【完結】公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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~9. 暗闇と光~

クレディア公爵

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「もうわかっていると思うが、ここはクレディア公爵家の屋敷で、俺はこの家の当主だ」

来客用の豪華な喫食室に通してくれたアレクは、席に着くなり、落ち着いた口調でそう話し始めた。

「クレディア公爵家8代目当主、アイザック・フォン・クレディア。それが、俺の本当の姿だ」

クレディア公爵家───それは、セントレア帝国で最も高い爵位を持つ貴族。帝都にこれだけ広大な敷地の屋敷を構え、使用人たちのアレクへの態度を見ても、それはもう疑う余地はない。

帝国王家に次ぐ地位の貴族となれば、僕の頭の中にもその名は知識として刻まれている。その存在と、目の前のアレクが少しずつ重なっていく。

古くから国の外交や貿易で重要な役割を担ってきたというクレディア公爵家。頭脳明晰で交渉力や商才に優れた者が多く、王家の右腕として、帝国の発展に尽力してきたと聞く。

帝国の外れのあの町で、僕へ施された異様に高い水準の教育。アレク自身が持つ深い知識や視野の広さ。それは、彼がクレディア公爵であったがゆえのことだったのだと、納得する。

「剣の腕は、どこで?」
「あぁ。元々、俺は次男でな。若い頃は騎士をしていたんだが、兄が亡くなって家を継いだ」
「……」
「お前が今日試験を受けた帝国軍の騎士団は、言わば俺の古巣だな」
「え…?」
「辞める寸前まで、俺は第二騎士隊の隊長をしていた」
「─…っ!」

…強いわけだ。精鋭揃いの帝国軍の騎士団に、アレク自身も所属していたのか。しかも、騎士隊の隊長ということは、かなりの腕前なはずだ。異色の経歴を持つ公爵家当主。それは、文武の両方に優れたアレクの能力の高さを裏付けていた。

「身分を偽り帝国の騎士団に所属することに戸惑いはあるだろうが、あそこなら俺の顔が利く」
「⋯…」
「勿論、お前を帝国の騎士にしたい訳じゃない。だが、騎士に相当する能力は、お前が自分の国に帰るためには必要だと思う」

僕を真っ直ぐ見てアレクがそう言う。その瞳を見て、僕は思わず尋ねた。

「なぜアレクは、レリック公国の王子である僕をあの屋敷に受け入れ、今もそこまで真剣に僕のことを考えてくれるの⋯?」

それは、この国に来てからずっと、不思議に思っていたことだった。
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