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#05
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僕は覚悟を決めて、ユノに大きく頷いて見せた。
ユノは僕に、父から受け取ったポットを2つ渡し、懐から杖を取り出した。次に突進してくる階段へ、指を指すように杖を向け、僕には聞き取れない呪文を唱えた。ガタンッと大きな音を立て、階段は動きを一瞬、止めた。ギギギギ…と、耳障りの悪い独特な軋む音がする。
(気持ちが悪い…。)
「ユノすごい…」
音の響きにゾワゾワと、鳥肌を立たせる僕とは対象に、リリーはユノの魔法に思わず足を止め、呟いた。
(しっかりしろ!)
自分を奮い立たせ、僕は階段が勢いを無くしたのを確認し、肩から斜めにかけた鞄から、急いで魔導書とペンを取り出した。紙を引っ張り出し、階段の段差を机代わりにペンを走らせる。魔導書を捲る指は、普段の数十倍早く動くようだった。バラバラと、捲られるページを流し読みのように目で懸命に追う。
「アル!出来そうか!?」
「もう少し…」
魔法陣を書き上げ、周りに単語を書き連ねる。最後に開いたページに、目を見張った。植物を渡してくれた父に感謝し、また育てることが出来そうにないことに心の中で謝罪をした後、ポットを魔法陣の真ん中へ、3つとも投げ入れた。
(リリーに怒られるかな…。)
食べられるかも、と父に植物をもらった時にはしゃいでいたリリーの姿が頭をよぎる。しかし、やらなくては…この問題は解決しそうにない。
最後に、ペンで紙を引き裂く。今までやった魔法の中でも、1番大きな魔法だろう。
ボン…ッという爆発音と共に、僕たちの周りは煙に包まれた。
煙が晴れた頃、僕は自分のした魔法に目を見張った。
私服を着ていたはずの僕は、いつ着替えたのか、制服姿だった。上から貼り付けたように、服が変わったと言った方が正しいかもしれない。僕だけではない。ユノもリリーも、同じ制服姿だ。
その姿を良しと判断したのか、ユノの魔法が解けた階段は元の位置へ戻り、今起こった装動が嘘のように、また穏やかな空間に戻った。ユノとリリーは、自分の姿に信じられないといった風に、ペタペタの自分の体を触って確認している。
(何がどうなっているんだ…。)
「アル…これ、どういうこと?」
リリーが堪らず、僕へ疑問をなげかける。僕も、自分にこんな魔法が使えたなんて信じられない。無我夢中で、ページを捲った。見えたもので、好きに服を変えることが出来る魔法を見つけ、魔法陣を真似して、必要な単語を調べて書き出した。気付いたら、今まで使ったことが無い魔法が、出来ていた。
「僕にも何が何だか…」
狼狽える僕に、後ろから大きな衝撃が加わった。思わず、階段を数段踏み外し、前方へ体を仰け反る。…衝撃の正体は、ユノだった。
「すっげーな!アル。いつの間にこんな魔力出せるようになったんだよ!!」
抱きつき、頭をグリグリと撫で回し、まるで自分のことように喜ぶユノを見て、今更ながらに嬉しくなった。僕とユノを見ていたリリーも、クスクスと抑えきれずに笑っている。「降りようか。」と一歩踏み出すと、カサッと小さく音がして、制服のリボンがはらりと落ちた。
リボンが落ちたことに焦り、手を伸ばすと、その正体は植物の葉であることがわかった。
「やばい、これは父さんの植物だ!」
見覚えのあるその正体に、焦る。制服だと思っていたのは見せ掛け。直にこの魔法も解け、元の私服姿に戻ってしまうだろう。そしたらまた…。
「急げ!出口が見えたぞ!!」
制服を見せ掛けることが出来たおかげで、校舎の出口が見えた。私服のままだったら、僕たちを閉じ込めるつもりだったのか。
キャー、とリリーの甲高い声が響く。ユノが力強く腕を引いてくる。その力にバランスを崩しながらも、僕はリリーの細い腕を掴む。折れないように、気をつけながらもただ、夢中で自分の方へ引き寄せた。
僕達は雪崩込むように、出口へ転げる。地面に手を着いた途端、制服に見えていた葉はハラハラと全て風に乗って舞っていった。
(間に合った…。)
