暗闇の灯~Another Story~

兎都ひなた

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#02

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頭の中を整理しようと思った。
まず、神無月は虐められているらしい。今日になって、初めて知った事実。ずっと見ててなんでわからなかったんだ...。自分のクラスで虐めが行われていたことに、憎悪を感じた。正義感、なんて綺麗なものではなく、ただそれを見て見ぬふりする人間の多さ、ましてや気付いていなかった自分に対してなんとも言い難い気持ち悪さを感じた。
いつから...?考えられるのは、去年の夏休み前。神無月が下を向いて歩いているだけではなくなった。いい変化だと、自分では思っていたが...もしかしたら虐めの首謀者、篠原の命令で動いていただけかもしれない。
考えれば考えるほど、考えは嫌なものへと引きずられていった。なにか、助けらんないかなー...。とは思うが、思いつかない。
ベッドに体を放り出し、枕に顔を沈めながら、自分の無力さに苛立った。カツン...という小さな音に顔を上げる。横になった際に、ポケットから携帯が滑り落ちたらしい。
亮にメールしてみよ...。ベッドから起き上がることはなく、その姿勢のままメールを打ち始める。
『おつかれ。そういえば亮は神無月に対する虐め、いつから知ってた?』
送信ボタンを押して、仰向けになる。文面を思い出し、話したことも無い彼女のことをどんだけ気になってんだよ、と照れくさく感じた。
すぐに通知音が鳴り、返信が返ってくる。亮の素早い返信に感謝しつつ、急いでメールを開く。
『俺が知ったのは、去年の秋。文化祭の時に篠原に命令されてんの、見ちまったんだよ。んで、その時周りにいた女子たちから事情聞いたの。』
『篠原の取り巻きが、神無月の机にメモ入れてるのは知ってる?』
『ああ、メール代わりのメモだろ?神無月、携帯持ってないんだってよ。』
...なるほど。あのメモにはそんな意味があったのか。にしても、そうまでして呼び出すなんて...マメなのか、暇なのか。
『教えてくれてありがとう。』と、亮へ送り、携帯を閉じる。明日、動いてみよう。知ってしまった以上、放っておけない。
次の日の昼休み、神無月は相変わらずの早さで、教室を出ていった。
「ほら、先に飲み物買ってから、呼び出されたとこ行って、それから購買行くんだって。」
亮が咲夜の元へ来て、耳打ちをする。こいつはなんでこんなに詳しいのか...。「ありがとう。」と小声で返し、咲夜も教室を出る。購買へ向かい、いつものようにパンを買う。いつもと同じフリをして、いつもより多めに買い込む。篠原と、取り巻きで多分...5人?あとは、神無月の分かな。
正直、何故自分でもここまでしようと思ったのか、不思議でならない。でも、虐めとはいえ、毎日他人のために走っている神無月を見ていたから、助けたくなった。行動理由はただそれだけだろう。
購買近くの自販機横で待っていると、神無月が息を切らせて走ってきた。咲夜には気が付かず、前を横切る。しかしすぐに、購買の人だかりに怖気ずいたように後退りをする。列を探しているようにも見えるが...生憎、今日来ている生徒は我先にと前に詰めているため、販売列が出来ていない。
その人だかりの後ろを、うろうろと歩く神無月に声をかけようとするが、言葉を考えていなかった自分の浅はかさ故に、呼び止める一言が出てこなかった。気付いたら持っていたメロンパンを投げていた...。
「神無月それやるよ。俺、買いすぎちゃってさ。」
突然投げてしまい、やばいと思い、咄嗟に口が動いた。薄っぺらい、嘘のような言葉に、神無月は顔を上げる。
「あっ……」
...あれ?もしかして気付かれてもなかったか。そりゃそうだよな...話したこともないしな。
