【完結】公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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~9. 暗闇と光~

アレクの正体

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「受かったか?」

翌日の夕方、帝都の城門前で試験が終わるのを待っていたアレクは、僕を見つけるなり、笑ってそう聞いた。

「受かったけど…」

いつもと違うアレクの恰好に戸惑う。飾り羽根の付いた帽子、金糸の刺繍が施された上質な布地の上着、汚れ一つない黒皮のブーツ…

「ただの商人だって言ってたクセに、何その格好…」
「似合うだろう?」

自慢げにそう言うアレクに、力なく笑う。確かに似合っている。着慣れていると言うべきか。今の貴族の姿こそが、本来のアレクなのだと理解する。

「もう気軽にアレクなんて呼べないね、"クレディア公爵"」

少しだけ嫌味を込めてそう言うと、アレクが面白くなさそうに眉間にシワを寄せた。

「その呼び方はやめろ。俺は、お前が無邪気に "アレク!" って呼ぶのが好きなんだ」

それは初耳だ。というか、今の声は僕を真似たのだろうか。全然似てないし、なんならちょっと気持ち悪い。

「…どうせアレクも偽名でしょ?」
「いや、本名はアイザックだから、アレクは通称だな」
「……」
「まぁ、この格好の時の俺をアレクと呼ぶ奴は、ほとんどいないがな」

そう言って、アレクが笑う。アイザック・フォン・クレディア公爵。帝国で一番高い爵位を持つ彼を、気軽にアレクと呼べる人なんて、確かに滅多にいないだろう。

「まぁ、そんな話は今はどうでもいいんだ」
「…?」
「おめでとう、サイラス。受かって良かった」

僕を見てそう言うと、そのままアレクが肩を抱く。その嬉しそうな笑顔は、今まで接してきたアレクと何も変わりはなかった。



馬車に乗り、着いた場所は帝都にあるクレディア公爵家の屋敷だった。あの町にあった屋敷とは比べ物にならないほど広く豪華で、アレクの帰りをズラッと並んだ使用人が迎えていたのには驚いた。

「ホントに、貴族なんだね…」
「驚いたか?」

そう笑いながら、アレクが応接間に通してくれる。正直、驚いたなんてものじゃない。聞きたいことが、山ほどある。それこそ何から聞けばいいのか、分からないぐらいに。

「騎士見習いはいつから始まるか、言ってたか?」
「あ、うん。3日後にまた城門前に来るように言われたよ」

試験の後、合格者だけ集められ、説明を受けた。3日後から寄宿舎に入り、騎士見習いとして最初の訓練が始まるそうだ。その間、半年ほどの期間は城から出られないらしい。

つまり、この3日間を逃すと、当分アレクとは会えない。当然、話も聞けない。騎士見習いになる以上、昨日まで過ごしていたあの屋敷の日々にも、もう戻ることはないのかもしれない。

知りたい。アレクは何者なのか。なぜ、他国の王子である僕を受け入れるに至ったのか。騎士見習いの先にある僕の未来に、アレクは何を見据えているのか。

「…アレクのことを知りたい」
「そうだな。じゃあ、メシにしながら、約束の話をしようか」

そう言って、アレクが微笑んだ。
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