校舎から無事に出ることが出来たことに、ホッとする。確認するまでもなく、服は元の私服姿に戻っていた。「痛たた…」と小さく呟きながら、身体を起こすと、遠くの方から、パチパチと音の軽い拍手が聞こえてきた。嫌な予感がして、急いで顔を上げる。
「ラルヤ…」
蛍光色のように明るい緑色の前髪を、かきあげた男が目に飛び込んできた。ラルヤ・カナンバ。僕たちと同じ学年の生徒だ。ラルヤの父は理事長をしていると噂を聞いたことがある。正直、苦手な人物だ。
「君たちが階段のセキュリティを掻い潜っているのを見たよ。いやぁ、あのセキュリティの穴によく気がついたね。私服でここへ来てしまう愚かさを指摘しようと思ったが、あまりに見事だったから褒めてあげたいと思って来た次第さ。」
キザで上から目線な物言い。いちいち鼻につく。セキュリティの穴とは、制服姿であれば、魔法であっても誤魔化せるというところだろう。「だがしかし!」とラルヤは話を続ける。
「アルティナ。君の魔法と呼ぶそれは、魔法ではなく、人間界の錬金術ではないかい?」
ラルヤの言葉に、胸が苦しくなる。気が重い。杖を使わず、呪文を唱えず、何故魔法が使えているのか。それは僕にとっても不思議だった。そして、今日出来た魔法に必要だったのは、植物の葉だ。父がたまたまポットを渡してくれていたから出来たものの、無ければどうなっていたことか。考えただけでも恐ろしい。階段の下は、奈落なのだと、先生たちは言っていた気がする。落ちれば、地面に着くことも無く、落ち続けるらしい。
普通の人の魔法であれば、杖の他に使うものなど何も無い。薬や食事に関する調合であれば、話は別だが、少なくとも服を変えたりすることに対しては、用意するものは何も無いだろう。
「アルの魔法は錬金術なんかじゃない!」
リリーが隣で堪らず、叫んだ。大きな目には薄らと悔し涙が溜まっている。自分ですぐに否定しなくてはならないのに…。友達に言わせてしまったことが辛かった。思わず、地面の土を握りしめる。
「先生たちが言うには、錬金術ってのは決まった錬成陣に、特価交換で何か代償を払うものだろう?だったら、アルのは錬金術じゃないんじゃないかな?」
「いや、彼のは錬金術で間違いないね。杖を持っていないじゃないか。杖に嫌われたんだって?おまけに使うのは紙に書いた魔法陣。何が違うって言うんだい?」
顔には出さないが、ユノの柔らかく笑ったような表情に、イライラとした声が似合わず、庇ってくれているのがわかっていても、少し怖いと感じた。
「錬成陣はその人の決まった陣なんでしょ?じゃあ、毎回違う陣を使うのはおかしいじゃない!!」
「それは…」
リリーの言葉に、やっとラルヤは言葉を詰まらせた。魔法と似ている、人間界の錬金術に関しては、この学校に通い始めた最初に授業で習う。その授業後、僕の存在を知ったラルヤはこうして会う度に、突っかかってくる。
「もう辞めようよ…。」
ラルヤの隣で、彼の友人、ショニバ・ラフレーンが小さく声を上げる。目元は長い前髪で隠れているが、今にも泣き出しそうな震えた細い声がした。ラルヤの斜め後ろをいつも歩いている彼は、周りから見れば友人と言うより小間使いのようだ。それでも彼の後ろを離れないショニバは、それ程までにラルヤを慕っているのだろう。
その声に、ふんっ、と鼻を鳴らし、僕たちを1度睨みつけ、ラルヤは踵を返してその場を離れていった。
僕は最後まで、声を発することが出来なかった。なんて情けないのだろう。
「大丈夫か?アル。」
「あんなの気にしちゃダメだよ。アルが頑張ってるのは私たちが1番知ってるんだから。」
下を向く僕を元気づけようと、ユノとリリーは僕の顔を覗き込んだ。「ごめん。」と小さく呟くことしか出来ない。ユノの大きな手が頭に乗る。リリーの小さな手が背中をさする。2人の好意に今度は嬉しくて、胸が苦しくなった。泣き出しそうなのを、必死に堪えるように、地面を強く見つめた。
「…ありがとう。もう大丈夫。」
そうは言ったものの、しばらく動けそうもない。
静かな時間は思ったよりも長く感じた。しかし、それでもユノとリリーは僕を優しく見守り、励まし続けてくれていた。本当に素敵な、最高の友人だと思う。
顔を上げると、ニッと笑ったリリーと目が合った。
「よし、じゃあ移動しよっか!ここに居たらまたラルヤが来ちゃうかもだし。」
