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泊まりがけの同窓会とオレンジ色

恐ろしい

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「夕飯、ここで食べる?」と 美奈の声が聞こえてきた。

「おっ、いいね」と誰かが答えた。

  わたしは振り返った美奈の顔とそれからお店に視線を向けた。

  すると信じられない光景がそこにはあった。嘘でしょ……。そんなことがあるなんて信じられない。

  わたしは、びっくりして息が止まりそうになった。両足がわなわなと震えてあまりの恐怖で目をふさぎたくなった。

  だけど、恐ろしすぎて目を見開いてしまったのだ。

  だって、美奈が指差すその店は店先にオレンジ色の提灯が吊るされていたのだから。

  オレンジ色の提灯が風にゆらゆら揺れた。


  夕暮れ時、オレンジ色の提灯に明かりが灯る。本当なら幻想的で綺麗だなと思うはずだけど、今のわたしにとっては恐怖でしかないのだ。

「オレンジ色の提灯……」

  恐怖でわたしの唇はわなわなと震えた。

「亜沙美、どうしたんだ?」

「……オ、オレンジ色の提灯がゆらゆら揺れているよ」

「え?  なんだかレトロな雰囲気が漂っていて良さげな感じだよな」

  松木はそう言ってオレンジ色の提灯を見上げ、「あ、そう言えば亜沙美はオレンジ色の提灯が怖かったんだよな」と言った。

「……うん、怖くてどうしようもないよ。オレンジ色の提灯に追いかけられているみたいなんだもん」

  わたしは震えながら答える。

「おい、美奈、他の店にしないか?」

「えっ?  松木君どうして?  みんな賛成しているんだよ。この店嫌なの?」

  美奈は振り返り不思議そうに首を横に傾げた。

「嫌って言うか……亜沙美が」と松木が言ったところでわたしは松木の肩をぽんと叩き、「ここでもいいよ」とわたしは笑ってみせた。

  松木は、わたしの顔を見て「えっ?  でも亜沙美」と言った。

 わたしは笑顔を作り「大丈夫だよ」と小声で答える。

  そんなわたしをじっと見て松木は困ったように笑った。

「ねえ、松木君と亜沙美ちゃん、なんの話をしているのか分からないけど夕飯はこの店でいいの?」

  怖くて恐ろしくてたまらないけれど、ここでオレンジ色の提灯の話をするのも躊躇いを覚えたわたしは、「うん、いいよ」と答えた。

「じゃあ、決まりね。松木君もここでいいでしょ?」

「あ、ああ、いいよ……」

  松木はそう答えわたしの顔をちらりと見た。わたしは、うん、大丈夫だよと頷く。

  美奈は、「じゃあ、入ろ~」と言ってオレンジ色の提灯に明かりが灯る定食屋のドアを開けた。

  オレンジ色の提灯と美奈のツインテールが風にゆらゆらと揺れた。なんとも言えない綺麗だけど不気味でゾッとする絵に描いたような世界が広がっている。

  お店に入る美奈の後に続きみんなも中に入った。わたしは、映画でも観るかのようにみんなの姿をぼんやりと眺めた。

「亜沙美、大丈夫か?  じゃあ入るぞ」

「う、うん」

  わたしもゆっくりと店内に入った。
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