口を開けたまま、固まる瀬津に咲夜は1歩、また1歩と、近付く。瀬津の表情がだんだんと曇っているのを感じた。胸がチクリと痛む。余計なことしたかな...。
「あの…これ……。」
「あぁそれ?やるって。」
「いやっ…その……困るんだけど…。」
瀬津の言葉に、胸が痛んだ。やっぱり、余計だったかな...よく知りもしない、今年同じクラスになっただけという立場の自分の力の無さに悔しくなる。普段から話しかけていれば、こんなに警戒されることもなかったかもしれない。もっと早く知っていれば、と戻らない時間に歯痒くなる。
困る、というただその一言で何も言えず、時間が過ぎる。瀬津の暗くなっていく顔に、内心すごく慌てた。何か言わなければ...。
「お前さ、何にそんなにおどおどしてんの?」
そうじゃない!! そうじゃないだろ、自分。何脅すようなこと言ってんだよ。自分の頭の働かなさにイライラする。
瀬津の肩がビクッと反応する。怖がられた。助けるつもりで行動に出て、声をかけたくせに...怖がらせてしまった。目の前の瀬津の体が本当にどんどん小さくなっていっているのではないかと錯覚するほど、彼女は体を小さくしていた。微かに震えるその体に、申し訳なさを感じる。
誤解を...なんとか脅かしているわけじゃないと、責めているわけじゃないと、わかって欲しかった。
「可愛いんだから、もっと勇気もって生きろよ。それで?なんでそれやって困るわけ?もしかして俺のこと嫌い?」
いや、だから!! そうじゃない!!
こんなにも自分は人と話すのが苦手だったのか...。それとも、今、タイミングが悪く強烈に下手になったのか。だんだんと話すのが嫌になってきた。
咄嗟に誤魔化すように「嫌いな奴から何かもらうのは困るよなー」と続ける。
嫌いも何も...話したこともないやつなんか眼中にないだろ。何責め立ててんだ...。考えをまとめてきたつもりが、瀬津を前にすると全て吹き飛んでしまった。咄嗟に口から出てくる言葉は、どれもイマイチ『そうじゃない』感じがする。
後悔で潰されてしまいそうになりながら、普段と何も変わらないように振る舞う咲夜に、瀬津は首が取れてしまうのではないかという勢いで首を横に振った。その反応が小動物のようで可愛くて、咲夜はフフッと息を漏らすように笑う。
「そんな事ない。でも…お金も払ってないし。それに...いつも人数分は買わないといけないし。」
しどろもどろになりながら、言う瀬津を思わず抱き締めたくなった。うずうずとする手を、必死で我慢して抑え込む。
「人数分とか言って、どうせあいつらの分だろ?それはお前の分。金は払わなくていい。なら、5人分もやるよ。俺はまた買ってくりゃいいだけだから。」
本当は買ってるけど。自分のパンは鞄の中に隠している。半ば強引に、瀬津の手に5個のパンを入れた購買の袋を持たせる。返すなよ、と念を込めて。
瀬津の手は、細く女性特有の柔らかさを失いかけていた。痩せ細った指は触ると折れてしまうのではないかと不安になる。
「でも…その。これだけは持っていって。」
パンを無事に渡せたことに満足し、そのまま立ち去ろうとした咲夜は手を取られ、振り返させられた。細い腕と細い指からは想像出来なかった力強さに驚き、ポカンとしてしまう。
瀬津は握りしめていた500円玉を咲夜の手にしっかりと握らせた。前に出かけていた足を止める。
「いいの?」
自分でも不安そうな声を出してしまったとわかり、焦った。暗い空気にはしたくない。そんな咲夜の心配を他所に、瀬津は間髪入れずに頷く。しかし、その表情はだんだんと暗くなっていた。
本当に大丈夫なのか...心配で堪らないが、せっかくの好意を無下には出来なかった。話したこともない男子相手に、引き止めるのも相当勇気を出してくれた行動だと思う。
「サンキュ!!じゃあまた後でなッ。」
素直に受け取ることにした。その方が、相手の気持ち的にもいいのではないかという結論に落ち着いた。
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