「…そうだね。父さんには会えたし、とりあえず学校の敷地からは出ておこうか。また何があるかわからないし…。ユノは行きたいところ、ある?」
リリーと一緒にユノの顔を見つめる。ユノが少し困ったふうに、頬を指でかいた。うーん…と、少し悩んだあと「ルクランにでも行こうか。」と、笑いかける。
ルクランとは、出店が軒並みを連ねた商店街のような場所だ。時間潰しに立ち寄ったり、少し小腹がすいた時に行ったり…。気軽に行ける場所なので、一種のコミュニティのような感覚で訪れる者もいる。
「いいね!」
ルクランと聞いた途端、リリーは自分のほうきを呼び寄せ、すぐさま跨った。そのまま飛び立とうとするリリーを「待て待て。」と慌てた様子のユノが止める。
「一旦、ちゃんと門から出なきゃ先生たちの結界にやられるぞ。ただでさえ、今日は階段に襲われてんだから、気をつけろよ。」
幸い、怪我はなかったが、登った記憶もないほどの段数を必死に駆け下りたせいで足は悲鳴をあげる寸前だった。いくら考えても、制服を出せていなかったら、あの螺旋階段は僕たちを走らせたまま校内に閉じ込めておくつもりだったかもしれない。と、悪い予想ばかりが思考を占める。体力の限界が来たところで、振り落とされるのを想像して、ゾ…ッと背筋が凍るのを感じた。
「あ、そっか。」
リリーは慌てる様子もなく、地面に足をつき、ほうきを手に持ったまま、門の方へと走り始める。途中で振り返って「早くー!」と僕たちに声をかける。あの自由さには本当に振り回されているが、何をするにも臆することも無く物事に前向きに向き合える精神力は、素直に羨ましい。
「全く…」
横を見ると、ユノが小さくため息を漏らしていた。世話の焼ける、と顔に書いてあるようだ。なんだかんだでいつもついて行くし、僕やリリーを見守ってくれるユノは誤解されやすい見た目のチャラさとは違い、とても優しく真面目な性格だ。
リリーの後を追いかけるように歩き始めたユノを、慌てて追いかける。校舎に立て掛けたほうきを忘れずに持って。僕はユノやリリー、他の魔法使いたちとは違い、ほうきを呼び寄せることが出来ない。何度強く念じても、何度ユノの真似をして呪文を発音しようとしても、出来なかった。
「そういえばユノ。ユノは私服で来たら危険だとは覚えてなかったの?」
ユノは僕に、父から受け取ったポットを2つ渡し、懐から杖を取り出した。次に突進してくる階段へ、指を指すように杖を向け、僕には聞き取れない呪文を唱えた。ガタンッと大きな音を立て、階段は動きを一瞬、止めた。ギギギギ…と、耳障りの悪い独特な軋む音がする。
(気持ちが悪い…。)
「ユノすごい…」
音の響きにゾワゾワと、鳥肌を立たせる僕とは対象に、リリーはユノの魔法に思わず足を止め、呟いた。
(しっかりしろ!)
自分を奮い立たせ、僕は階段が勢いを無くしたのを確認し、肩から斜めにかけた鞄から、急いで魔導書とペンを取り出した。紙を引っ張り出し、階段の段差を机代わりにペンを走らせる。魔導書を捲る指は、普段の数十倍早く動くようだった。バラバラと、捲られるページを流し読みのように目で懸命に追う。
「アル!出来そうか!?」
「もう少し…」
魔法陣を書き上げ、周りに単語を書き連ねる。最後に開いたページに、目を見張った。植物を渡してくれた父に感謝し、また育てることが出来そうにないことに心の中で謝罪をした後、ポットを魔法陣の真ん中へ、3つとも投げ入れた。
(リリーに怒られるかな…。)
食べられるかも、と父に植物をもらった時にはしゃいでいたリリーの姿が頭をよぎる。しかし、やらなくては…この問題は解決しそうにない。
最後に、ペンで紙を引き裂く。今までやった魔法の中でも、1番大きな魔法だろう。
ボン…ッという爆発音と共に、僕たちの周りは煙に包まれた。
煙が晴れた頃、僕は自分のした魔法に目を見張った。
私服を着ていたはずの僕は、いつ着替えたのか、制服姿だった。上から貼り付けたように、服が変わったと言った方が正しいかもしれない。僕だけではない。ユノもリリーも、同じ制服姿だ。
その姿を良しと判断したのか、ユノの魔法が解けた階段は元の位置へ戻り、今起こった装動が嘘のように、また穏やかな空間に戻った。ユノとリリーは、自分の姿に信じられないといった風に、ペタペタの自分の体を触って確認している。
