死の刻

兎都ひなた

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#03

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今自分の身に起こった出来事が、映像としてひたすら頭の中でループする。

男子トイレの方へと駆け込む。個室へ入り鍵を閉める。少し、1人で閉鎖された所で落ち着きたかった。廊下などの開けた場所は人体模型があったように、何かにまた襲われるかもしれない。あんなに好きだったオカルトが一気に怖いもののように感じた。好きだと言っていた自分が嘘のようだ。恐怖で支配され、喜ぶ所か対象逃げ回っている。

霧澤の入っていた個室のトイレのレバーが突如、独りでに上がる。水が勢いよく流れていく。何も…触れていない。そう思い半歩だけ後ずさる。扉のほんの少しだけある、足元の隙間から何本かの手が伸びてくる。その手はどんどんと伸びていき、後ずさった霧澤の背中を押す。逃げる隙どころか踏ん張る隙も、なかった。霧澤はよろめき、そのまま前のめりになり、トイレのタンクに額をぶつける。ドサッと壁と便器の隙間に倒れた。額からは血が流れ,霧澤の意識は徐々に遠のいた。

可笑しな夢を見た。自分が牢に囚われている夢。自分を獲られている者の姿は無く。1人で暗闇の世界に居る。声を出そうとしたが、上手く喋ることが出来ない。

ハッ...と、目が覚め辺りを見渡す。奥の方に白骨化した骸骨達が、山のように積んであるのが視界に飛び込んできた。血の気が引いていくのが分かる。何かに縛られているわけでもないのに、壁に背をつけたまま体が自由に動かない。ここがどこなのかもわからない。わかっているのは、古びた木造の校舎らしいということ。元いた旧校舎にこんな場所あっただろうか...。

骸骨達は徐々に増えていき,ついには霧澤の居る位置まで雪崩るように広がった。何処から出てきているのか、増えていっているのか見当もつかない。とにかく出口となる扉を探さなくてはならない。辺りを見渡すがそれらしき扉はない。雪崩た骸骨の下にわずかに色の違う板がある。そこだけ、やけに真新しい木の色をしていた。床下収納の扉とそっくりな、その板はもしかしたら隠し扉かもしれない。そんなわずかな期待を持って、霧澤は意を決して骸骨に触れる。ここが埋まってしまう前に、逃げなくては。

上開きの扉を開くと下には深くて暗い穴が続いている。その中へ躊躇無く霧澤は飛び降りた。迷っている場合ではない。何故こんな部屋が存在するのか、また幻覚なのかもしれない。そもそもこの今居る場所は本当に学校なのか。疑問はどんどん溢れてくるが、今は思考を頼りに動いている場合ではないだろう。考えている暇などない。とにかく抜け出さなければという思いの方が強い。

穴は落ちても落ちても下に着く気配がなかった。何処かでこんな物語、読んだよな...とつい冷静に思う。これは只の夢ではないかという考えも浮かんだ。ただの悪夢だとすれば、どんなにいいか。しかし夢ではここまでハッキリとした意識も、手に触れる感覚もないように思う。
突如として、床に叩き付けられる。激しい痛みが走り、一瞬悶える。辺りを見渡し、何処に着いたのかを確認する。

鏡張りの通路だ。上下左右全てに鏡が張られている。上から落ちてきたはずなのに上を向くと自分の顔が映る。鏡と鏡で所々合わせ鏡になっている。鏡が幾重にも重なり、距離感が全く掴めない。何処までも続いていくような筋が鏡の奥底に広がっていた。

鏡の奥底を覗いていると何故だか、ふと気持ちが和らいだ。疑問も不安も全て鏡の中へと吸い込まれていくようだ。歩けば外に出れる。そんな呑気な考えもよぎる。

足を踏み出す。前に進んでいるのか後ろに進んでいるのか…。それさえも分からない。どの方向に向かえばいいのかも、わからない。しかしじっとしていてもどうにもならない。

周りの鏡に何人もの自分の姿が映る。角度によっては数えきれない程の自分が居る。同じ顔、同じ姿。普通の鏡と何ら変わりなどない。鏡の中の自分と度々目が合う。見張られていないのに、誰かに見張られているような...変な感覚だ。

「何だよ。帰らせてくれねぇのか?」

不意に霧澤が、鏡の自分へ向かって声を上げる,周りの鏡に反響して声が自分の方へと、何層にもなり返ってくる。

---

いや、それだけではない。霧澤は変化に気づき、足を止めた。鏡に映った自分が急に動き出す。まず始めに目の前の自分がニヤッ...と笑ったかと思うと、突如、首が跳ねた。もう1人は足が前の方へ音をたてて折れる。溶け出す者、手が吹き飛ぶ者、刃で突き刺される者,何か黒い塊に潰される者……。

周りの鏡に映る自分が...どの方面の自分が...様々な形でどんどんボロボロになっていく。自分自身にはなんの危害も及んでいないはずなのに、顔を顰めて目を固く閉じてしまう。目の前でどんどん繰り広げられていく惨劇に我慢が出来ない。見ていられない。

「…止めろ。止めろよ…。誰がやってんだよッッ。」

つい大きな声が出る。頭を抱えてその場にうずくまる。頭が変になってしまいそうだ…。目をしっかりと閉じていても、耳には嫌な音が入ってくる。まだ、何かされているらしい。

しばらくして音がしなくなり、ゆっくりと目を開いた霧澤は目を疑った。鏡の中に1人だけ元気に立っている自分が居る。他の鏡の中の自分はその1人の足元に繋がるように、鏡を隔てていても繋がっている映像のように倒れている。

「…お前、誰だよ。」

霧澤が鏡の中に向かって声をかける。鏡の中の自分は、本来映し出した者と同じ動きをする鏡のはずなのに、霧澤と同じ様に口を動かさなかった。まるで独立した空間だ。鏡の中の霧澤は耳の辺りまで避けた口元に笑みを浮かべた。

『お前こそ誰だよ。』
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