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デート ②

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  白金市の郊外にある、県内で一番大きなショッピングモールへ向かった。

  広い駐車場と、人気店が揃ってるここは、県外から来る客も結構いて、いつも賑わっている。
  平日なのに今日も客はそこそこいて、車が停められたのは入り口から少し離れた場所だ。

  モールの2階にある、お気に入りのアクセサリーショップへ、柊と腕を組みながら入った。
  シンプルでユニセックスなデザインが、男女問わず人気がある。



「これがいい」

「美玲に似合いそうだな」



  そこで見かけた、黒い十字架のインダストリアルのピアスに一目惚れした。
  柊に似合いそうって言われて、ニヤニヤが止まらない。



「この十字架、柊のタトゥーみたいだなって」

「タトゥーも、俺の真似て入れてるもんな」

「…………柊の事、愛してるから……だから、同じにしたいんだよ」



  その言葉を聞くと、柊は少し困った顔をした。



「美玲は……俺に、夢見てるだけだって」

「そうじゃない!本当に好き……!」

「俺なんかより、暁(あき)のが良いだろ?あいつなら、お前の事、幸せにしてくれる」



  柊に好きって言うと、いつも暁をすすめてくる。
  俺の気持ちを否定されたみたいで、すごく悲しかった。



「暁、暁って……!暁は、恩人の一人だし、大切に思ってるけど……ただの、友達だよ……その他大勢と一緒」

「その言いぐさ、酷ぇな……おまえに、惚れてんのに」



  家族みたいに思ってる、従兄弟の暁の事を小馬鹿にしたような俺の言葉に、柊はムッとしていた。



「柊だって、酷いよ…………俺の気持ち、知ってるくせに……」 

「それは、最初から言ってるだろ?俺は誰も好きにならないって」



  柊の冷たい言い草に、悲しい気持ちでいっぱいになる。



「…………そんなの……わかってるよ……」



  への字口で不貞腐れてると、柊は無言のままピアスを手に取り、俺から離れてレジへ向かった。
  店員に「ラッピングして」と言うと、会計を済ます。

  ラッピングされ、上質な紙袋に入ったピアスを「おめでとう」と渡してきた。
  目は全然笑ってなくて、すごく冷たい表情をしてる。

  雰囲気が悪いまま、何も喋らずにエスカレーターへ乗った。
  目の前にある柊の背中が、すごく遠くに感じた。
  1階に着き、柊の後に続いてエスカレーターを降りる。



「わがまま言って……ごめん……」



  今にも消え入りそうな声で、柊に謝る。



「わがままだとは、思わねぇよ…………このままいても、言い合いになりそうだし。もう、帰んぞ」



  立ち止まってはくれたものの、相変わらず俺に背中を向けたままだ。



「やだ……」

「美玲」

「帰りたくない……柊と一緒にいたい……」



  柊からは返事がなかった。



  毎日逢っても、足りないくらい……
  大好きな柊と離れると思うと、辛くて苦しくて……



  涙がポロポロと流れ出し、ショッピングモールの真ん中だというのに、ガキみたいに嗚咽を上げて泣き出してしまった。



「うっ……うぅ……ひぐっ…………わがまま……言わないから……」



  優雅な音楽が流れ、人が往来する店内に、俺の啜り泣く声がみっともなく木霊する。

  肩出しニットからタトゥーをチラつかせ、耳はピアスだらけで、黒いマニキュアを塗っている、派手なピンクの髪と青いカラコンをした少年が、子供みたいにわんわんと泣いている。

  そんな面倒な人間とはかかわり合いたくないと、来店客は急ぎ足で通りすぎていく。






「…………ラブホ、行くか?」



  柊の言葉に頷くと、ポタポタとニットに涙が落ちていった。


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