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お兄ちゃんとわたし

お兄ちゃん

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「史砂、お菓子食うか?」

「うん、食べる」

  お兄ちゃんは、ポテトチップスの袋を開けてじゃらじゃらとお皿に移した。

  飲み物はお兄ちゃんはコーラでわたしは、オレンジジュース。

「お兄ちゃん、ポテチ美味しいね」

  わたしが、ポテチをバリバリ食べながら言うと、お兄ちゃんは、

「お皿に映して食べると美味しさ倍増だろう」、お兄ちゃんはポテチをモグモグ頬張りながら言った。

「うん、そうだね」

  三歳違いのお兄ちゃんはわたしが妹だからか、とても優しかった。

  
  お父さんとお母さんは食堂の仕事で忙しくしているので、わたしとお兄ちゃんはいつも二人でお菓子を食べた。

  ポテトチップスやお母さんが用意してくれていたケーキやクッキーなど。

  お兄ちゃんは、男の子なのにポテトチップスなどのスナック菓子以外の甘いお菓子も好きだった。

  
「史砂、それがね……」

「それが?」

  お兄ちゃんが珍しく真面目な顔をしているのでなんだろと少し心配になった。

「見たんだよ。史砂と似た女の子を」

「わたしと似た女の子?」

「そうなんだよ、隣町の大型ショッピングセンターに行った時にね」

「え~ウソ~わたしみたいな可愛い女の子がそうそういるとは思えないんだけど」

  わたしは、冗談ぽく答えた。

 
「そうだよ、史砂みたいにお目目がくりんくりんでお顔が丸っこくて動物みたいに可愛い女の子は滅多にいないよ」

  そう言ってお兄ちゃんは、笑った。

「ちょっと、お兄ちゃんそれって褒め言葉なの?」

  なんだか違うような気もしてわたしは、頬をぷくりと膨らませた。

「褒め言葉だよ。また、ふぐみたいになってるぞー」

「あっ」

    わたしは、慌てて自分の頬を触りへこませた。

  
「史砂が可愛いかはさておき、その隣町のショッピングセンターで、そっくりな女の子を見たんだよ。一瞬史砂かなと思って声をかけようとしたんだけど髪型が違って……」

  お兄ちゃんは、そこまで話してコーラを一口飲んだ。

  その当時のわたしは、今もだけどおさげ髪にしていることが多かった。

「そんなにわたしに似ていたの?」

「うん、似ているなんてものじゃなくて史砂そのものみたいな女の子だったんだよ。だから声をかけようと思ったんだけど、髪型がおかっぱ頭だったから違うって気がついたんだよ」

  お兄ちゃんは、興奮した表情で言った。

 
  わたしと瓜二つの女の子がいるなんて会ってみたい気もするし、少し怖いなとも感じた。

  それに……。

「あのね、お兄ちゃん」

「なんだ史砂?」

「わたしもね、お兄ちゃんと似た人を見たことがあるよ。今、思い出した」

「え、それは本当なのか?」

  お兄ちゃんは、目を見開き興奮気味に言った。

  
「うん、本当だよ。わたしも隣町で見たよ」

「マジかよ……」

「うん、マジだよ」

   そう、わたしもお兄ちゃんに似た人を見たことをお兄ちゃんの話を聞いて思い出した。

  わたしは、お兄ちゃんにその時の出来事を話した。

  その日わたしは、隣町にゆかりと真由と一緒に出かけていた。

  その時はまだ小学生だったので、滅多に子供だけで隣町に行くこともなかったけれど、わたしの住む町には何もない。

  わたし達三人はマックに行きたくてお母さんにお金をもらってうきうきしながら出かけていた。

  
 「マック久しぶりだね」と三人で笑いながら何を食べようかなと列に並んでいた。

  たしか、わたしは、フレオフィッシュバーガーのセットにしたはず。

  ゆかりと真由はダブルチーズバーガーのセットだったかな。

   それで、そのフレオフィッシュバーガーのセットを席に運ぼうとしたその時、わたしも見た。

  そう、見たんだ。お兄ちゃんにそっくりな男の子を。

  
  その男の子は自動ドアから入ってきた。

  お兄ちゃんとそっくりな少し長めの前髪、そしてよく似た切れ長な目が本当にそっくりだった。

 わたしは、あまりにもびっくりして言葉が出なかった。

  だって、髪型や目もそうだけど身長や体型もそっくりでやせ型の男の子だったのだから。

「史砂、何してんの?」

  ゆかりに声を掛けられ、一瞬目を離しているうちに、その男の子は後ろ姿になっていて、どうやら何も注文しないで帰ってしまうようだった。

  
  気になって後を追いかけたくなったけれど、真由も「早く~史砂~」と言うものだから、「はーい、今、行く」と返事をしてら席に向かった。

  マックで食事をして、ゆかりや史砂と学校の話しなどをしているうちに、すっかりお兄ちゃんのそっくりさんのことは忘れていた。

  ー―
  わたしが話しているのをお兄ちゃんは、時々ポテチを食べながらうんうんと頷きながら聞いていた。

「お兄ちゃん、不思議だよね……。わたしもお兄ちゃんもお互いのそっくりさんを見ていたなんて」

「だよな、史砂の話を聞いて俺も本当にびっくりしたよ」

  その時お兄ちゃんは、首を横に傾げながらいろいろ考えていたみたいだった。

   お兄ちゃんは何を考えていたのかな?

  今となっては分からないけれど、わたしとお兄ちゃんは、お互いのそっくりさんを見たということは確かなことだ。

  何故か、今あの時お兄ちゃんと話したことを思い出した。

  
  わたしの周りで何かが起こっているのかもしれない。

  だって、まずカラスが話をすることも絶対に変だ。それから、カラスのお弁当、気がついたらあの展望台に倒れていたことも……。

  それに、白い人影。

   一体どういうことだろうか。

   元気に明るく前を向いて歩こうと思うけれど、やっぱり……。

   そう簡単にはいかないよ。

   わたしは、やっぱり弱いのかな。強くなりたいよ、お兄ちゃん。わたし強くなりたいんだよ。わたしの心は叫んでいる。
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