(何がどうなっているんだ…。)
「アル…これ、どういうこと?」
リリーが堪らず、僕へ疑問をなげかける。僕も、自分にこんな魔法が使えたなんて信じられない。無我夢中で、ページを捲った。見えたもので、好きに服を変えることが出来る魔法を見つけ、魔法陣を真似して、必要な単語を調べて書き出した。気付いたら、今まで使ったことが無い魔法が、出来ていた。
「僕にも何が何だか…」
狼狽える僕に、後ろから大きな衝撃が加わった。思わず、階段を数段踏み外し、前方へ体を仰け反る。…衝撃の正体は、ユノだった。
「すっげーな!アル。いつの間にこんな魔力出せるようになったんだよ!!」
抱きつき、頭をグリグリと撫で回し、まるで自分のことように喜ぶユノを見て、今更ながらに嬉しくなった。僕とユノを見ていたリリーも、クスクスと抑えきれずに笑っている。「降りようか。」と一歩踏み出すと、カサッと小さく音がして、制服のリボンがはらりと落ちた。
リボンが落ちたことに焦り、手を伸ばすと、その正体は植物の葉であることがわかった。
「やばい、これは父さんの植物だ!」
見覚えのあるその正体に、焦る。制服だと思っていたのは見せ掛け。直にこの魔法も解け、元の私服姿に戻ってしまうだろう。そしたらまた…。
「急げ!出口が見えたぞ!!」
制服を見せ掛けることが出来たおかげで、校舎の出口が見えた。私服のままだったら、僕たちを閉じ込めるつもりだったのか。
キャー、とリリーの甲高い声が響く。ユノが力強く腕を引いてくる。その力にバランスを崩しながらも、僕はリリーの細い腕を掴む。折れないように、気をつけながらもただ、夢中で自分の方へ引き寄せた。
僕達は雪崩込むように、出口へ転げる。地面に手を着いた途端、制服に見えていた葉はハラハラと全て風に乗って舞っていった。
(間に合った…。)
校舎から無事に出ることが出来たことに、ホッとする。確認するまでもなく、服は元の私服姿に戻っていた。「痛たた…」と小さく呟きながら、身体を起こすと、遠くの方から、パチパチと音の軽い拍手が聞こえてきた。嫌な予感がして、急いで顔を上げる。
「ラルヤ…」
蛍光色のように明るい緑色の前髪を、かきあげた男が目に飛び込んできた。ラルヤ・カナンバ。僕たちと同じ学年の生徒だ。ラルヤの父は理事長をしていると噂を聞いたことがある。正直、苦手な人物だ。
「君たちが階段のセキュリティを掻い潜っているのを見たよ。いやぁ、あのセキュリティの穴によく気がついたね。私服でここへ来てしまう愚かさを指摘しようと思ったが、あまりに見事だったから褒めてあげたいと思って来た次第さ。」
キザで上から目線な物言い。いちいち鼻につく。セキュリティの穴とは、制服姿であれば、魔法であっても誤魔化せるというところだろう。「だがしかし!」とラルヤは話を続ける。
「アルティナ。君の魔法と呼ぶそれは、魔法ではなく、人間界の錬金術ではないかい?」
ラルヤの言葉に、胸が苦しくなる。気が重い。杖を使わず、呪文を唱えず、何故魔法が使えているのか。それは僕にとっても不思議だった。そして、今日出来た魔法に必要だったのは、植物の葉だ。父がたまたまポットを渡してくれていたから出来たものの、無ければどうなっていたことか。考えただけでも恐ろしい。階段の下は、奈落なのだと、先生たちは言っていた気がする。落ちれば、地面に着くことも無く、落ち続けるらしい。
普通の人の魔法であれば、杖の他に使うものなど何も無い。薬や食事に関する調合であれば、話は別だが、少なくとも服を変えたりすることに対しては、用意するものは何も無いだろう。
「アルの魔法は錬金術なんかじゃない!」
リリーが隣で堪らず、叫んだ。大きな目には薄らと悔し涙が溜まっている。自分ですぐに否定しなくてはならないのに…。友達に言わせてしまったことが辛かった。思わず、地面の土を握りしめる。
「先生たちが言うには、錬金術ってのは決まった錬成陣に、特価交換で何か代償を払うものだろう?だったら、アルのは錬金術じゃないんじゃないかな?」
「いや、彼のは錬金術で間違いないね。杖を持っていないじゃないか。杖に嫌われたんだって?おまけに使うのは紙に書いた魔法陣。何が違うって言うんだい?」
