186 / 198
ムササビカフェ食堂で今日も
今この瞬間を大切に
しおりを挟むおばあちゃんが帰ったあとの店内は少し寂しくなった。
「真朝さんは帰られましたね」
「はい、ちょっと寂しいけど、また今度があるって嬉しいな。ただ、それと同時に今この瞬間も大切にしたいな~って思います」
わたしはおばあちゃんが帰って行った扉をじっと見つめながら言った。
「そうですね。俺達は今を大切に生きていかなくてはですね。そうすると良き人生を歩んでいけますね」
高尾さんも扉を見つめたまま柔らかいけれど、力強くもある声で言った。
「人間て大変だね。あやかしにもいろいろあるけどね」
「つくも神のぬいぐるみもいろいろあるにゃん」
ムササビとミケも扉をじっと眺めていた。
真昼ひいおばあちゃんもきっと、幸せな人生を送ったはずだ。そして、今、大阪に帰ったおばあちゃんの人生はこの先もまだ続く。そして、わたし自身もだ。
「さて、真歌さんお仕事頑張ってくださいよ」
高男さんが扉からわたしに視線を移しニヤリと笑った。
「は、はい。頑張りますよ」
なんだか高男さんのその表情が妖しげでドキッとする。スパルタはやめてくださいね。
「ミケちゃんも頑張るんだぞ」
高男さんはわたしからミケに視線を移しじっと見ている。
「にゃはは。はい、にゃん。わたし今を大切にしてお料理を美味しくいただきま~すにゃん」
ミケは得意げに胸を張る。
「おいおい、ミケちゃんそれはなんか違うよな……」
「え? そっかにゃん」
「ミケちゃんとわたしはお料理の味見係なんだよね」
「おいおい、何故にムササビも味見係になるんだよ」
高男さんは呆れた声を出す。
「にゃはは、わたしは味見係だにゃ~ん。ねっ、ムササビちゃん」
「うん。ミケちゃ~ん」
ミケとムササビはキャハハと笑い合っている。
「わたしも味見係になろうかな」
「はぁ? 真歌さんまで味見係になってどうするんですか」
高男さんはそれはもう深い深い溜め息をついた。
「えへへ、だって味見係が一番楽しそうなんですもん」
「呆れてものも言えないですよ。さて、今日もお客さんがたくさん来るといいですね」
「高男さんとムササビちゃんのカフェ食堂は賑わうことってあまりないんじゃないですか」
「おっと、それは失礼な……」
「多数のお客さんよりムササビカフェ食堂はお客さんの質ってことですよ」
「う~ん、人数より質と言ってもね……。お客さんが少ないと売り上げにも影響しますからね。そうすると、真歌さんのお給料にも影響するな……」
高男さんはそう言ってふふっと笑った。
「え! そ、それは困りますよ~」
「あはは、だったらお客さんがたくさん来てくれるカフェ食堂にしなきゃですね」
「そのお客さんは訳ありな人やあやかしなんでしょう?」
「さあ、それはどうでしょうね」
高男さんは可笑しそうにクククッと肩を震わせて笑っているんだから困ったものだ。
「もう高男さんってなんか意地悪ですよね」
わたしはほっぺたをぷくっと膨らませる。
「真歌さんのことを考えて言っているんですよ」
それは絶対ウソだよ。わたしのことをからかって喜んでいるように見えるんですけど。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』
チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。
家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!?
主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜
Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか?
(長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)
地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。
小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。
辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。
「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる