【完結】公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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~9. 暗闇と光~

全てを失った日

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それは今から十五年も前のこと。弟のクラウスが生まれたその日、自分は十歳だった。

地平線に陽が昇る間際、クラウスは生まれた。太陽の光とともに生を受けた新しい王子に、レリック公国全体が、歓喜していた。

クラウスは長い間待ち望んだ正妃の子。祝福を受けるべく生まれてきた王子だった。

数時間おきに窓の外で鳴るファンファーレ。今日を境に、自分は第一王子ではなくなったのだと、理解していた。

物心がついた頃から、王となるために自身に施されてきた教育。厳しく辛いものにも歯を食いしばって耐えてきた。でも、側妃である母の子である自分は、弟が生まれない時のための保険だった。

「大丈夫よ、サイラス」

ぼーっと窓の外を眺める僕を、優しい声が背後から抱き締めた。

「第二王子になっても何も変わらないわ。あなたはわたくしの自慢の息子」
「ですが、母上…」
「貴方には貴方にしかできない役割がちゃんとあるから」

そう言った母の腕が、力強く僕を抱き締めた。自分にしかできない役割、それが何かはわからなかったが、母のその言葉はストンと胸に響いた。

優しく美しい母のことを、尊敬し、愛していた。その息子として、これからも誇れる生き方をするのだと、心に誓った。



穏やかな時が流れていた。第一王子としてのプレッシャーから解放され、それは少し寂しくもあったが、まだ幼い弟は可愛かったし、兄として傍で支えるのだという使命感も芽生えていた。

事態が大きく変わったのはクラウスが一歳の誕生日を迎えた次の日。月のない静かな夜だった。

「んん…」

焦げ臭いにおいがして真夜中に目が覚めた。ベッドから身体を起こした瞬間、窓の外にオレンジ色の炎が見えた。

「な…っ!?」

慌ててベッドから降り、部屋の扉へと走った。廊下に出ると、そこはひどい煙だった。母の部屋へと続く廊下は、すでに火の海だった。

「は、母上…っ!」

そう叫んだ喉が焼けるように熱かった。すぐに黒煙に包まれ、その場にしゃがみ込む。必死で母の部屋の方向へ床を這って進んだ。だけど、ただ無力に、意識が薄らいでいった。

そして、あの夜、僕はすべてを失った。
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