巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷

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本編

06、案外平和なお城

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 いい感じに柔らかい日射しの午前中。昼を過ぎると日射しが強いし、かといって夕方は体が冷える可能性がある。
 というわけで、午前中ならピッタリでしょ!と半分以上勢いでルーファス王弟殿下を中庭へ連れ出した俺とラナさん。
 今まで建物の中から出なかった俺と、同じく書庫に籠っていたルーファスさんが一緒に中庭を歩けば勿論注目されてしまうわけで。

 途中で気づいたが、いくら城の中庭と言えど、王弟殿下が護衛もつけずに歩くのはいけなかったかもしれない。
 ラナさんが普通に賛同してたから連れ出してしまったが…まぁ、ルーファスさん魔法強いし、俺も多分ある程度戦えるし、大丈夫と判断したのかもしれない。

 いくら喋れるようになっても、元々引きこもりでコミュ障な俺が気の聞いた会話なんざ出来るわけもなく。
 オマケに何も考えずに出てきたものだがら、周りの視線がとても怖い。やめて、穴が空く。
 そんな俺の心情を察しているのか、ラナさんは共犯なのでともかく、突然連れ出されたルーファスさんですら気を遣って話題を振ってくれる。ごめんなさい。
 俺はそれに頷きで返すのが精一杯である。本っ当にごめんなさい。
 いくらか笑えているのが唯一の救いかもしれない。

 勿論、そんな俺が周りで何を言われているかなんて気づきやしなかったし、それどころじゃなかった。

「見て、あんなに落ち込んでいた子がぎこちなくも笑っているわ…!」
「良かった…どうやら気分はいくらか晴れたらしい。でも、まだ喋れないのかな?」
「王弟殿下もあんなに楽しそう…まるで素敵な家族のようね」
「なぁ、ラナさんと王弟殿下はいつになったら結婚するんだ?全く式の話を聞かないが」
「何いってんだ。いまだに王弟殿下の片想いだぞ?婚約すらしてない」
「嘘だろ!?あれで!?」
「あれは、召喚人様がいるから成り立っているのよ。ラナったら、本当にそう言うところは鈍いんだから」
「ところで、あの召喚人様の名前って何て言うんだ?俺、全く知らないんだけど」
「確か、リンドウ様っていうらしいわ。筆談でラナさんにだけ教えたんですって!」
「『貴女にだけ、僕の名前を教えたいんだ』…なんて!いくら年下でも、そんなこと言われたら恋に落ちちゃうわぁ!」
「リンラナ…ショタおね……ありね!!」
「おい、王弟殿下はどうなるんだよ」
「…私は、リンドウ様をラナさんと王弟殿下で取り合うに一票…」
「なにそれ尊い…私もそれに一票」
「いや、俺はラナさんと王弟殿下が結婚してリンドウ様が息子になった一家団欒に一票」
「私も一票!!」
「俺も!!」

 という、まるでオタクの推しカプ布教のような会話なんて俺は勿論、ラナさんやルーファスさんの耳にも入らないのであった。
 もし万が一、俺がこの会話や似たような会話を聞いたとしよう。その時に思うことはきっと一つだけだ。

 この国、めっちゃ平和──…


 中庭を突っ切り、俺たちは騎士の訓練所に到着していた。
 意外にもルーファスさんは息切れもなく、けろっと歩いている。俺も流石にこの程度の散歩で息切れはしないし、書庫通いが項をなしたのか足の痛みもない。
 靴擦れもしてなかった。よかった。

 訓練所では国の騎士団や近衛兵達が沢山訓練をしていた。もう少しで休憩に入るだろうというので、それまで見学することにする。
 いいなー、片手剣。スキル一応持ってんだよなー。運動は嫌いだけど、こういうのはゲームの時の感覚を引っ張り出せばめっちゃ楽しそうなんだよなー。やりてー。
 そんなことを考えていれば、ラナさんとルーファスさんが突然笑いだした。

「ふふっ…リンドウ、顔に出ていますよ?片手剣を使ってみたい、と」
「リンドウ様、ここの責任者を呼んできましょうか?きっと訓練に入れてくださいますよ?」
「…ぇ、いや、いいよ…邪魔しちゃ悪いし」
「そんなことありませんよ。呼んできましょう」

 止める暇もなく、ラナさんはおそらくその責任者とやらがいるのであろう建物へと行ってしまった。
 しょうがないね、とルーファスさんと二人でラナさんを待つ。
 と、急に俺の周りが暗くなった。雲でも出てきたのかと思い、上を見上げて見れば…

 鋭い赤い瞳と目が合った。

 叫ばなかった俺をどうか褒めてほしい。代わりに喉がヒュッとなってしまい少々苦しいが、みっともなく叫ぶよりはましだろう。
 マジでびっくりした。え、誰?突然人の頭上に現れないで??心臓止まるかと思った。
 突然のことで声が出ない俺を見下ろした赤い目は、そのままルーファスさんへと移動する。
 蛇に睨まれた蛙とはこの事だろうか。赤い目の視線が俺から外れて、やっとまともに息ができた気がした。

「なんだ、コイツまだ喋られないのか。なぁ、ルーファス。珍しいな?貴様が書庫から出てくるなんて」
「あぁ、可愛い妖精さんに連れ出されてしまってね。せっかくだから訓練所を見学させてもらいに来たんだ」
「ふん。病人は大人しく部屋に籠っていれば良いものを。倒れたところで、自業自得なのだからな?書庫の亡霊なぞ、誰も助けまい」
「ははは、そうだね。気をつけるよ」

 随分と口の悪い人だ。ルーファスさんを悪く言っている…ように聞こえるのだが、なんだろう。ちょっと違和感がある。
 どうやらルーファスさんとは仲がいいのか、笑って許している。うーん…大丈夫なのか?

「リンドウ。こちらフロンギルス王国騎士団の副団長、ジークレイン・アッシュロード。口は悪いが、根はいい子なんだ。ラナの従兄だよ」

 えっ!ラナさんの!?似てない!!
 ラナさんは焦げ茶色のストレートで、目は綺麗な緑色。対してこのジークさんとやらは、赤茶の髪に真っ赤な目。あ、でも目元がキリッとしたラナさんに似てるかも。そっか、従兄かぁー…
 じゃあ良い人なのかな?王弟であるルーファスさんを凄い馬鹿にしてた気もするけど。

「ちなみに、さっきの言葉は『お前は病弱なのだから、部屋で安静にするべきだ。ここで倒れたら、助けるのが遅れるかもしれない。気を付けろ』って意味だよ」
「違う、馬鹿め。よくもまぁそんな解釈が出来るな?」
「今のは『その通りだが、何も解説する必要ないだろう』」
「おい、いい加減にしろよ貴様!!」
「『恥ずかしいだろ、止めろよ!』」
「貴様ァ!!!」
「はっはっはっは」

 凄い、めっちゃ手玉に取ってる。只でさえ顔回り赤色なのに、照れてるのか真っ赤な騎士さん。なんか可愛いな、この人。
 ついつい笑ってしまえば、物凄い形相で睨まれる。ビックリしてルーファスさんの陰に隠れた瞬間、騎士さんが横からぶっ飛んだ。

 うわぁお、お帰りラナさん。めっちゃ強いのね、貴女。


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