悪役令嬢として婚約破棄され、地獄の追放先へ。

ちゃっぴー

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「ハァ、ハァ……。ネイビー、認めよう。この『暖房技術』は、我が国の国力を根底から覆すほどの価値がある……!」

宮殿内で最も「涼しい」とされる、摂氏二十八度に設定された客間。
そこでアレン王子は、シャツのボタンを全開にし、氷水の入った桶に足を突っ込みながら息を弾ませていました。

その向かい側で、ネイビーは涼やかな顔で(実際は背中に氷の魔石を忍ばせて)優雅に紅茶を啜っています。

「あら、ようやくご理解いただけましたの? 殿下、この北国を『不毛の地』と呼んだのは、どこのどなたでしたかしら?」

「ぐっ……。それは、その……。だが、このパイプラインを王都まで引けば、冬の暖房費は激減し、民の生活は豊かになる! ネイビー、この技術を王室に献上しろ。そうすれば、お前の罪を完全に赦免し、王都へ呼び戻してやってもいいぞ」

アレン王子の「恩赦」の言葉。
普通の追放令嬢なら、泣いて喜ぶ展開です。
しかし、ネイビーは扇子をパサリと閉じ、憐れむような視線を王子に向けました。

「殿下、お言葉ですが……お断りいたしますわ」

「なっ……!? なぜだ! 王都へ戻りたくないのか!?」

「嫌ですわ。王都の冬は、私の基準ではまだ『氷河期』に等しいものですもの。それに、このシステムの核は二つ……。一つは、地下でぬくぬくと眠る氷竜さん。もう一つは……」

ネイビーは隣に座るイグニスの腕を、これ見よがしにギュッと抱きしめました。

「私の専用ストーブ……失礼、最愛の婚約者候補であるイグニス様の、一点の曇りもない『情熱』ですわ。彼が王都へ行けば、ここが冷え切ってしまいます。それは私の生存権に関わる大問題ですの!」

「イグニス、お前からも何か言え! これは国家の利益なのだぞ!」

矛先を向けられたイグニスは、ネイビーに腕を絡められたまま、面倒くさそうに鼻を鳴らしました。

「……悪いな、殿下。俺の魔力は、こいつを温めるためだけに最適化されているんだ。王都全体の暖房なんて、出力が分散して効率が悪い。俺は、俺の手の届く範囲……つまり、こいつの隣を温めていられれば、それでいい」

「な……。軍人ともあろう者が、一人の女のために職務を……!」

「いいえ、殿下。これは職務ですわよ。……陛下から言われませんでしたの? 『ネイビーの熱意を監視せよ』と。イグニス様は、私の情熱を物理的に管理してくださっているのですわ」

ネイビーは立ち上がり、交渉の最終案を突きつけました。

「殿下、こうしましょう。技術の一部は提供いたしますわ。ただし、この『氷晶の離宮』とその周辺領地は、私とイグニス様の完全自治領として認めていただきます。そして、王都からは毎年、最高級の茶葉と、断熱材の原料、それから最新の美容品を無償で供給しなさいな。……さもなくば、今すぐこのパイプラインのバルブを閉めて、ここを元の冷凍庫に戻しますけれど?」

「なっ……!? 今ここを冷やされたら、我々は一瞬で凍死するぞ!」

「あら、自業自得ではなくて? さあ、選んでちょうだい。温かな自由か、それとも冷徹なプライドか!」

ネイビーの瞳が、かつての悪役令嬢時代を彷彿とさせる……いえ、それ以上に熱い「強欲」な光を放ちました。
アレン王子は、リリィの「もう暑くて無理ですぅ……」という泣き言と、ネイビーの冷酷な(でも体温は高い)微笑みに挟まれ、ついに力なくうなだれました。

「……分かった。認めよう。……お前の勝ちだ、ネイビー。……ただし、イグニス。その女に火傷させられないよう、せいぜい気をつけるんだな」

「……ああ、心配ない。慣れているからな」

イグニスは不敵に笑うと、ネイビーの腰を引き寄せました。
こうして、ネイビー・アルスターは、史上初、そして唯一の「冬を知らない北国の領主」としての地位を手に入れたのでした。

王子の馬車が(冷房代わりの魔石を大量に積み込んで)這々の体で王都へと去っていくのを、ネイビーは晴れやかな顔で見送りました。

「……終わりましたわね、イグニス様。これで誰にも邪魔されず、最高の越冬生活が送れますわ!」

「……越冬っていうか、お前の場合は一年中、常夏生活だけどな。……さて、仕事が終わったなら、少し休憩させてもらうぞ。……お前のせいで、俺の魔力も空っぽだ」

「あら、大変! すぐに私の部屋へいらして! お礼に、とっておきの『最高級・羽毛布団』の中へご招待しますわ!」

「……それは、お前が温まりたいだけだろうが」

文句を言いながらも、イグニスの顔には隠しきれない笑みが浮かんでいました。
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