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柊のオンナ ①

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  一晩中、暁に抱きしめられながら眠りについた。

  翌朝。
  暁の腕からするりと抜け出し、ベッドに腰を掛ける。
  眠りにつく安らかな暁の顔を見てると、ズキズキと胸が痛んだ。



  シャワーを浴び、支度を始める。
  寝ている暁に「ごめんね……」と聞こえるか聞こえないくらいの小さな声で謝り、仕事へ向かった。

  店へ着くと、待機部屋の雑魚達がザワついていた。
  相変わらず、話が好きな連中だ。



「柊さん、店に来てるよ」

「すげー、久々じゃない?」



  いつもなら聞き流す雑魚達の会話。
  聞き捨てならない人物の名前が耳に入り、意識がそっちへ向いた。

  柊とはずっと、連絡が取れてない。
  暫く店にも、顔を出してなかった。
  それが突然、店に現れたという事に心底驚いた。



「柊、来てるの?」



  俺から話し掛けるなんて滅多にしないから、キャストの少年は、きょとんとした顔をして俺を見ていた。



「レイ……知らなかったんだぁ」

「うるせーよ。悪ぃかよ」

「あー……でも、オンナ連れて来てるって……」

「はぁ?」



  一瞬、自分の耳を疑った。



  ーーオンナ…………何で…………?



「お店のホームページ、見てみなよ」



  部屋の隅にあるパソコンまで移動し、ホームページへ繋いだ。
  この店は未成年が働いていて、完全に違法だ。
  だから、ダークウェブにホームページがある。
  更にパスワードを入れないと、見る事は出来ない。



「コイツがそう。“本日限りのデリヘルデビュー”とかいう、新人の奴」



  新人一覧の中でも、掲載画像が大きくてすごく目立っていた。店がイチオシしているのが、一目でわかる。



「なんで柊が……?オンナに風俗、やらせんだよ……」

「コイツ、県北じゃ有名な、ビッチなんだって。だから、柊さんブチギレて、お仕置きするみたい」

「へぇー……ビッチなんだ…………柊って……趣味、悪すぎ……」



  顔はモザイクがかかっていてわからないけど、不細工な奴だって思った。
  プロフィールでは高1ってなってるけど、小柄で子供みたいな体型からして、中坊にしか見えない。

  柊のオンナがまさか……
  チビでガリガリで、しかもビッチな中坊だなんて……



  ーーはぁ?……ふざけんなよ……なんで、こんな奴が…………



  腹の底から煮えたぎるマグマのような怒りが、沸々と湧き上がってきた。


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