい!カノンちゃん!!。」

カノンは照れた表情で美桜に提案を持ち掛けた。
美桜はそんなカノンの言葉に嬉しさで少しだけ涙目になり笑顔で応えた。

「「最後にもう一度……あなたに会えて本当に良かった。

……本当にありがとう。」」

二人は最後の最後に言葉が重なり、満面の笑みを見せ合い、どちらともなく握手をした。
そうして二人の意識は現実の世界へと、それぞれの世界へと戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~

沢野 りお
ファンタジー
なんということもない普通の家族が「勇者召喚」で異世界に召喚されてしまった。 兄、橘葵二十八歳。一流商社のバリバリエリートのちメンタルに負担を受け退職後、一家の主夫として家事に精を出す独身。 姉、橘桜二十五歳。出版社に勤める美女。儚げで庇護欲をそそる美女。芸能人並みの美貌を持つオタク。あと家事が苦手で手料理は食べたら危険なレベル。 私、橘菊華二十一歳。どこにでいもいる普通の女子大生。趣味は手芸。 そして……最近、橘一家に加わった男の子、右近小次郎七歳。両親が事故に亡くなったあと、親戚をたらい回しにされ虐げられていた不憫な子。 我が家の末っ子として引き取った血の繋がらないこの子が、「勇者」らしい。 逃げました。 姉が「これはダメな勇者召喚」と断じたため、俗物丸出しのおっさん(国王)と吊り上がった細目のおばさん(王妃)の手から逃げ……られないよねぇ? お城の中で武器を持った騎士に追い詰められて万事休すの橘一家を助けたのは、この世界の神さまだった! 神さまは自分の落ち度で異世界召喚が行われたことは謝ってくれたけど、チート能力はくれなかった。ケチ。 兄には「生活魔法」が、姉には「治癒魔法」が、小次郎は「勇者」としてのチート能力が備わっているけど子どもだから鍛えないと使えない。 私には……「手芸創作」って、なにこれ? ダ神さまにもわからない能力をもらい、安住の地を求めて異世界を旅することになった橘一家。 兄の料理の腕におばさん軍団から優しくしてもらったり、姉の外見でおっさんたちから優遇してもらったり、小次郎がうっかりワイバーン討伐しちゃったり。 え? 私の「手芸創作」ってそんなことができちゃうの? そんな橘一家のドタバタ異世界道中記です。 ※更新は不定期です ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています ※ゆるい設定でなんちゃって世界観で書いております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...