悪役令嬢として婚約破棄され、地獄の追放先へ。

ちゃっぴー

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「……フッ、ようやく着いたか。辺境の最果て、絶望と氷に閉ざされた死の土地へ」

王都から数週間の旅を経て、アレン王子はついに北国の入り口へと辿り着きました。
彼の隣には、何重もの毛皮に包まれ、不安げに周囲を見渡すリリィの姿があります。

アレン王子の目的はただ一つ。
傲慢な悪役令嬢ネイビーが、寒さに震え、涙を流しながら許しを請う無様な姿を拝むこと。
そして、「やはり私がいなければ生きていけないだろう?」と慈悲深く(高圧的に)告げるためです。

「リリィ、怖いことはない。あのアばずれが雪だるまのように凍りついている様を見て、我々の正しさを再確認しようではないか」

「はい、アレン様……。でも、なんだか変ですわ。北へ進んでいるはずなのに、少しずつ空気が……その、生温かくなってきませんか?」

リリィの指摘通り、馬車が「氷晶の離宮」の領地に踏み込んだ瞬間、景色は一変しました。
街道の雪は綺麗に溶け、地中からはうっすらと湯気が立ち上っています。
さらに進むと、枯れ木だったはずの街路樹には、季節外れの狂い咲きのような花まで見え始めました。

「な……なんだ、この湿度は!? ここは本当に北国か!? 熱帯の密林に迷い込んだのではないか!?」

アレン王子が困惑して馬車の窓を開けると、そこには信じられない光景が広がっていました。
宮殿へと続く道沿いでは、村人たちが「暑い、暑い」と言いながらシャツの袖をまくり、キンキンに冷えた井戸水で顔を洗っていたのです。

そして、ついに辿り着いた離宮の門前。
そこには、かつて見た「雪だるま」のような重装備を脱ぎ捨て、薄手のシルクドレス一枚で優雅に扇子を仰ぐネイビーの姿がありました。

「あら、アレン殿下。わざわざこんな『南国(予定)』まで、何の御用かしら?」

ネイビーは、イグニスの逞しい腕に寄り添いながら、最高に挑発的な微笑みを浮かべました。
彼女の肌は熱気で血色が良く、王都にいた頃よりも数倍美しく、そして健康そうに輝いています。

「ネ、ネイビー!? 貴様、その格好は何だ! ここは極寒の流刑地のはずだろう! なぜ汗をかいている!?」

「殿下、失礼ですわ。私は今、この地を『世界一暖かいパラダイス』に変えるための、社会実験の真っ最中なのです。……さあ、リリィさんも。そんな暑苦しい毛皮は脱いで、こちらへいらして?」

ネイビーが手招きすると、宮殿の巨大な扉が開かれました。
中から吹き出してきたのは、冬の北国ではあり得ない「むせ返るような熱気と湿気」でした。

「ぐわっ!? な、なんだこの部屋は! サウナか!? 火口の中か!?」

「失礼ね。これこそが私のこだわり、全館二十四時間体制の『超絶床暖房システム』ですわ。地中に眠る竜さんとイグニス様の情熱が、この石壁の隅々まで行き渡っておりますの」

アレン王子とリリィは、フラフラになりながら宮殿の中に足を踏み入れました。
そこでは、かつて凍えていた使用人たちが、アロハシャツのような涼しげな格好で、来客に「熱々の激辛ジンジャーティー」を差し出していました。

「……あ、アレン様。私、もう限界です……。厚着をしてきたせいで、服の中がサウナ状態に……」

リリィが顔を真っ赤にして膝をつきました。
彼女を助けようとしたアレン王子も、自身の毛皮コートが仇となり、滝のような汗を流しています。

「ハァ、ハァ……。ネイビー、貴様……。これは、嫌がらせか!? 我々を蒸し殺すつもりか!」

「心外ですわ。私はただ、最高のおもてなしをしようとしているだけですわよ? ……あ、そうだ。せっかくですから、地下にある『氷竜コタツ』も見学していかれます? あそこは、さらに五度は室温が高いですわよ」

ネイビーは、困惑する王子たちを眺めながら、心の中で高笑い(実際は暑くて少し朦朧としています)を上げました。
(どうかしら、殿下! 私を凍死させようとした罰よ! この『暖かさの暴力』に、とことんのされるがいいわ!)

その時、背後から無言でイグニスが近づき、ネイビーの首筋に冷たい魔石を当てました。

「……やりすぎだ、ネイビー。お前も顔が赤いぞ。……殿下、これ以上ここにいると熱中症になります。一度、冷房……いえ、外の空気で冷やした方がいいでしょう」

「イグニス、お前まで……! お前もこの女に毒されたのか!」

「いいえ。……俺はただ、彼女を温めるのが仕事ですから。……おい、セバス。殿下たちを『比較的涼しい(摂氏二十八度)』部屋へ案内しろ」

アレン王子は、震える足でセバスに連行されていきました。
残されたネイビーは、イグニスの腕の中で満足げに溜息をつきました。

「……ふふ、勝ちましたわ。イグニス様、見ていらして。明日には殿下も、『北国に住まわせてください』と泣いて頼んでくるはずですわよ」

「……それはそれで困るんだがな」

北国の太陽となったネイビー。
彼女の「熱すぎる」逆襲は、ついに王権すらも溶かし始めようとしていたのでした。
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