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~6. 公国の戦略~
協力の打診
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「この件については、貴女にも協力を頼みたいと思っている」
「え…?」
サイラス殿下の言葉に驚く。
「私…ですか…?」
「あぁ。貴女はセントレア帝国の事情にも詳しいだろう?」
確かに、セントレア帝国で生まれ育ち、つい最近まであの国にいた私以上にあの国に詳しい者はいないだろう。だけど、私は女性で、しかも、この国では何の実績もない。
いや、実績どころか信用すらないかもしれない。元々、アーサー皇子からの婚約破棄を受けたいわく付き。しかも、その直後に、セントレア帝国から押し付けられるような形でサイラス殿下の元へ嫁いで来たのだから。
そんな私が、このような重要な国の戦略に関わるなど、他の者への反発を生んだりはしないのだろうか…
「躊躇っているように見えるが、何か懸念でも?」
「その…、私は女性ですし…、この国に来たばかりの何も知らぬ私が、関わっても良いのかと…」
そう言った私に殿下がふわっと微笑んだ。
「心配しなくていい。先ほど僕が試すような聞き方をしたのは貴女も気付いていただろう?」
そう言われて、やはりあれは私を試していたのだと認識する。
「あの回答で、改めて、貴女の知識や洞察力の深さは確認できた。申し分ないと思っている。それに…」
「……?」
「この分厚い本を興味津々で読破する女性など、僕は貴女以外に知らない」
「─…っ!」
殿下が『北方諸国産固有麦の品種改良と栽培法の遷移』へ視線を向けながらそう言う。なぜ興味津々で読破したことを知っているのだろう…? 一瞬そう思ったが、それはこの本を殿下の部屋から私の元へと持ってきたルバートが伝えたに違いなかった。
「僕は、貴女もこの件には興味があるのではないかと思っているのだが」
心を見透かすように、殿下が私にそう言った。
殿下の言う通り、先ほどから興味心が疼いている。レリック公国が持つ品種改良の技術をより深く知りたいし、これから築いていく交易網や商業的な取引きについても関心がある。
セントレア帝国にいた間、私は妃教育だけでなく、本来、アーサー皇子に必要な帝王学の分野まで学んでいた。最初は、帝王学に身の入らない彼を支えるためだった。だけど、学んでいくうちに、それは妃教育よりも自身の関心に合うものだと気付いた。
だけど、それはこの国に嫁いだ時点で、もはや不要なものだった。サイラス殿下はアーサー皇子のように怠惰な性格ではないし、私が出しゃばる必要はない。国の戦略などには口を出さず、淑やかな妃でいるべきだと思っていた。
だけど、不要になったはずの私の能力を、殿下が今、買ってくれている。光栄なことだ。私が役立てるのであれば、力になりたいと思う。断る理由はない。
「私で良いのなら、力になりますわ」
そう答えた私に、殿下が嬉しそうに微笑んだ。
「え…?」
サイラス殿下の言葉に驚く。
「私…ですか…?」
「あぁ。貴女はセントレア帝国の事情にも詳しいだろう?」
確かに、セントレア帝国で生まれ育ち、つい最近まであの国にいた私以上にあの国に詳しい者はいないだろう。だけど、私は女性で、しかも、この国では何の実績もない。
いや、実績どころか信用すらないかもしれない。元々、アーサー皇子からの婚約破棄を受けたいわく付き。しかも、その直後に、セントレア帝国から押し付けられるような形でサイラス殿下の元へ嫁いで来たのだから。
そんな私が、このような重要な国の戦略に関わるなど、他の者への反発を生んだりはしないのだろうか…
「躊躇っているように見えるが、何か懸念でも?」
「その…、私は女性ですし…、この国に来たばかりの何も知らぬ私が、関わっても良いのかと…」
そう言った私に殿下がふわっと微笑んだ。
「心配しなくていい。先ほど僕が試すような聞き方をしたのは貴女も気付いていただろう?」
そう言われて、やはりあれは私を試していたのだと認識する。
「あの回答で、改めて、貴女の知識や洞察力の深さは確認できた。申し分ないと思っている。それに…」
「……?」
「この分厚い本を興味津々で読破する女性など、僕は貴女以外に知らない」
「─…っ!」
殿下が『北方諸国産固有麦の品種改良と栽培法の遷移』へ視線を向けながらそう言う。なぜ興味津々で読破したことを知っているのだろう…? 一瞬そう思ったが、それはこの本を殿下の部屋から私の元へと持ってきたルバートが伝えたに違いなかった。
「僕は、貴女もこの件には興味があるのではないかと思っているのだが」
心を見透かすように、殿下が私にそう言った。
殿下の言う通り、先ほどから興味心が疼いている。レリック公国が持つ品種改良の技術をより深く知りたいし、これから築いていく交易網や商業的な取引きについても関心がある。
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だけど、不要になったはずの私の能力を、殿下が今、買ってくれている。光栄なことだ。私が役立てるのであれば、力になりたいと思う。断る理由はない。
「私で良いのなら、力になりますわ」
そう答えた私に、殿下が嬉しそうに微笑んだ。
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