オレンジ色の世界に閉じ込められたわたしの笑顔と恐怖

オレンジ色の世界に閉じ込められたわたしは

来ないで！！

「み、美奈ちゃんどうして浴衣を着ているの？」

「浴衣？  何のことかな？  わたし浴衣なんて着ていないよ」

  美奈はわたしの目の前に立ち首を横に傾げた。

  他のみんなも浴衣姿でこちらに向かって歩いて来る。来ないでよ、そんな姿でこっちに来ないでよ。

「亜沙美ちゃんどうしたの？」とみんながほぼ同時発し首を横に傾げた。

「ど、どうして？  みんな浴衣姿なのよ！」

  なんて不気味で異様な光景なのだろうか？  そんな不思議そうな目でわたしを見ないでほしい。どうして首を傾げているの？  ねえ、どうしてなのかな。

  赤色のダリア柄の浴衣姿の多香子はわたしの顔をじっと見ている。艶やかな黒髪のロングストレートヘアが風に揺れた。

  佐和は真っ赤なアザミ柄の浴衣を着込み、まつ毛がくるっと上向きにカールされその大きな目は驚いたかのように大きく見開かれている。そんなに驚いた顔をしなくてもいいのになと思う。

  チューリップ柄の浴衣に身を包んだ真夜も眉間に皺を寄せている。きっと、亜沙美ちゃんの頭がおかしくなったとでも思っているのだろう。そんな顔だ。

  みんなそんな目でわたしのことを見ないでよ。

  久野君は、「亜沙美ちゃん、浴衣なんか着ていないぜ」と笑っているけれど、きっと、心の中で変な奴だと思っているはずだ。


「ねえ、亜沙美ちゃん浴衣って本当に大丈夫？」

  真由香がわたしの肩をぽんと叩いた。その真由香の顔は心配そうに眉間に皺を寄せている。そんな真由香もやはりポピー柄の浴衣姿なのだ。

  真由香も松木も浴衣が見えていない。

  みんながわたしのことを心配してくれている。それは嬉しいけれど、みんなには浴衣姿が見えていない。わたしだけが浴衣姿に見えるなんて不安で仕方がない。

「亜沙美ちゃん、疲れが溜まっているのかもね。コテージに帰ってゆっくりするといいよ」

  美奈がそう言って微笑みを浮かべた。

「……うん」

  わたしが返事をすると美奈が「では、コテージに帰ろう」と言って歩き出した。

「亜沙美ちゃん、行こうよ」と真由香がわたしの右肩をポンポンと叩き「亜沙美、行こうぜ」と松木がわたしの左肩をポンポンと叩いた。

「……うん、ありがとう」

  わたし達はコテージに向かって歩き出した。

  カランコロン、カランコロンとわたし達八人の下駄の音が鳴り美奈のツインテールが夜風にゆらゆらと揺れた。

  わたし達はどこに向かって歩いているのだろうか。カランコロン、カランコロンと下駄の音が星空の下で鳴り響いた。


  カランコロンと不気味で妖しげな音を鳴らし歩いたわたし達は緑が鬱蒼と生い茂る湖畔に佇むコテージに辿り着いた。

「着いたね～我が家に帰ってきたみたいに感じるよ」

  美奈がこちらに振り向き笑った。

「着いたぜ～明日は地元に帰ると思うとちょっと寂しいよな」

  久野君はそう言うけれど、わたしは早く明日になって町田に帰りたいと思った。こんな不気味なことが起きるコテージから早く逃げ出したい。

  帰りたい、帰りたい、早く家に帰りたい。そして、お母さんのほかほかのおでんが食べたいな。家がこんなにも大切な場所だと思ったことははじめてかもしれない。

  美奈がコテージのドアを開けた瞬間浴衣姿から洋服に戻った。

「……どうして！？」

  わたしは思わず呟いてしまった。

  今まで浴衣姿に見えていたのは幻想だったのだろうか。いや、そんなはずはない。だって、浴衣姿だけではなくカランコロンカランコロンと鳴り響く下駄の音も聴こえていたのだから。

  美奈はコテージの中に入り「やっぱり落ち着くね」と言った。

  わたしは全然落ち着かないよと思いながらコテージの中に入る。同窓会の仲間達が全員中に入りドアがバタンと閉まった。

  早くここから出ていきたい。