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カラスを退治したい
お兄ちゃんの遺影
しおりを挟むお母さんから大福を受け取り仏壇に持って行く。仏壇の近くに置いてある穏やかな表情のお兄ちゃんの遺影を眺め、
「お兄ちゃんの大好きな大福だよ」と言ってわたしは、お鈴を鈴棒でチーンと鳴らした。
それから目を閉じ手を合わせる。
そして、じゃあねと言って立ち上がり居間に行こうとしたその時、妙な違和感があり振り返ると、遺影の中のお兄ちゃんが哀しそうな表情をしているではないか。
こんな表情ではなかった。穏やかな表情のお兄ちゃんだったはずなのに。
遺影の中のお兄ちゃんの表情が変わるなんて……。
そんな馬鹿な!!
そんなことがあっていいの?
ゾクゾクゾクと身体中に悪寒が走った。
震えが止まらない。そっと、お兄ちゃんの遺影をもう一度みる。
やっぱり、遺影の中のお兄ちゃんは……。
哀しそうな表情をしている。
何故、どういうこと? なんだか怖い。
怖いけれど目を離すことも出来ない。
わたしは、お兄ちゃんの遺影を見つめる。
遺影の中のお兄ちゃんは、そう、お兄ちゃんは、哀しそうな顔をグニャリと歪めた。
わたしは、怖くなり見ていられなくなって踵を返す。
わたしは、居間の襖を開けて、「お兄ちゃんの遺影が変だよ」と お母さんに言った。
お母さんは、「変なことを言う子ね」
そう言いながら仏壇が置いてある和室に入る。
そして、遺影の額を手に取り、「史砂、お兄ちゃんは穏やかな表情をしているわよ」と言った。
「え、でも……」
「ほら、見てごらんなさい」
お母さんはそう言ってわたしに遺影を見せる。
わたしは怖くなり目を瞑る。
「ちょっと史砂、見てごらんなさい。何も変じゃないから」
わたしは、恐る恐る目を開けた。
見たくないけど、おもいきって見るとお母さんの言うようにお兄ちゃんは穏やかな表情だった。
幸せそうなお兄ちゃんの顔、良かったなと思うのと同時に、さっきは本当に間違いなくお兄ちゃんは、哀しそうな表情をしていたのだから。
だけど……。
「本当だね……」
とわたしは、腑に落ちないけれど答えた。
「さあ、大福食べましょう」
とお母さんは、言ってさっさと行ってしまった。わたしは一人取り残された。
やっぱり気になり、わたしはもう一度振り返り遺影を見るけれど、お兄ちゃんは穏やかな表情をしていた。
見間違いだったのかな……。
そんなはずはないと思うけれど、見間違いにしておいた方が気が楽なので、見間違い見間違いと呟きわたしは、大福を食べに居間に行った。
その日食べた大福はお兄ちゃんの表情が気になり味が感じられなかった。
わたしは、夢を見た。暗い暗い道を一人で歩いていた。何処に自分は行こうとしているんだろうか?
ただ暗い闇の中をひたすら歩いていた。
そのうちあまりにも暗闇が続くので怖くなってきた。
怖くて恐ろしくて仕方なくなってきた。闇の中に吸い込まれてしまいそうだ。
誰か助けて。
と、その時。
「史砂」と、わたしを呼ぶ声がした。
この声は、わたしのよく知っている、そうお兄ちゃんの声だった。
「お、お兄ちゃん何処にいるの?」
暗闇の中わたしは、大きな声を出した。
すぐに返事が聞こえてこないので、もう一度、「お兄ちゃん何処にいるの?」と、声を出した。
「史砂、ここだよ、お兄ちゃんは、ここにいるよ」
この声はお兄ちゃんの優しい声だった。
「お兄ちゃん~」
そして優しくて包み込んでくれるような声から一転して、海の底に沈んでそこから這い上がれなくなってしまったような低くて苦しい声に変わった。
「史砂……」
お兄ちゃんの声であることは間違いなさそうけど……。
お兄ちゃん、どうしたんだろうか?
「お兄ちゃん?」
わたしが、尋ねると、お兄ちゃんは、
「史砂、カラスに負けるな!」と、言った。
「え、カラスに負けるな……。カラスのことを知っているの?」
わたしは、そう聞いたけれど、お兄ちゃんの返事はなかった。
そして、暗闇からキラキラ輝く世界へと変わった。
金色に輝きキラキラキラキラ輝いている。綺麗に輝く魅力的な世界がそこにあった。
お兄ちゃんの姿は何処にも見当たらなかった。
気がつくと、雀がチュンチュン鳴いていた。
朝だ。朝の光りが眩しい。
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