【完結】雷の夜に

緑野 蜜柑

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仕事の後、二人で軽く食事をして、そのまま檜山をうちに連れ帰る。

昼間、キスをしたのは逆効果だった。触れた唇の余韻と、この後の行為への期待で、あの後はもう仕事にならなかった。(ちなみに、課長に頼まれた書類は、無事に見つかった)。

「檜山…」

「んん…っ!」

玄関の扉を締めると、そのまま檜山の唇を奪う。靴も脱がずに壁際に押し付けて、口をこじ開けて深く舌を絡める。

「ん…っ、村瀬、待…っ、んん…!」

甘い匂いに酔うように、欲を剥き出しに檜山を求める。抱き締めた腕の中で、檜山の心臓の音がドキドキと大きく鳴っている。

このまま止まってやれないかもしれない。そう思った瞬間、檜山の指先が少し震えながら、それでも受け入れるようにギュウっと俺のシャツを掴むのに気付いて、俺は自制して身体を離した。

「ごめん、がっついて。シャワー先に使っていいから」

「う、うん…。おじゃま、します…」

赤い顔をした檜山がヒールを脱いで、家に上がる。慌てる必要はない。もう気持ちは確認し合ったのだから。

どうしようもなく沸き上がる欲はある。だからこそ、それに溺れないように、大切に檜山を抱きたい。



シャワーを済ませ、寝室で二人きりになる。電気を消すと、間接灯のほのかなオレンジ色の光が檜山を照らす。

あの夜と違って、すごく静かだ。布ずれの音も僅かな吐息も、すべてが耳に残る。その中で、檜山の瞳が不安気に俺を見つめている。

「緊張してる…?」

「う、うん…、少し…」

「2回目なのに、今日の方が緊張してるように見えるんだけど」

「あ、あの日は、勢いというか…、雷も怖くて混乱してたし…。それに、今の方が、村瀬のこと…」

そう言った檜山に微笑む。

「今日は雷鳴ってないけど、抱いていいの?」

「あ、当たり前でしょ…。好き、なんだから…」

俺を見てそう答えた檜山に、先ほどとは違う優しい触れるだけのキスをする。唇だけでなく、髪や頬にも口づけて、檜山の緊張をゆっくり解していく。

「な、なんか、村瀬…、さっきと違う…」

「大事に抱こうと思って」

「そ、そう…」

檜山が安堵したように微笑む。その表情に「可愛いな、クソ…」と思いながら、猛りそうな自身の熱を抑える。

「ん─…っ」

頬を包んで唇を重ね、少しだけ深くする。愛しい気持ちを流し込むみたいに丁寧に舌を絡めていく。

「好きだよ、檜山…」

「ふ…、ハァ…、うん…っ」

少しずつ檜山の息が上がっていく。ブカブカのスウェットの裾を捲り、肌に直接触れる。俺の指にビクンと反応した檜山の身体。腰のラインを撫でながら、恐怖や嫌悪ではなく、性的な反応であることを確認しつつ、少しずつ触れる位置を上げていく。

「ひ、あ…っ」

胸の膨らみを優しく包むと、檜山から甘い声が漏れた。

「や…っ、んん…」

雷の音に怯えていたあの夜とは違う。今日の檜山は俺が与える愛撫にだけ反応して、身体を捩らせ、吐息を漏らす。

何にも邪魔されずに、檜山を独り占めしているのが嬉しかった。
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