顔には出さないが、ユノの柔らかく笑ったような表情に、イライラとした声が似合わず、庇ってくれているのがわかっていても、少し怖いと感じた。
「錬成陣はその人の決まった陣なんでしょ?じゃあ、毎回違う陣を使うのはおかしいじゃない!!」
「それは…」
リリーの言葉に、やっとラルヤは言葉を詰まらせた。魔法と似ている、人間界の錬金術に関しては、この学校に通い始めた最初に授業で習う。その授業後、僕の存在を知ったラルヤはこうして会う度に、突っかかってくる。
「もう辞めようよ…。」
ラルヤの隣で、彼の友人、ショニバ・ラフレーンが小さく声を上げる。目元は長い前髪で隠れているが、今にも泣き出しそうな震えた細い声がした。ラルヤの斜め後ろをいつも歩いている彼は、周りから見れば友人と言うより小間使いのようだ。それでも彼の後ろを離れないショニバは、それ程までにラルヤを慕っているのだろう。
その声に、ふんっ、と鼻を鳴らし、僕たちを1度睨みつけ、ラルヤは踵を返してその場を離れていった。
僕は最後まで、声を発することが出来なかった。なんて情けないのだろう。
「大丈夫か?アル。」
「あんなの気にしちゃダメだよ。アルが頑張ってるのは私たちが1番知ってるんだから。」
下を向く僕を元気づけようと、ユノとリリーは僕の顔を覗き込んだ。「ごめん。」と小さく呟くことしか出来ない。ユノの大きな手が頭に乗る。リリーの小さな手が背中をさする。2人の好意に今度は嬉しくて、胸が苦しくなった。泣き出しそうなのを、必死に堪えるように、地面を強く見つめた。
「…ありがとう。もう大丈夫。」
そうは言ったものの、しばらく動けそうもない。
静かな時間は思ったよりも長く感じた。しかし、それでもユノとリリーは僕を優しく見守り、励まし続けてくれていた。本当に素敵な、最高の友人だと思う。
顔を上げると、ニッと笑ったリリーと目が合った。
「よし、じゃあ移動しよっか!ここに居たらまたラルヤが来ちゃうかもだし。」
「…そうだね。父さんには会えたし、とりあえず学校の敷地からは出ておこうか。また何があるかわからないし…。ユノは行きたいところ、ある?」
リリーと一緒にユノの顔を見つめる。ユノが少し困ったふうに、頬を指でかいた。うーん…と、少し悩んだあと「ルクランにでも行こうか。」と、笑いかける。
ルクランとは、出店が軒並みを連ねた商店街のような場所だ。時間潰しに立ち寄ったり、少し小腹がすいた時に行ったり…。気軽に行ける場所なので、一種のコミュニティのような感覚で訪れる者もいる。
「いいね!」
ルクランと聞いた途端、リリーは自分のほうきを呼び寄せ、すぐさま跨った。そのまま飛び立とうとするリリーを「待て待て。」と慌てた様子のユノが止める。
「一旦、ちゃんと門から出なきゃ先生たちの結界にやられるぞ。ただでさえ、今日は階段に襲われてんだから、気をつけろよ。」
幸い、怪我はなかったが、登った記憶もないほどの段数を必死に駆け下りたせいで足は悲鳴をあげる寸前だった。いくら考えても、制服を出せていなかったら、あの螺旋階段は僕たちを走らせたまま校内に閉じ込めておくつもりだったかもしれない。と、悪い予想ばかりが思考を占める。体力の限界が来たところで、振り落とされるのを想像して、ゾ…ッと背筋が凍るのを感じた。
「あ、そっか。」
リリーは慌てる様子もなく、地面に足をつき、ほうきを手に持ったまま、門の方へと走り始める。途中で振り返って「早くー!」と僕たちに声をかける。あの自由さには本当に振り回されているが、何をするにも臆することも無く物事に前向きに向き合える精神力は、素直に羨ましい。
「全く…」
横を見ると、ユノが小さくため息を漏らしていた。世話の焼ける、と顔に書いてあるようだ。なんだかんだでいつもついて行くし、僕やリリーを見守ってくれるユノは誤解されやすい見た目のチャラさとは違い、とても優しく真面目な性格だ。
リリーの後を追いかけるように歩き始めたユノを、慌てて追いかける。校舎に立て掛けたほうきを忘れずに持って。僕はユノやリリー、他の魔法使いたちとは違い、ほうきを呼び寄せることが出来ない。何度強く念じても、何度ユノの真似をして呪文を発音しようとしても、出来なかった。
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